映画『恍惚』(2003)、『ココ・アヴァン・シャネル』(2009)、『美しい絵の崩壊』(2013)、『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014)など、社会のモラル、権威や男性に抗う女性を描き続けるアンヌ・フォンテーヌ監督(57歳)。

彼女がスクリーンに映しだす主人公たちは、常識にとらわれず自分の人生を切り開く女性が多い。今回は、いまやフランスの映画界を代表するアンヌ・フォンテーヌ監督に、人生での迷いや希望、そしてクリエイティビティについて語ってもらいました。

衝撃の事件を基にした真実の物語、『夜明けの祈り』

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8月5日に公開される『夜明けの祈り』は、先日日本で開催されたフランス映画祭2017でエールフランス観客賞を受賞し、フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞にノミネートされた話題作。

しかも、第二次世界大戦末期のポーランドで実際に起こった凄惨な事件を基にしています。1945年、ポーランドに駐留していたソ連兵がカトリック系修道院に押し入って修道女たちをレイプし、7人の修道女が妊娠するという痛ましい実話を、女性ならではの視点で描いています。

絶望の淵に立たされたとき、まずは現実を直視する

此花:作中の修道女のようにショッキングな事件に遭っていなくても、「出口がみえない」という悩みは誰もが経験したことがあると思います。

フォンティーヌ監督:「暗闇のなかに取り残されたような絶望に陥ることは、誰でもあります。孤独、そして孤独から生まれる苦しみ......自分がどうしたらよいかわからない、というのは、自分が置かれている現実を直視していないときじゃないかしら。だから暗闇に陥ったときに怖い。

この映画のなかでは、修道女たちは最初、妊娠してしまった事実を受け入れられませんでした。でも、今自分が置かれている状況を受け入れることによって、光=未来が見えてきたの

まずは、自分が抱えている問題や状況に向き合う。そして自分の強さと脆さを受け入れる。そうすることで道が開けると監督は力強く言います。

相手を理解しなくてもよい、お互いを尊重し合えばよい

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(C)MASAHIRO MIKI

此花:信じること、疑うこと、盲目的に服従しないこと、これらが本作のテーマだと思うのですが、監督が人生において信じていることは何ですか?

フォンティーヌ監督:わたしにとっての信念は映画よ。映画を通してわたしが考える人生というものを伝えたい。クリエイション、人間、愛についても信じているわ。

カトリックの教育をわたしは受けましたが、キリスト教の信仰心は持ちあわせていません。それでも、信仰というのは対立させてはいけないものだと信じています。自分と違う人を排除する......これは世界がまさに今、直面している問題だと思うから。

信仰というのはミステリアスでスピリチュアル。本人でさえよくわかっていないことがあります。だから、相手の信仰や信念を理解しようとしないほうがよいぐらい。お互いを尊重しあうことがなによりも大切だと思うわ」

グローバル化する世の中で、国籍、宗教、思想、ひいてはジェンダーやセクシュアリティまでも異なる人たちと一緒に過ごす機会が日本でも増えてきました。相手を100%理解しようとするよりも、多様性や違いを尊重することがダイバーシティ社会の在り方なのでは?

国籍や宗教を超えて結ばれる絆から、人間の希望は生まれる

此花:悲惨な事件がベースとなっていますが、本当に美しい物語に仕上がっているのが不思議です。

フォンテーヌ監督:「悲惨な"衝撃"が、国籍、宗教、思想の垣根を超えて女性たちの心をひとつにしました。彼女たちは団結することによって、新たな希望を見つけたの。皆が心をひとつにすれば、悲惨な衝撃からも希望は生まれるということを感じてもらえれば嬉しいわ」

強い意欲とやりぬく意志こそが、クリエイティビティの源

此花:監督の映画は毎回作風が異なりますが、新しいことにチャレンジするクリエイティビティの源は?

フォンテーヌ監督:「映画製作は闘いです。やはり映画もインダストリーなので、自分の思い通りの映画を作ろうとすると大変。なんとしてでも自分を貫く意欲、そして絶対にやりぬくという意志が必要。あきらめないでやりぬく、という決心こそがクリエイティビティを生み出すと思います」

ゆっくりと言葉を選びながらロジカルに答えるフォンテーヌ監督。人の心を射抜くような強い眼差しには彼女が確固たる世界観をもっていることを物語っていました。そして、ときおり見せる優しい笑顔がとても魅力的。

最近撮り終わった作品『Marvin(原題)』は、男性アーティストの物語なのだとか。

ここ数年、女性の生き方を表現してきたフォンテーヌ監督、今度は男性を主役に、どんな世界を見せてくれるのでしょうか?



夜明けの祈り

配給:ロングライド
8月5日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
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