アイルランド・クレア州に住むギアロイド・マニオンさんと妻のミシェルさんにとって、自閉症の息子たち、コナーくん(9歳)とダラーくん(7歳)を連れての空の旅は、悪夢以外の何ものでもない。

空港の騒音、人混み、絶え間ないアナウンス、いずれも子どもたちには堪え難いものだし、荷物検査場や搭乗ゲートでなぜ列を作って待たなければいけないのか、彼らには理解できないからだ。

「すぐに顔を真っ赤にして、走り回ったり、泣き叫んだりしてしまうんです。出口に向かって一直線に駆けて行くこともあります。とにかく家に帰りたくなるんですね」と、ギアロイドさん。

しかし、先日、スペイン・マラガへの家族旅行で、アイルランドのシャノン空港を利用した時の経験は、一家に大きな希望を与えてくれた。同空港が、自閉スペクトラム症(ASD/自閉症、アスペルガー症候群などを含む発達障害)の乗客も快適に施設を利用できるサービスを開始したと知ったギアロイドさんは、事前にカスタマーサービスに問い合わせたのである。

新コンセプトのラウンジ「センソリールーム」

チェックインの際、ASD患者が一緒であることを示すリストバンドとオレンジ色の帽子を渡された一家は、荷物検査場の行列を飛び越えて先頭へと優先され、そして、コニーくんやダラーくんのように神経が過敏な人が寛げるよう配慮された新設のラウンジ「センソリールーム」に向かった。

この部屋は、外部の音を遮断する防音仕様で、波打った壁や色が変わるLEDライト、ビーンバッグチェアなどのインテリアが、明るく落ち着いた雰囲気を醸し出す。さらに搭乗の際も一番最後に案内され、列に並ぶ必要がなかった。ギアロイドさんは「これまでとは違い、実に楽でした」と話す。

行列や騒音など刺激が少ない空間を

ASD患者をサポートする試みを始めた空港は、シャノン空港だけではない。世界各地の航空会社や空港で次々と同様のサービスが導入されている。アメリカではワシントンを本拠地に、知的障害や自閉症を含む発達障害の人々の福祉向上に向けた活動を行う団体「アーク」が、こうした動きを主導している。

ASD患者支援サービスが活発になっている理由の一つに、ASDと診断される患者数が増加していることがあげられる。アメリカ疾病予防管理センターの調べによると、アメリカだけでも68人に1人の子どもがASDであり、2002年から2010年の間、ASDの子どもは年平均6〜15%の割合で増え続けている。

シャノン空港がセンソリールームの開設や特別サービスを始めたのは、ASD患者が日々空港を利用するからであり、そのつど彼らが大変な思いをしているからだと、広報担当のナンディ・オサリバンさんは話す。「ASDの方々が動揺し叫んでいる姿をみて、もっと快適に過ごしていただけるようにしたいと私たちは思ったのです」

デルタ航空は、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港やアークと協力して、昨年、同空港内にセンソリールームと似たラウンジをオープンした。室内にはASDの子どもを安心させるおもちゃや、ミニ・ボールピット、ウォータースカラプチャーなどの遊具が揃っている。

音や人混みに極度に敏感なASD患者にとって、空港の環境は困難を伴うものと、ニューヨークにあるチャイルド・マインド・インスティチュートの精神科医でASDの専門家であるウェンディ・モーヤル博士は指摘する。

「ASD患者のように過度に刺激を受けやすい人々は、空港のせわしなく混雑した状態に激しい不安を呼び起こされるのです。同時に、ASD患者は社会的コンテクストの理解に限界があり、フラストレーションに耐えることも苦手です。空港セキュリティの仕組みは彼らには不当に感じられるし、列に並んで待つのはとても苦痛なのです」

チェックインから搭乗までを模擬体験

アークはまた、アメリカの各地で、地元の運輸保安局や空港、航空会社からなるチームの協力を仰ぎ、空港施設を通って飛行機に乗るまでの模擬体験ができる予行演習イベント「自閉症の翼」も開催している。

場合によっては、参加者を乗せた本物の旅客機が滑走路を走るところまで行われるという。今年は、ニューヨーク・ラガーディア空港やワシントン・ダレス国際空港を含む30の空港で開催する予定だ。

フライトに馴れることでASD患者が安心できるので、こうした訓練は大変効果的だとモーヤル博士も同意する。「心の準備をすること、環境になじんでおくこと、それが、ASD患者がより楽に旅行をするためのキーポイントです」

実際にイベントに参加した家族は、予行演習のおかげで自信がついたと話す。ジョージア州ワトキンズビルのバイツェル夫妻は、4歳の娘アビーちゃんと旅行するときはいつも自家用車を使ってきた。自閉症で言葉を発しないアビーちゃんが、飛行機に乗るのに耐えられないことを心配したからだ。

だが、この4月にハーツフィールド・ジャクソン空港で開かれた「自閉症の翼」に参加して以来、考えが変わった。「飛行機に搭乗するまでの過程をアビーと一緒に体験してみて、空の旅もありかもって思ったわ」と、母親のニコルさん。

「家族みんなで、いつかハワイに行ってみたいという夢があるの。叶うことはないと諦めていたけど、今年の終わりには実現するかもしれないって希望が湧いてきたわ」

© 2017 The New York Times News Service

[原文:At Airports, Making Travel Easier for Autistic Passengers /執筆:Shivani Vora]

(翻訳:十河亜矢子)

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