社内のメンバーから「みおさん」と呼ばれ親しまれている、リクルートスタッフィング代表取締役社長の柏村美生さん。竹を割ったような性格と、言葉を大切にして伝えていく情熱、自分をさらけ出せる強さを兼ね備える。

リクルートで新規事業を任された20代から現在に至るまで、柏村さんにとって大きな転機となったできごとを語ってもらった。

成功体験に縛られてしまった中国での新規事業

新卒からリクルートで働いていた柏村さんは、29歳のときに新規事業を任されることになる。社内で新事業を提案できる制度があり、中国をターゲットとしたプランが採用されたのだ。内容は、日本で好調だったメディアビジネスのゼクシィを、中国でも展開すること。リクルートとしても、海外事業は初めてだったという。

数人のメンバーと調査で中国へ渡り、地元の女性たちに日本の雑誌を見せると、目を皿のようにして見入っている。当時の中国は、それほど新しい情報に飢えていた。「価値ある情報は間違いなく受け入れられる」と確信した瞬間だった。

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「中国で集めた現地メンバーと、日本での成功をもとにして事業を進めていきました。事業に携わっていた間、2回中国へ駐在したんです。1回目の駐在で、ビジネスの方向を固めたつもりでした。ところが1年半後に行ってみると、これまでのビジネスモデルが通用しなくなっている。冷静に見て、失敗だと思いました」

紙の雑誌で成功した日本と、雑誌を飛び越えてウェブ化した中国では、同じビジネスモデルがあてはまらなかった。最終的に、現地パートナー企業に経営を委ね、マイナー出資に切り替えた。

「ただ、その経験によって2つのことを学びました。ひとつは、成功体験に縛られてはいけないということ。中国の企業や文化をもっと勉強するべきだったんです。もうひとつはマネジメント。日本人と中国人では文化が違うので、わかり合えない部分もあります。でも、そもそも日本人同士でも、相手をわかった気になるなんておこがましい。他人のことはわからないものなんだと割りきれるようになりました」

任せるマネジメントから、頼るマネジメントへ

中国での学びを活かしマネジメントの方法を変えたという柏村さん。具体的には......?

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「それまで、仕事を任せるためには相手を完璧に理解しなくてはならない、と思っていました。でも、そんなことできるわけがないんです。いまはお互いの"でこぼこ"を見せあった上で埋め合わせる"頼るマネジメント"を心がけています」

成功体験に縛られず、自分の足りない部分をさらけ出す。失敗から得た学びを存分に生かしたのが、次に任されたホットペッパービューティーの事業だった。

「過去の実績や成功に縛られず、"未来に仕事をつなぐ"ことにチャレンジしました。自分が対峙する市場である美容業界が元気になるよう力を入れたのです。美容院などは、典型的な労働集約型のビジネス。接客以外にも、人事などの業務に追われ、オーナーさんの負担になっているケースが多い。そのため、無料で予約管理システムを開発し、提供しました」

そのほかにも、高齢者や障がい者などの美容院に行けない人たちをサポートする訪問美容の分野にも進出。訪問美容に取り組むNPOとパートナーシップを結ぶなど、未来を見据えた取り組みを進めた。任された3年間で、事業規模はスタッフの数にして3倍にも増大した。

すべての人に役割のある社会へ

「青天の霹靂でした」という辞令が下ったのは、2016年の4月。人材派遣会社リクルートスタッフィングの代表取締役社長というポスト。ところが、周囲の人たちからは「ど真ん中だね」と言われたのだとか。

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「学生のころに障がい者支援をしていて、『すべての人に役割のある社会を実現したい』と思っていたからかもしれません。就任して1年、対峙するマーケットも違うし、共に仕事をする従業員の数も違いますが、やるべきことは基本的に変わらないと感じています。いまは、働き方改革が叫ばれ、日本の労働市場が次のステージへ向かうとき。派遣という働き方が、未来につながるひとつのピースになれれば」

「すべての人に役割のある社会」「頼るマネジメント」「いまを未来につなぐ」など、確固とした言葉を持ち、何度も繰り返す柏村さん。言葉を大切にしているのは、いつからなのだろうか。

「障がい者の方と触れあった経験が大きいかもしれません。学生時代、就職活動がうまくいかなくて、筋ジストロフィーの方の車椅子を押しながら愚痴っていたことがありました。その方に『僕には無限大の可能性があると思っている。障がいを持っていない君がなぜそんなことで悩んでいるのかわからない。君には無限大の可能性があるのに』と言われたんです。その言葉にすごく勇気をもらって、言葉には力があるのだと実感しました」

もちろん、辛いこともあるが、「反省はしても落ち込まない」がモットー。忙しい日々の合間に取り組むヨガや、愛犬とのふれあい、無心になれる料理などは、張り詰めた気持ちを助けてくれる。さらに照れながら話してくれた一番の趣味は、銭湯めぐり。地域のコミュニティを感じたり、リラックスしたりする空間として昔から通っているそう。

むやみに飾らず自分をさらけ出す柏村さんが、裸で入る銭湯が好きというのは、偶然なのだろうか。「すべての人に役割のある社会」を言葉どおり実現させるため、チャージしたパワーで邁進していくのだろう。

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柏村美生

株式会社リクルートホールディングス 執行役員/株式会社リクルートスタッフィング 代表取締役

1998年にリクルート入社。2004年には上海瑞可利広告有限公司 運営総監に就任。その後、ポンパレ、ホットペーパービューティーの事業拡大の担い手となり、2012年には株式会社リクルートライフスタイル 執行役員 美容情報統括部長に。2015年株式会社リクルートホールディングス 執行役員(現任)、2016年株式会社リクルートスタッフィング 代表取締役に着任。

撮影/柳原久子