会議室へ入るなり、「カフェグローブの読者は何に興味を持ち、どんな悩みを抱えているのか」と、取材者へ逆インタビュー。

マーケターらしくスタートした取材のお相手は、ジョンソン・エンド・ジョンソン コンシューマー カンパニーのマーケティング本部・本部長リュウ シーチャウさん。

みずからを難しい道へ進める。そんなキャリアを伺った。

学生時代からビジネス感覚を養う

中国で生まれ育ったリュウさんだが、大学から留学したいと思い立ち、治安の良さや距離の近さから日本を選んだ。一橋大学の留学生入試に晴れて合格した後、日本で母親と暮らしていたリュウさんに驚くべき出来事が待ち受けていた。

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「母から30万円を札束でポンと渡され、『入学費と学費は出すから、それ以外はそのお金でどうにかしなさい』と言われたんです」

「どうにかしなさい」とは、母親と2人で暮らしていた家を出ろということ。一人っ子で世間知らずだった娘を思う母の"荒療治"だった。

一人暮らしのスタート時はアルバイトをしてもお金が貯まらず、もやしばかりを食べて暮らしたこともあったとか。ところが、徐々にビジネスセンスが光りはじめる。

「大学生のとき、日本の漫画を中国語に訳す仕事を依頼されたことがありました。私ひとりにできる量には限りがあります。それならと、翻訳できるスタッフを集めて進行と人員管理をし、私が翻訳料の一部をもらえるように交渉して......」

そのほか、ビジネスサークルやコンサルティング会社などのインターンでスキルを重ね、家庭教師などでお金を稼ぐ。4年生のときには、大卒でもらえる初任給以上の収入を稼いでいたという。

「卒業後はP&Gのマーケティング部へ入りました。1年目は失敗続きでしたが、2年目から少しずつ自分のダメなところがわかるように。ところが3年目、上司からのフィードバックで『君に足りないのは結果だ』と言われたんです」

何ごともうまくやっているという評価だったにもかかわらず、結果が出なければそれまで頑張ってきたことが「台無し」になる。そんな経験を味わい、仕事に対して満足度や達成感を得るためには、「結果」も大切にしなくてはならないと知った

当時の仕事に不満があったわけではないが、チャレンジ精神を抑えられない。そして「ここなら大きな結果を出せそう」と感じた商品とブランドに出逢い、転職を決意する。

結果にこだわり、売上を2倍に

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リュウさんが手がけたいと思ったブランドは「ドクター・ショール」。結果にとことんこだわり、2年間で売上を2倍以上にした。

「当時の組織がフレキシブルな体制だったので、選択肢が多く、難しい面がありました。たとえば、海外の本社からの指示が日本のビジネスに合っていないような場合、日本の市場に合うように本社と交渉します。日本で製品を開発したり、組織を作ったり、たくさんの新しい事例をつくりました」

初めての施策にチャンレジし続け、結果を出してきた。そのなかには失敗もたくさんあったという。失敗については、持論があるそうだ。

「失敗には2種類あると思います。『自信はないけどやるしかない』と惰性で進めた場合と、『誰もやったことがないけどやりたい』という気持ちで一生懸命やった場合です。前者で失敗したら、自分を責めてしまうので絶対避けたい。後者は、自分もチームもよく頑張っていますから、失敗しても納得できます」

めざましく成長したブランドの立役者となったリュウさんに、他社からのヘッドハンティングがあった。

「伸ばせそう!」という直感

ヘッドハンターから紹介された会社は、ジョンソン・エンド・ジョンソン。社長と面接した際に商品やビジネス全体の状況を説明されると、「私ならこんな風にして、ビジネスを大きくしたい!」と次々にアイデアが思い浮かんできたという。

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「前のブランドは軌道に乗ってきていたので、とても迷いましたが、転職するほうが自分にとってチャンレジが大きいと思ったんです。より難しいほうを求めるのは、成長したいのもありますが、もっとシンプルに『おもしろそう』という理由が大きいかもしれません」

2015年の6月、バンドエイド®やリステリン®などを扱うコンシューマー カンパニーのCMOに就任。現在までに取り扱う全ブランドでシェアを伸ばすという驚異的な活躍ぶりだ。

「たとえば、リステリンはシェア2位が続いていましたが、今年初めて月間ナンバーワンを獲得しました。すでに歯周病などを気にしている人ではなく、マウスウォッシュに潜在的な興味を持つ層に向けたキャンペーンを展開したのです。

ほかにも、他社が似たような価格帯で展開しているボディクリームの分野で、ニュートロジーナのブランドを刷新。高価格帯を狙い、より高い保湿効果を打ち出してシェアを昨年比で大きく伸ばしています。

また、全商品でテレビCMを展開していましたが、効果のある商品だけに絞ったのも新しい試み。ジョンソン® ベビーオイルでは、美容に使う方法をウェブで紹介し、YouTubeやSNSと連動して、口コミを広げたりもしました」

それぞれのブランドで、特性に応じた施策を投じている。必要な人はすでに使っている商品だからこそ、興味のなかった人にアプローチしてきた。

マーケティングの施策だけでなく、人や組織の育成にも情熱を持って関わる。リュウさんのチームは9割が女性。「彼ができたり、子どもができたりするのは当たり前」だと考えている。

「『妊娠しました』というニュースを申し訳なさそうに言われたこともありますが、まったく気にしなくていい、と返します。私にしてみれば、それはその人に、成長してもらうチャンス。妊娠がわかってから産休に入るまでに、仕事の"量"ではなく"責任"を与えると、メリハリなく働くより、よほど質の高いパフォーマンスを出してくれます。ニュートロジーナを成功させたブランドマネジャーも、妊娠中にすごいパワーを発揮して、ビジネスの成長につなげる成果を出してくれました」

人を信頼し、人に任せる。マーケティングがうまくいったのは「チームの皆さんが優秀だから」「チームのおかげ」と言う。人との関わりを大切にしているため、一日のうち多くの時間を部下のトレーニングやミーティングにあてている。それほど、コミュニケーションの優先度を高めているのだ。

「組織を作るのが好き」というリュウさんは、今後も組織のリーダーとして活躍していきたいという。自分が納得できる失敗と、そこから生まれる成功。さらには、より険しい道を求めて。

リュウ シーチャウ

株式会社 ジョンソン・エンド・ジョンソン コンシューマー カンパニー マーケティング本部 本部長。
在学中に、10社以上のベンチャーでインターンを経験。卒業後、外資系一般消費材メーカー2社のマーケティング部を経て、2015年に入社。現在は、コンシューマー カンパニーにおける全ブランドのマーケティング戦略やマーケティング組織づくり、マーケターの人材開発などを担当。


撮影/土佐麻理子