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かぶる人に力を与えてくれる。ハーレムで68歳女性が帽子工場を起業 [The New York Times]

The New York Times

かぶる人に力を与えてくれる。ハーレムで68歳女性が帽子工場を起業 [The New York Times]

頭を横に傾け、膝を軽くまげて色々な角度から自分の姿を鏡でチェックするジナ・バートン=ミリックさん。リボンとシルクフラワーをあしらった帽子は彼女の頭にすっと収まっていた。ニューヨーク・ハーレムにあるショールームでは、皆が固唾をのんで彼女の試着の感想を待っていた。

「いい感じ。これ気に入ったわ」。ニューヨーク市教職員組合の一代表として出席する会合のために帽子を探していたバートン=ミリックさん(54歳)は言った。

いかにも同感、と手を打って微調整に入ったのは聖職者のジョージェット・モーガン=トーマスさん。彼女こそストライバーズロウ(ハーレムの歴史的地区)にあるこのショールームのオーナーで、何十年と地域に貢献してきた女性だ。

帽子は、かぶる人に力を与えてくれるの。婦人参政権運動にかかわった人たちの写真を見ると、みんな帽子をかぶっていたでしょう。帽子をかぶると姿勢もよくなるわ。頭上に何かが載っていると思うと、自然に背筋が伸びるから」

100個以上の帽子を持ち、人前では帽子を欠かさないモーガン=トーマスさんの言葉には説得力がある。とはいえ、まさか68歳で自分が帽子工場の経営者になろうとはさすがに想像していなかった。

気がつけば起業家に

それでも2015年にフィラデルフィアの帽子メーカー、エス・アンド・エス・ハット・カンパニー(S&S Hat Co.)が経営不振のために売りに出ていることを友人の帽子デザイナー、ハリエット・ローズバッドさんから聞くと、起業の機会に飛びついた。

「気づいたら『買うわ』と言っていたんだけど、『今、私何て言った?』って自分の耳を疑ったわ」と5月、同工場で当時を振り返った。

10万ドルあまりを出資して2016年1月に経営に乗り出した彼女は、工場をアメリカン・ハッツ(American Hats)と改称した。

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フィラデルフィアの工場兼店舗で帽子を試着するカレン・R・スミスさんとオーナー、ジョージェット・モーガン=トーマスさん。2017年5月24日フィラデルフィアにて撮影(Hilary Swift/The New York Times)

起業当初は難航つづき

「自分は帽子好きって言うだけじゃなくて、本当にそれを実践してる。帽子をかぶっていないときに彼女だって気づかなかった人が何人もいるくらい」と、ローズバッドさんはモーガン=トーマスさんをこう評した。

しかし、年間受注額はすぐに3万2千ドルも落ち込み、マネージャーも辞めてしまった。当初は経営とマーケティングだけにかかわるつもりだったモーガン=トーマスさんも、ビジネスの基本を学ぼうと社員を頼りにした。

「そもそも買った事業は好調どころか左前で、再建が前提だった」と一人息子でバージニア州バージニアビーチ在住のロバート・モーガン3世さん(40歳)は語った。

売上増のカギは細部までのこだわり

モーガン=トーマスさんによると、昨年、同工場は90~400ドル以下の帽子を3,000個以上販売し、前年比40%増を記録した。

約500坪の工場には色とりどりの帽子がかかったラックが並んでいた。つば広の麦わら帽子はいかにも夏らしい。小さな事務所はショールームに入りきらなかった帽子で溢れかえっていた。教会用として人気の大振りで大胆なデザインの紫色の帽子もあれば、喪装用に使える黒い地味な帽子もあった。

サテンリボンで飾られたつばの狭い黒のバケットハットをかぶったモーガン=トーマスさんは、業者と納品日を抜け目なく交渉する一方で、顧客にアドバイスするのも忘れなかった。

「『そんな帽子が似合うって誰が言ったの?』なんてお客様が言われてしまっては困りますから」と接客する彼女。

得意客の教会用帽子の羽根飾りを付け替えるべきかどうか社員が相談しにくると、「あの羽根飾りは少し田舎臭いと思った」と切り返す。「細部にこだわっているから、うちの帽子には払うだけの価値があるの」

ウォルマートの対極をいく職人技

工場の片隅では、17歳で入社したというニック・ヴェガさん(43歳)が帽子の型入れをしており、ロード・クロットさん(53歳)が100ヤード巻のクリノリンとサテンリボンをミシンで縫い合わせる作業を行っていた。

