グーグル日本法人の専務執行役員CMOであり、2児の母でもある岩村水樹さん。執筆や講演の機会も多く、さぞかし目の回るほどの忙しさかと思いきや「家族との時間が一番楽しい」「夕方5時以降はできるだけ予定を入れない」と、プライベートも大切にしている。そんな岩村さんの価値観や、キャリアに対する考え方を伺った。

20170705_career_profile.jpg岩村水樹(いわむら・みき)さん

グーグル 日本法人専務執行役員CMO兼マネージングディレクターアジア太平洋地域ブランド&マーケティング。2007年グーグル入社。テクノロジーで女性を支援するアジア太平洋地域発のイニシアチブ"Womenwill"およびWomen@Google Japanファウンダー。Womenwillの活動に加え、経済同友会「人材の採用・育成・登用委員会」副委員長として働き方改革に取り組む。著書に『ワーク・スマート チームとテクノロジーが「できる」を増やす』(中央公論新社)。

完璧を求めるより、強みを生かして付加価値を出す

東大を卒業して電通に入社し、その後スタンフォード大学でMBAを取得した岩村さん。留学当時の経験は、今思い返しても価値観を変える大きなできごとだったという。

学生がみんな目的を持ち、新しいことを生み出したいと思って集まってきている環境で、肩書きなどに捕らわれない価値観が新鮮でした。また、インターネットとの出会い、テクノロジーやイノベーションの文化にも衝撃を覚えました。ただ、苦労したのは、英語がわからなかったこと。それなりにできるつもりだったのですが、なまりのある教授や、各国から集まったいろいろな英語を話す生徒の言葉が聞き取れず、最初は大変で......。そこで、完璧にわかろうとするより、自分なりの付加価値を出すように気持ちを切り替えました

そのなかでどう自分なりの付加価値をつけられるか。電通での経験を生かしたマーケティングの知識を軸に、他の生徒にはない観点で発言できるよう努めた。

帰国後は、コンサルティングファームやベンチャー企業の経営、ラグジュアリーブランドのブランドマネージャーなどを経て、グーグルへ入社する。スタンフォード大学で衝撃を受けた、インターネットやテクノロジーの分野に飛び込むことになる。

できないことは「明るく」諦め、人に任せていく

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グーグルは、岩村さんがそれまでに働いてきた環境とはまったく違っていた。

「ビジネスに対する考え方が、私には衝撃的でした。これまでは、プロジェクトの完成までの工程を計画・把握してすすめるスタイルだったのに対し、グーグルではスピード重視大きい目標やイノベーションのために、『小さくスタートする』『そこから学び、次に反映する』という発想だったのです。また、社員が自律的に動き、主体性を持って成果につなげていくカルチャーがありました」

衝撃的だとする進め方にも、岩村さんはすぐに馴染んだという。本来の資質がグーグルの文化に合っていたのと共に、変化に順応する力が高いのだろう。

働く環境の他に、プライベートでも大きな変化があった。なんとグーグルに入社したのは、第一子が生まれた直後。子どもを育てながら働く初めての職場だったのだ。

「それまでは、自分で決めてどんどん進めていくタイプ。ところが、子どもが生まれて仕事と家庭の両方をすべて自分でやりきることはできないとわかりました。そこであくまでも『明るく』諦めて、人に任せるようにしていったのです

新たな環境で、自らの経験から得た価値観や考え方を他のメンバーにも伝えたい。働く女性の助けになるようにと考えたのが「チームを家族に、家族をチームに」という言葉だった。

この言葉には、チームのメンバーを家族のように慕う、さらに、家族をチームとして考え、力を合わせるという気持ちが込められている。社内のコミュニティで話したり、講演などでもよく使うキーワードだ。伝えたいことを覚えてもらうために、難しい言葉でなく優しい言葉を使うように心がけているという。

意義のあることでも、やり過ぎては継続できない

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子育てをしながらも、精力的に働いていた岩村さん。ところが、大きな反省をするできごとが起こる。

「仕事がとてもおもしろくて、子どもが寝た後に深夜まで働くこともしばしば。その後震災が起き、被害に遭われた方のためにできる限りのことを進めようと、チームも私もさらにハードワークに。社内の意識調査で、チームメンバーのウェルビーイングの評価が大変低くなってしまいました」

ウェルビーイングとは、心身ともに良好な状態であるということ。仕事にやりがいを感じて長時間働いたために、「良好」とはいえない状態になってしまったのだ。

「意義がある仕事とはいえ、これでは継続ができません。メンバーのケアができていなかったと大いに反省し、チームで改善策を練りました」

自身は辛かったのかと聞くと、「私は......」と首をかしげる。

日本の働き方に大きなイノベーションを

岩村さんの想いはいまや、チームだけに留まらない。日本で働くすべての人へと広がっていく。

ワーキングマザーとして働いているグーグルでの経験や、チームのウェルビーイングに向き合った経験を踏まえて、『働き方』の重要性に気づきました。そこで、ワーク・スマート&リブ・ハッピーというコンセプトのもと立ち上げたのが、Womenwillの働き方改革プロジェクト。さらに、個人的な経験や、Womenwillのプロジェクトから学んだことを自著にもまとめています。

ずっと日本で働いてきて、美しい文化やものづくりの力を感じていますが、もっと世界に出していって、イノベーションに繋げられたらと思うのです。実現する鍵となるのは、働き方を変えていくことではないでしょうか。『いろいろな人』が働き続けられる環境こそ、多様な価値観を生み、イノベーションに繋がると思っています。たとえば、女性がもっと活躍することで加わる視点はそのひとつ。さらに、同じ女性のなかで国籍もバックグラウンドも異なるさまざまな人がいます。それは男性も同じ。そうした多様な人々が働けること(ダイバーシティ)が、イノベーションに貢献すると思うのです

グーグルが日本の働き方改革のために取り組んでいる「Womenwill」や、中小企業やスタートアップのデジタル化をサポートする「Innovation Japan」など、岩村さんの活動は多岐にわたる。「悩むことはあるけど、落ち込むことはない」という明るいパワーとリーダーシップで、日本の女性や働き方に大きなイノベーションが起こる日は近いのかもしれない。

Q. お気に入りの化粧品は?

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「熊野筆」の化粧筆。

Q. 現在読んでいる本は?

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Anne-Marie Slaughter著『Unfinished Business』。著者は、米国務省を子育てのために辞職した女性。

Q. ファッションのこだわりを教えてください

相手の人にとって気持ちがよく、自分も楽しいこと。

Q. 必需品は?

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Googleカレンダーのアプリ。出先でビデオ会議(Google Hangout)に参加するときに欠かせないイヤフォン。

Q. 1か月の休みがあったら何をしたいですか?

家族を連れて、世界の歴史を巡る旅に行きたい。

撮影/柳原久子 取材・文/栃尾江美