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アカデミー賞『セールスマン』のイラン女優、授賞式ボイコットの想い

アカデミー賞『セールスマン』のイラン女優、授賞式ボイコットの想い

2月に開催されたアカデミー賞授賞式前の1月に、トランプ大統領がイスラム圏特定7か国の国民を90日間入国禁止にしたことを覚えているでしょうか?

この大統領令に抗議するために、イランから招待されていた映画『セールスマン』のアスガー・ファルハディ監督と主演女優のタラネ・アリドゥスティは、アカデミー賞授賞式をボイコットすると表明し、大きな話題になりました。

授賞式にこそ出席しませんでしたが、本作はアカデミー賞外国語映画賞を見事受賞。

そんな注目の女優、タラネ・アリドゥスティさんが先日来日し、6月7日に渋谷の「ユーロライブ」で国際政治学者の三浦瑠麗さんとトークイベントに登壇した模様をレポートしたいと思います。

人間の"ズレ"を描く心理サスペンス『セールスマン』

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作家アーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』の舞台稽古に励む夫婦。

教師をしながら夫はちいさな劇団で妻と一緒に俳優としても活動しています。ある日、夫の留守中に妻が何者かに襲われてしまいます。警察に通報しようとしない妻に苛立ちながら、夫はひそかに犯人捜しをはじめますが......。

演劇と事件、夫婦の"ズレ"がスリリングにもつれ合い、物語は思いもかけない結末を迎えます。

規制に引っかからず、イラン国内でも高い評価を受ける

三浦さん「イラン社会における性犯罪というセンシティブな部分を描いた作品ですが、どう演じましたか?」

タラネさん「この話がきたときに戸惑いもなく受け入れました。イランでも、もちろん上映していて、たくさんの方が観てくれました。みなさんもご存じだと思いますが、イランで映画を上映するときはかならず検閲を受けなくてはいけないんです。しかし、この映画はそのまま上映することができ、高い評価を受けたのですよ」

1979年のイラン革命後、それまで脱イスラム化と近代化政策を取り続けていたイランに対し、当時の指導者であるホメイニ師は、「文化のイスラム化」を決行。

現在も、文化イスラム指導省が、国内の映画製作から外国映画の輸入まで映画関係の全活動をコントロールしています。

これはイラン女性だけの問題ではない

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三浦さん「この映画で性犯罪の被害者の役を演じていますよね。性犯罪がイランでどのように描かれるのか気になっていました。妻のほうは被害にあったことを"恥"と感じ、一方、夫は自分の所有物である妻が汚されたことに怒りを感じていたように思いますが」

タラネさん「これはイラン女性の問題だけではないと思います。どんな国においても被害者の女性には『社会は性犯罪にあった私を受け入れてくれるのか』『私の話をちゃんと聞いてくれるのか』という不安が残ります。さらに、女性は被害者なのにも関わらず『ひょっとしたら女性のほうにも非があったのかもしれない』という風に世間から勘ぐられることもあります。この映画が公開された後、西洋諸国の女性にも同じような悩みがあると実際に聞きました。

この作品が伝えたいことは、ひどい事件が実際に起こってしまうと人は少しずつ、"自分がなりたくないと思っていた人間"になっていく、ということなんです」

今のテヘランは、1940~50年代のニューヨークに似ている

三浦さん「本作では女性が嘆き悲しむシーンが出てきますが、とても本能的で感情を露にしていますよね。これは我われがモダンになりきれない、プレモダンな部分もあるということだと思います。

その反面、性犯罪が起こったときにその犯罪を忘れてしまおう、と理性的に判断している部分もあります。監督は、人間にはさまざまな面があるということを描きたかったのかな、と思ったのですが」

タラネさん「本作はアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』を題材としているのですが、この戯曲は1940~50年代のニューヨークが舞台で、ハイスピードで近代化しているアメリカ社会を描いていて、今のテヘランに似ているのです。

