少し前だけど、阿川佐和子さんの還暦過ぎての「超大人婚」が話題になった。大人婚を超えるこの「超大人婚」、実は芸能界では結構多い。夏木マリさんは50代後半で、また桃井かおりさんは60代でご結婚されている。

こういう例を見るにつけ「結婚適齢期ってなんだろう」と思ってしまう。「20代のうちに、いや30代までには結婚を」とやっきになっていたあの頃。40代に入り、誰も「今年中に結婚する宣言」をしなくなったときの、諦めに似た寂しさ。「結婚ってなに? 絶対しなくちゃいけないものなの?」という『そもそも論』をぐるぐると逡巡していくお年頃。そんな悩ましさを一掃するのが、超大人婚だ。

「そんな逡巡はわたしも当然したわ。でも『適齢期』って生きている間中が適齢期なんだって思ったのよね」といわんばかりの超大人婚。そんな大人の出会いと結婚について、数回にわたり、実例を出してご紹介していこうと思う。

第1回目の超大人婚の事例は......恐縮ながらわたくしのこと。現在40代後半で婚約中&同棲中の身であるが、「どうしてこの年でそんなことになったか」を書いてみたいと思う。振り返ると、自分でもびっくりするような出会いや選択だらけだったな。

苦手だった元先輩との再会

あれは4年前。最初の勤め先である出版社のOB会に参加したときのことだ。私がこの会社を辞めて以来、20年ぶりに会うA先輩がいた。それがいまの同居人だ。

実は会社にいたころは、ほとんどといっていいほど個人的に喋ったことがない先輩だった。小さな企業だったので、先輩後輩の垣根なく、仕事が終わったあともみんなで飲んだり、また休日もキャンプをして過ごすなど、本当に仲の良い会社だった。だけど、このA先輩だけとはかなり距離があった。わたしは編集部で、A先輩は営業部という部署の違いもあり、仕事場でも深く話したことがない。当然、仕事以外で飲みにいったり遊びにいったりした記憶もない。

実はわたしはA先輩のことが苦手だった。会社の稼ぎ頭でもあったA先輩はどこか鼻持ちならない感じがして、「俺さま気質」の彼を結構冷めた目で見ていた気がする。あちらもそんなわたしを「生意気」とか「ノリの悪い後輩」と見ていた節がある。そんな感じで、わたしたちの間にははっきりとした溝があったのだ。

ところが、20年ぶりに会ってみると......なんだか以前の先輩からは想像ができないほど、人が丸くなっていた。って、後輩のわたしがこんなこと言うのはおこがましいのだが、雰囲気がまるで違って柔らかい大人の男性になっていたのだ。OB会の宴席でちょうど隣同士に座ったのもあり、お互いに会わなかった20年間の出来事を一気にしゃべった。

A先輩もわたしも、結婚をしたけれどその後バツがつき、会社員も辞めて、先輩は起業し、わたしはフリーランスになっていた。境遇もなんとなく似ていることもあって、話が尽きなかった。

A先輩とは家がわりと近所だということもわかったので、OB会数日後、早速食事に誘ってもらった。お互い、ジョギングにハマっていることもわかり「ときどき一緒に走ろう」と誘われ、仕事が終わったあたりの時間に我が家に集合し、一緒にトレーニングに励むことも増えていった。こうして、自然と彼と過ごす時間が多くなっていったのだ。

不倫で疲れ切っていたわたしの心を、慰めてくれた彼

ちょうどその頃のわたしは、道ならぬ恋が終わり、精神的にとても疲れていた時期だった。「自分が自分でなくなる恋なんて、もうしたくない」と思いつつも、別れたばかりの不倫相手への未練を完全に断ち切ることができずにいた。元先輩というのもあって、そんなディープな話(相談)を、彼によく聞いてもらっていた。

