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3度目の激震に怯えながら、恐怖の脱出劇【熊本大地震ルポ #12】

3度目の激震に怯えながら、恐怖の脱出劇【熊本大地震ルポ #12】

酒店の手伝い中、夕方の4時ごろだったと思う。Jから電話が入った。

「フクちゃんのマンション、損壊がひどいからもしかしたら赤紙が貼られるかもしれないよ。そうなったら立ち入り禁止になるかもよ。いまから荷物を運び出そう!」

赤紙とは、被災した住宅の状況を自治体が判断する「応急危険度判定」の張り紙のことで、赤色の紙は「立ち入り危険」、黄色は「要注意」、緑は「調査済み」で立ち入りに問題がないと判断されたものだ。

この時点では、張り紙の本当の意味を私もJも、他のみんなも把握しておらず、赤紙が貼られたら「立ち入り禁止」だと思っていた。本当は「立ち入り禁止」ではなく、「倒壊の恐れがあるので注意してください」という注意喚起のお知らせなのだ。とにかくいろんな情報が交錯し、混乱していた。

とりあえずの身の回りのものしか持ち出さなかった私は、もし「立ち入り禁止」になったら困る。手伝いにきていた20代の女の子に、「印鑑とか通帳とかパスポートって、やっぱり持ち出したほうがいいのかな」と聞いてしまい、「それこそ持ち出すものでしょ!」と失笑された。緊急時はなぜか「若さ」に頼ってしまうものなのだなと思った。私は、手伝いを途中から抜けて、新町へと戻った。

実はここからの作業が、地震の次に恐怖体験だった。

揺れにおびえ、進まない梱包

マンションの外壁には1階から最上階の12階まで縦ひびがまっすぐ入り、一階部分の柱はコンクリートが剥がれ、鉄骨がむき出しになっている。その鉄骨はあきらかに曲がっているのだ。エントランスの壁は崩壊し、管理人室とエレベーターホールは天井板が抜け、謎の水漏れ。まるで廃屋のようだった。

ただ、地震後から止まっていたエレベーターが、この日は復活していたことだけが幸いだった。Jは「エレベーターが動いているから、この際、家具家電以外は全部運び出そう」と言った。

10階の部屋に土足のままあがり、Jが用意してくれた段ボールに、仕分けもせずにとにかく荷物を詰めた。服類は畳まずに押し込めるだけ押し込んだ。いつ3度目の激震がきてもおかしくないのだ。時間との勝負。まるで映画の『夜逃げ屋本舗』のように緊張感が走った脱出劇だった。

1度目の地震のあと、本だけは梱包していたので「残りは2時間くらいで、梱包と搬出ができるだろう」と思っていたのだが、どこから沸いてくるのかと思うほど、荷物が出てくる。その間にも大きな揺れが何度も襲ってきた。緊急地震速報のあの不快な音が鳴るたびに私は慌てふためき、床に散乱していた衣類に足をとられて転んで、無駄に出血してしまった。

夕方5時から作業をスタートさせたが、4時間経ってもまだ半分くらいの荷物しか片づかない。心が何度も折れそうにな無口になりがちな私に、Jは「頑張れ、頑張れ」と声をかけた。

夜9時ごろ、Jの友人F氏が上天草から応援にきてくれた。男手がふたりになったところで、スピードががぜんあがった。

作業中に、F氏の奥さんから心配の電話がかかる。私の荷物のために、人さまの命、しかもふたりの命を危険に晒していることを、本当に申し訳なく思った。作業途中、前震・本震クラスの激震がきたら、エレベーターのなかにJやF氏が閉じ込められたり、大けがするかもしれないのだから。

F氏は天草でシーカヤックのガイドをされている。今回の地震では、同じ熊本県でも天草地方は被害がほとんどなく、いつもと変わらない生活を送れているらしい。しかし「熊本地震」ということでお客さんのキャンセルが相次いだようだ。「暇だし、全然気にしないで。それにこのくらいの揺れ(震度4くらいの余震がたびたび起った)、荒れた海に比べたらたいしたことないっすよ」とF氏。

梱包と搬出が終わって、マンション下に降り立ったときは心底ホッとした。自営業をしているJの事務所に荷物を運ぶために、二台の車を走らせた。14日の地震後よりも、あきらかに道路がさらに盛りあがっている。ダートレースのように車が何度もバウンドしては左右に揺れた。

無事に事務所に荷物を下ろしたあと、「お礼にごはんでも」と思ったのだが、時計を見ると午前0時に近い。F氏を心配して待っている、上天草の家族のもとへ早く戻さなくては。なにせ帰り着くまで1時間半もかかるのだ。F氏は「落ち着いたら天草に遊びにきてくださいね〜」と笑顔で帰っていった。

あれから三週間が経ったいまでも、まだF氏に(そしてJにも)このときのお返しをしていない。

撮影/福島はるみ(阿蘇・米塚。とても美しい山です)

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福島はるみ

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