「あまり人前に出るのが好きではない」という木村裕子さんは、ドラッグストアなどを営む一本堂で、ラボーテワン営業部の部長代理を務める。

『ラボーテワン』とは、顧客一人ひとりに合ったコスメとサービスを提供するコンセプチュアルなセレクトショップ。木村さんが中心となり、都内で計3店舗(現在は2店舗)を立ち上げた。

ドラッグストアの店員から、バイヤー部門へ

大学を卒業後、当時急成長を遂げていたドラッグストアの一本堂で働きはじめた木村さん。最初は店舗スタッフとして、接客やレジ打ちなどを担当していた。1年が経ち、店長が医薬品のバイヤーとして本部に転属になったのをきっかけに、木村さんもバイヤーのアシスタントとして本部配属になった。

男性ばかり3~4人のバイヤーに対し、事務職は木村さん1人。男性社会の中での苦労はなかったのだろうか。

「当たり前だと感じていたので、辛いとは思っていませんでした。ただ、誰も頼れないので、仕事は自分との戦い。かかってくる電話にはすべて出て、わからないことがないように、気を張っていました」(木村さん)

それでも、日に日に疲弊していたのかもしれない。職場の人間関係の悩みもあって、当時専務だった現在の社長に、「退職金はいらないので、すぐに辞めたい」と告げた。事務職になって5~6年のことだ。

「辞める相談をしているのに、その場で『ちょっと、バイヤーやってみれば?』と言われたんです」(木村さん)

突然バイヤーになり、値段交渉に四苦八苦

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当時の専務から突然提案された別の道。反射的に「やる気ないです」と答えたものの、説得されてひとまずやってみようと考えた。

ドラッグストアのバイヤーは厳しい仕事だ。値段を比較すれば、「他店の方が安く仕入れている」とすぐにわかってしまう。一本堂では、店舗ごとの売り上げ目標やキャンペーン、棚割などの広い範囲がバイヤーの仕事。季節ごとの特売など、常に締切に終われていた。

「仕事に翻弄されている中で、ある日『"うつ"のようですけど自覚ありますか?』と言われたんです」(木村さん)

そう言ってくれたのは、漢方薬局の薬剤師。思い返してみると、高い場所に立ったとき「ここから落ちたら死ねるかな」と想像したこともあったという。自分の弱さを知った瞬間だった。

その後、漢方に頼りながらこれまでと同じ業務を続け、さらに週末は学校に通って漢方の資格も取得した。

「それまではメンタルについてあまり意識していなかったのですが、会社の女性たちを見回してみると、心配な子がたくさんいる。多くの女性社員が、私と同じような悩みを抱えているのではないか、と思ったんです」(木村さん)

漢方の資格を通して女性たちの役に立ちたいという思いもあり、また、担当している商品がコスメ系であったことなどから、女性社員の教育も任されることになった。販売員へ売り方の講習をしたり、キャリアパスなども用意した。

新コンセプトのお店『ラボーテワン』をオープン

そんな折、ひょんなことから、目黒に新店舗をオープンすることになり、責任者に任命された。事情があり、これまでと同じ業態ではなく女性向けの新たなコンセプトを設定する必要があった。さらには、オープンまではたったの半年......。無理難題とも思える社長からのオファー。

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「ラグジュアリーブランドなどのメーカーへ次々に飛び込み、交渉を重ねました。『どうせ安売りするんでしょ』と厳しい言葉をいただいたことも......。日ごろのドラッグストアへの恨みもあってか、2時間お説教されたこともあります。ただ、最初に厳しく言ってくださったメーカーさんほど、あとあとよい関係が築けています」(木村さん)

自信を持ってすすめられる新しい商品を揃え、これまで実績のある売れ筋の商品を目立つよう陳列したセレクトショップ『ラボーテワン」。ところがオープンしてみても、「売れ筋」なはずの商品がまったく売れない。陳列に工夫したり、イベントも開催したが、鳴かず飛ばず。

木村さんは戦略を変え、客数ではなく客単価を上げようと試みた。

「顧客満足度だけを追求し、スタッフには『売らなくていい』と説明しました。売らずにお化粧直しだけをしてあげてもいいんです。ちなみに、社長とは大げんか(笑)。ただ、それからは売上にも手応えがありました。満足すると、お客さんはまた来てくださるんですね」(木村さん)

「売らなくていい」とは思い切った戦略。だが、すべて「お客様に教えていただいた」と謙虚に語る。その後、新たに2店舗をオープン。現在は、表参道と恵比寿にお店を構えている。

仕事に「好き」や「やりがい」を求める暇すらなく、ずっと突き進んできた。インタビュー中も、「仕事が好き」とは決して言わない。ただし、休暇の過ごし方に話を移すと「土日のどちらかは仕事をしていたい」とぽろり。気づかないうちに、好きな仕事にたどり着いていたのかもしれない。

会社のため、スタッフのため、メーカーのため、顧客のため......。「今後は、自分のためにもっと時間を使いたい」と言うが、誰かのために力を発揮する姿は、とても眩しい。

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木村裕子

株式会社一本堂 ラボーテワン営業部 部長代理。新卒で一本堂へ入社。店舗の販売員を経て、バイヤーアシスタントを経験した後、コスメブランドなどを担当するバイヤーへ。女性社員の教育プログラムも担当。ラグジュアリーコスメブランドを多数扱う店舗『ラボーテワン』をオープンし、現在2店舗を管理する。

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