彼は彼で悩み事があり、わたしはその聞き役にもなっていた。自営業の社長とフリーランスのライターという孤独な職業柄、相談したり愚痴ったりできる相手がすぐそばにいないこともあって、さまざまなことを話したり聞き役になったりしていた。

「まこちゃんがそんな大人の恋をしたなんて、新人の頃からは想像できないなあ。でもそれがまた魅力になっていると思うよ」と、A先輩は言った。不倫をしていたわたしを責めたり否定したりなどは絶対にしなかったし、むしろそんな経験をして大人になった感じがいいとまで言ってくれて、わたしは心底慰められた。

もう誰もわたしのことなんて注目しないだろう、誰からも愛されないに違いない......。手痛い失恋直後に起こりがちな自己否定にまみれていたわたしには、A先輩の対応はまさに「神」だった。その前に......まず「先輩って、人の話をちゃんと聞く人だったんだ」ということにも驚いた。わたしが知っている過去の彼は「俺が俺が!」ととにかく自分のことばかりを話し、目立ちたがる印象があったからだ。

そのことを伝えると「あの頃って他人から『俺さまキャラ』と思われていたから、その要望に応えなきゃって思っていたんだよね」と先輩。うーん、それってサービス精神旺盛すぎやしないか。そして特段、キャラ作りとしても周囲への印象作りとしても成功してないし。

そんなこんなで、週2回は会っていたわたしたち。友人に言わせると「それってもう、つきあってんじゃないの!」とか「恋人でも週2回なんて会わないよ」と言われた。しかし、実際には、まったく艶っぽい雰囲気にはならず、ジョギングして近くの銭湯に行き、その帰りに夜ごはんを食べて解散! という本当に部活の仲間のような関係が続いていた

夏の終わりの演出が、恋心に火をつけた?

ある日「ちょっと遠いけど、ドライブがてらアウトレットモールに行かない? ジョギングウエア用品を新たに揃えたいし」と言われ、ドライブショピングに出かけることになった。ちょうど夏の終わりのセールだったので、ふたりで爆買いをしてしまい、午前中に出発したのに、帰り道はとっぷりと日が暮れてしまった。

ハイウエイを通って帰っていると、ちょうどそんな時期だったのだろう、遠くで打ち上げ花火があがっているのが車窓から見えた。「夏も終わるねえ」なんて話しながら、ボンボン打ち上がる花火を眺めていた。

すると今度は違う場所でも打ち上げ花火、その隣町と思われる場所でも打ち上げ花火が......。車窓からは3か所から同時に花火を見る瞬間もあった。

「こんなの珍しいですよね」とわたしがはしゃぐと、「実はさ、俺のA財閥がまこちゃんのために、道路沿いで花火を打ち上げるように仕込んでいたのさ。この日のために1億使ったな」と先輩は冗談を言った。

夏の終わり、花火連発、夜のドライブ。それまで不倫でどっぷり疲れていた心が、この夜久しぶりにウキウキしているのに気づいた。A先輩が車内でかけている音楽に合わせて思い切り声を出して歌っている。「なんだか今、すごく平和な気分」。そう思った。

その日を境に、思い切り圏外だったA先輩がとても身近な存在に感じられるようになった。お互いに「このふたりに男女の関係は絶対にない」とか「友だち関係のまま、一生大事にしていきたいね」などと話していたし、「とはいえ、一生ひとり身というのは寂しいから、お互いだれかを紹介し合おうよ」なんて具体的な計画もあがっていた。

「うーん......。でもA先輩に彼女ができて、これまでみたいに一緒に遊んだりいろんなところに出かけたりできなくなるのは、なんだかちょっとさみしいな」。

不思議な感情がわたしのなかに芽生えた。

「だからといって、万が一よ、A先輩と恋人同士になったとする。でもさ、恋愛って必ず『終わり』がくるじゃない。始まったら終わる。そんな脆い関係になるくらいだったら、異性の友だちとして、一生A先輩とつきあっていきたい。そちらのほうが傷つかなくてすむ」なんて、まだ始まってもいない関係を否定したりもしていた。

するとまったく同じ頃、A先輩からこんな電話をもらった。

「あのさ、この前話してた『お互いにだれかを紹介しあう』というの、少し考えさせてもらっていい?」

「なんで?」と尋ねると、彼はしばらく黙り込んだすえ、こう言った。「まこちゃんに彼氏ができたら、俺がさみしいから

ああ、同じ気持ちでいてくれたんだ! 