1923年にブティックや百貨店への販売を開始したS&S Hat Co.から受け継いだ工具の多くは年代物で、修理用の部品を調達するのに苦労するという。

「こういった帽子を作るのは難しいんだよ。ウォルマートではまず売ってないだろうね」と、ヴェガさんは木型にはめた帽子にアイロンで蒸気を当てながら言った。

ファッション小物として人気復活

婦人帽子職人協会会長を務めるソーホー地区の婦人帽子店経営者、エレン・クリスティーン・コロン=ルゴさんによると、帽子は自分らしさを出すファッション・アイテムとして再び注目されているという。 最近では中折れのフェルトハットが女性にもてはやされているし、キャサリン妃のカクテルハット姿も帽子に対する関心を高めた。

「帽子も今やファッション広告で取り上げられるようになったし、デザイン学校の生徒も婦人帽子製造に関心を示している。野球帽以外の帽子はどれも流行復活を裏付けているよう」とコロン=ルゴさん。

古きよき時代の象徴

モーガン=トーマスさんにとって、帽子は祖父母に育てられたアラバマ州モービルでの子供時代を思い出させてくれるという。祖父は寝台列車の荷物運搬人の仕事を退職し、二台の自動車を所有していた。祖母は全国黒人女性評議会などの組織に名を連ねて公民権運動に尽力した。

「当時の女性たちはドレスアップして、極上の食事を用意した。いつもとっておきの食器やグラスを出して、一番いい帽子をかぶっていたわ。帽子は身だしなみの大事な要素だった」

その習慣は彼女の中に生きている。

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フィラデルフィアの工場兼店舗で帽子に蒸気を当てるニック・ヴェガさん。2017年5月24日フィラデルフィアにて撮影(Hilary Swift/The New York Times)

福祉施設で鍛えた管理能力

モーガン=トーマスさんは5月に福祉組織ゴダード・リバーサイド・コミュニティ・センターのハーレム担当ディレクターの仕事を退職した。引退後は孫娘の世話をするためにバージニアビーチに引っ越す予定だった。

「工場を経営し始めたと聞いて驚いたけど、それが帽子工場だっていうのは意外じゃない。だって彼女、大の帽子好きでしょ。管理能力に長けた人でもあるから、工場を経営できているのも不思議はない」と、2つの施設の管理を任された後任者のサイーダ・メンターさん(45歳)は言った。

1997年にゴダード・リバーサイド・コミュニティ・センターが運営するコーナーハウスの管理者として雇われたモーガン=トーマスさんは、その能力をフル活用しなければならなかった。同施設はエッジコーム通りと141番街の角に位置し、精神障害を持つ元ホームレスを対象とした老人ホームだ。

就任2日後に建物の前で銃撃戦があった。

『「みんなで何か手を打たなくちゃ」と思った』とモーガン=トーマスさん。

長年尽くしてきた地域に応援されて

エッジコーム通りの住人と協力し、まず4本の木を購入してコーナーハウスの入居者による植樹を行った。それからクリスマスツリー点灯という恒例行事を設けたほか、道を歩行者天国にして紛争解決の学びの場にもなる遊び場を子供達に提供して地域を活気づかせ、麻薬取引を撃退した。今日、エッジコーム通りと142番街の角には高級コーヒーショップすら存在する。メンターさんによれば、モーガン=トーマスさんの治安改善努力のたまものだという。

事業が経営難に陥ったとき、モーガン=トーマスさんは地域の善意に助けられた。

「誰かと会うでしょ。そうするとみんなが『工場のためにこの100ドルを使って』と言ってくれたの。大金ではなかったけれど、地域が自分を応援してくれているのがわかった」

軌道に乗り始めた事業

アメリカン・ハッツの経営は上向いてきているとモーガン=トーマスさんは言う。自社ブランドの帽子販売を開始し、さらに男性ものや、人形用帽子も展開し始めた。

今の目標は、学生インターンの採用と、将来的にハーレムで第2工場を立ち上げることだ。

今月、ハーレムの夏季就労体験プログラムの一環として、10代の若者たちが帽子作りを学びに工場を訪れるという。

「若者にこの技能を学んでほしい。一度は廃れてしまった帽子だけれど、今また流行りつつある。帽子がないと落ち着かない私としては、嬉しいわ」

© 2017 The New York Times News Service

[原文:Harlem Woman Owned 100 Hats. Then She Bought the Factory./執筆:Jeffery C. Mays]

(翻訳:Ikuyo.W)

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