有名予備校の東大進学クラスや医学部進学クラスで数学を教えるかたわら、ワインスクールを主宰し、ワインや日本酒の輸出入業でも活躍する杉山明日香さん。スクール受講者のソムリエ試験合格率は、なんと90%以上! 試験全体の合格率は約40%ですから、この数字は驚異的です。そんな杉山さんに「教え方のコツ」を教えてもらいました。

教える前の準備編に続いて、今回は実践編。部下への指示や上司への報告、取引先との商談やプレゼンテーションなど、今日から役立つ杉山さんの教え方の極意、お教えします。

相手がどのくらい理解しているかを理解する

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「結論から先に言う」「時系列で順序だてて」など、効果的に伝えるためのさまざまなメソッドが知られていますが、杉山さんはメソッドよりも大切なことがあるといいます。

「相手や案件によって、どんな伝え方、教え方が効果的かはケースバイケース。先に目的を言ったうえで組み立てていったほうがいい場合もあるし、本人に結論を導き出してもらうためにイチから話していったほうがいいことも。どんなケースにも共通して言えるのは、まず相手がどのくらい理解しているかを理解する、ということです

相手の状況を把握し、臨機応変に言葉を変えていく......。高等テクニックのように思えますが、「これは女性の得意分野」と杉山さんは言います。

「女性は男性よりも共感力が高いと言われます。確かにこまやかなところまで気がついて、相手の状況や気持ちを汲み取ることが得意な人が多いですよね。これは、教えるうえでの大きなメリットです」

表情や会話のちょっとしたニュアンスから、疑問や不安、つまずきポイントを読み取れれば、そこを一緒に解決していくことがステップアップへ導く第一歩に。日頃のコミュニケーションがモノを言います。

私は予備校で年間1000人もの生徒を教えてきました今では、授業中の表情を見るだけで、その生徒がどこまでわかっているか理解できちゃう。講師生活によって培われた特技ですね。生徒のなかには『こんな些細なことで相談するのは申し訳ない』と質問できない子もたくさんいます。でも、その些細なポイントがクリアできたら、もっと早く前に進めるし、些細に見えたつまずきが後で大きな影響を及ぼすことだってあります。こまかなところに気づいてあげるのって、とても大切なことだと思います」

考える力を引き出し、伸ばすのがよい教え方

相手の理解度を把握したら、その段階に合わせて伝えたい内容を組み立てます。ここで生きるのが、準備編で整理した要点です。一番伝えたい重要ポイントにむかって、相手に合わせた道を示していきましょう。

たとえば経験豊富な上司に対してなら、まっすぐな直線コース。ムダなくスピード感のある伝え方で、必要な情報を共有することができます。反対に、期待している部下に対してなら、スタート地点へ導き、系統だてた考え方のヒントを与えるだけでも十分かもしれません。答えを見せるだけでは、応用力は育ちません。要所要所を確認しながら、部下が能動的に進んでいけるようにサポートするのも上司の役割です。

気をつけたいのは、結果を急ぐあまりに、一方的な押しつけに陥ってしまうこと。

「頭ごなしに自分のやり方を強要したり、『なんでわからないの?』なんて言葉をかけたりするのは、絶対NG。教えることも、双方向のコミュニケーションです。問題が起こって感情的になりそうなときこそ、ひと呼吸置いて。勢いのまま口をついて出てきた言葉では、いい結果にはつながりません。私自身も、一度、メモを作って頭を整理するようにしています」

自信を持って話すことが、最強の武器になる

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教えるときには、自分の理解をきちんと深めるために情報に当たって整理すること。リサーチした情報、経験則を系統だてて整理し、相手の状況に合わせて臨機応変に提示すること。これが、数学もワインも見事に教える杉山さんが行っている「教えの法則」です。でも、どんな法則にも勝るとも劣らない最後の奥義があります。

「それは、自信を持って話すこと。どんなに内容を整理して、しっかり組み立てて話したとしても、『伝わらなかったどうしよう』とオドオドしていたら、一番印象に残るのは、そのオドオド感なんです。そんなの残念すぎますよね。失敗してもいい、と思い切ることって大事。もしうまく伝わらなかったとしても、謝ればなんとかなることも多いはず(笑)。堂々とした身振り、表情が、言葉に力を与えてくれます」

「教えの法則」3か条

杉山さんの「教えの法則」3か条は、こちら。

1.相手の理解度を把握する
2.系統だてた話で、相手の考える力を引き出す
3.自信を持って、相手を安心させる

この3つは、予備校で、ワインスクールで、またご自身の経営する会社でと、杉山さんの仕事すべてに通じる基本になっているそう。

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「執筆した『ソムリエ試験対策講座』のテキストも、まさにこの基本どおり。私の普段の教え方がそのまま反映されています。ワインを初めて学ぶ人に向けて、必要な知識を取捨選択してテキストにしました。ゴールはソムリエ試験合格。じつは父も70歳のときに私のこのテキストで受かりました(笑)

杉山さん自身、ソムリエ試験前に勉強したのは1日17時間を3日間。これも「合格」というゴールから逆算し、タスクと時間を正確に見積もった結果。もちろん一発合格です。

相手とゴールを明確にして、情報を系統だてて伝えることが「教え上手」な杉山さん流の極意。極意をつかんだら、あとは実践あるのみ。自信をもって堂々と、たくさんの経験を積んで、話し上手、教え上手に磨きをかけましょう。

20170731_asuka_sugiyama_prof.jpg杉山明日香(すぎやま・あすか)さん

理論物理学博士、ソムリエール、株式会社アスカ・エデュカティフ、株式会社オー・トロワ・ソレイユ代表取締役。大学院在学時より有名予備校の数学講師として教壇に。ワインバー&レストラン「GOBLIN」のプロデュ―スやソムリエ試験対策講座のスクール、シャンパーニュとワインの輸入販売事業など、ワイン関連の事業も幅広く手がける。『ワインがおいしいフレンチごはん』(共著、リトル・モア)、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策問題集』(リトル・モア)など著書多数。

撮影/山辺恵美子 取材・文/浦上藍子