「わたしもまったく同じことを、昨日考えてたんですよ」
「そうなんだ。嬉しいな。うーん、どうしようかな。言おうかな。言っちゃったら、まこちゃんドン引きするかな」
「なになに。言って言って」
「あのね、俺、たぶん、まこちゃんのことが好きになった」

はい、ここで『東京ラブストーリー』のテーマ曲、オフコースの『ラブ・ストーリーは突然に』のイントロを心のなかでかけてもらってもいいでしょうか。

まあ、ドラマならばこの電話のあと、どちらかがせきを切るみたいにして街のなかを走り抜け、相手をハグ......でしょうね。わたしたちは一般人なのでそんなことにはなっていない。というか、せっかち女王として名高いわたしは、ここでやらかしてしまった。

「えっ、えっ、えっ。わたしも先輩のことが好き。ということは......ということはですよ。お互いに好き同士だからつきあっちゃうのかな

身も蓋もない......というかロマンチックのかけらもない畳み掛けをしてしまった。

「うーん、どうなんだろう。なりゆきにまかせない?」
「えっ、意味わかんない。明日からどう接すればいいんですか。意識するじゃないですか」
「ま......まあまあ、そこは落ち着いて。とにかく、焦らずになりゆきにまかせよう」

さすが5歳も年上の男の大人です。鼻息が急に荒くなったわたしをどうどうと諌めてくれた。

周囲も悲鳴をあげた、意外なカップル誕生!

というわけで、これをきっかけに恋人同士になったのだが......。次なる元同僚のOB会でこのことを発表したときの、周囲の反応はすごかった。悲鳴があがったほどだ。

「だってだって、まこちゃん、Aくんのこと、すごく苦手、大嫌いってずっと言ってたじゃない!」

これを目の前で言われたわたしはどぎまぎ、彼は「えええ?」と驚きの表情。

キミたち、性格まったく合わないでしょう」という社長に、「絶対に、受け入れられない!」と数人の元同僚たち。受け入れられないって......おい。そのくらい意外な組み合わせのカップルだったのだ。

「でもね、性格がまるで違うとか、第一印象が悪い者同士って、案外気が合うって言うからね。あなたたちふたりも、もしかしたらベストカップルかもね」と最終的には、渋々(!)みんなに認めてもらった。

現在、交際3年目、同棲歴は約1年で、この期間まあいろいろあったのだが、いまは落ち着いて仲良く暮らしている。お互い「胸が締めつけられるような思い」をして好きになった相手ではないが、最初から「身内感」があって、一緒にいて心から安らげる関係性だ。そしてお互いに「マイナス点」からの出発だったのは大きいかもしれない。相手を知るたびに「加点方式」で印象が高まっていったのは、わたしたちが交際するに至る大きなきっかけとなった気がする。

振り回されたり振り回したりの恋愛ばかりをしてきたので、この穏やかな関係に最初はなかなか馴染めず、自ら荒波をたてることもあったけれど、相手が50代と超大人なので、けんかにならない。そこも今までの恋愛とは一線を画しているような気がする。

「ぜーーーーったいに、ありえない」。そう思い込んでいた相手と一緒に暮らしているのだから、世の中本当に、なにが起こるかわからない。自分の例を改めて書き連ねて思うのは、「絶対にありえない、なんてありえない」ということ。垣根なんて、時間の経過や心持ち次第で、どうにだってなるものだって気づいた、超遅めの、大人の恋です。

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