『セールスマンの死』に出てくる夫婦は、夫が夢を追いつづけ妻をかえりみないのにも関わらず、妻は夫を信じて待ちつづけます。

この夫婦をメタファーにしたような夫婦の関係が映画にも出てきます。脚本を読んだときに、これら2つの世界が交差する監督の視点がとてもおもしろいと思いました」

アカデミー賞授賞式ボイコットについての想い

三浦さん「トランプ大統領が発令したイスラム国家7か国の入国制限に抗議し、アカデミー賞授賞式のボイコットをTwitterで表明して、大きなニュースになりましたね。そのときの想いは?」

タラネさん「トランプ大統領が就任する前は、イランとG7諸国は長年の話し合いを経て経済制裁も解除され、これからのイランは国際的にも経済的にも安定するとイラン国民は安心していました。ところが、トランプ大統領が就任したあと、また経済制裁を受けるのではないか、戦争が起きるのではないかとイラン国民は不安になったんです。

そんなときにトランプ大統領が入国禁止令を発表しました。同時に、わたしたちの映画『セールスマン』から監督や俳優がアカデミー賞授賞式に招待されるかもしれないと聞いたのです。入国禁止令が突然発令されたとき、アメリカに今まさに入国しようとしていたイラン人もいました。

そういった人たちが空港で足止めになっている映像を見たときに、『自分だけが美しいドレスを着て、レッドカーペットを歩くことは許されない』と思いました。わたしは女優だからといって特別じゃない、わたしもイラン人なのだから」

憂いを含みながらも、芯の強い眼差しできっぱりと答えたタラネさん。

「今は素晴らしい時代です。遠くの国の文化を映像で見ることができ、映画や芸術を通じてもっとおたがいに近づくことができます。みんながそれぞれの文化を知り、心を知り、近づいていければ平和な世界になると思います」

爽やかなパステルイエローのヒジャブに包まれた優美な佇まい、そして、穏やかながらも自信に満ちた口調にイラン女性のエレガンスとパワーを感じました。

男女における"ズレ"、世代における"ズレ"、自分の心の"ズレ"など、さまざまな形の"ズレ"がこの作品では表現されています。

多様な現代のイランの姿、そして普遍的な人間の姿を『セールスマン』から読み取れるのではないでしょうか?

タラネ・アリドゥスティ

1984年1月12日、イラン・テヘラン生まれ。ラスール・サドレアメリ監督作『私は15歳(I am Taraneh, 15Years)』(2002・未公開)で女優のキャリアをスタートし、ロカルノ国際映画祭にて主演女優賞を受賞。他にベルリン国際映画祭NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞したマニ・ハギギ監督作『Modest Reception』(12・未)などに出演する。 アスガー・ファルハディ監督とは『美しい都市』(04・未)、『火祭り』(06・未)、『彼女が消えた浜辺』(09)でも組んでおり、本作が4本目の出演作となる。またニコール・クラウス著書『ハウス・オブ・ラブ』とアリス・マンロー著書『My Mother's Dream』を英語からペルシャ語に翻訳するなど幅広く活躍している。

三浦瑠麗

1980年生まれ。東京大学政策ビジョン研究センター講師。専門は国際政治、比較政治の理論研究。政治イデオロギーの不毛な左右対立を乗り越えること、コンパッションの思想が必要と説いている。フジテレビのインターネット配信『ホウドウキョク』「FLAG7」で木曜アンカーを2015年から務めている。NHK「日曜討論」「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」「橋下×羽鳥の番組」、フジテレビ「ワイドナショー」など出演多数。博士(法学)。共同通信・「報道と読者」委員会第8期委員(2015年8月より)、読売新聞読書委員(2017年1月より)。受賞に、自民党総裁賞、高橋亀吉記念賞、佐藤栄作賞など。近著に、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『国家の矛盾』(高村正彦・三浦瑠麗共著、新潮新書)がある。

セールスマン

監督・脚本:アスガー・ファルハディ 出演:シャハブ・ホセイニ/タラネ・アリドゥスティ 公式サイト:www.thesalesman.jp配給:スターサンズ/ドマ 2016/イラン・フランス/124分/ペルシャ語/ビスタ/原題:FORUSHANDE/字幕:齋藤敦子6月、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー

此花さくや

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