落ち着いた話し方とは裏腹に、ときに驚くほど情熱的な行動力。ル・クルーゼ ジャポン株式会社の副社長を務める竹本エリさんは、ブラジルへ思いを馳せた学生時代を経て、アルバイトも経験しながら自らの道を作ってきた。気負わないように見えて、成果を出し続けている竹本さんのキャリアや考え方、信条を聞いた。

20170928_career_profile.jpg竹本エリ(たけもと・えり)さん

ル・クルーゼ ジャポン株式会社副社長。上智大学外国語学部卒業。ウォルト・ディズニー・ジャパンにて出版部、宣伝部、マーケティング部を通じてライセンス事業に従事し、ブランドマネジメントの基礎を徹底的に学ぶ。その後CS放送局J SPORTSにてさまざまなスポーツコンテンツの認知や接触を広める宣伝販促グループのリーダーを務め、ハインツ日本では商品開発、調査、プロモーションなどマーケティング活動全般に携わる。2011年より現職。ル・クルーゼブランドのさらなる価値向上および普及を目指し、新規カテゴリーの積極展開や「野菜」をテーマとしたコミュニケーション活動を行っている。

入社2年目のサッカー場で訪れた突然の転機

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子どもの頃から、ブラジルに行くことが夢だったという竹本さん。ブラジルは日本の真裏にありながら、歴史的にも日本との関連が深い。また、熱帯雨林の伐採などにも問題意識を持ち、ただただ「ブラジルへの留学の道が用意されている」という理由で大学を選んだほど

大学3年生のときに念願叶って留学し、帰国して大手電機メーカーに就職した。

「働きながらも、縁あってサッカー関連の通訳などをお手伝いしていました。就職して2年ほど経った頃、トヨタカップでブラジルのチームが来日し、ラジオ番組のレポーターとしてフィールドで監督のインタビューなどを担当したのです。試合はブラジルのチームが勝って、会場はものすごい盛り上がり。そのとき突然『今の会社にいる場合じゃない』と思ったんです

仕事がおもしろくないわけではなかった。学ぶことは多く、ロールモデルとなる素敵な女性社員の先輩もいた。だが、熱狂できる場を知り、会社に物足りなさを覚えてしまった竹本さんは、翌日に会社へ退職届を提出。何という行動力だろう。

まったく計画を立てずに辞めたため、アルバイトをしながら仕事を探す日々。目にとまったのは、ウォルト・ディズニーのアルバイト求人。高い倍率のなか採用された後に社員となり、出版部から宣伝部、マーケティング部へ。ライセンスを中心とした商品開発に携わり、日本文化にマッチした商品を提案していった。

その後、ベンチャー支援の企業や、スポーツ専用のテレビ局を経て、トマトケチャップなどを商品に持つ「ハインツ」へ。マーケティングを中心にしたさまざまな仕事を経験した。

ル・クルーゼへ入社し、グローバルで90周年の施策

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仕事はおもしろく、転職する気はなかったが、知人に誘われた食事で偶然の出会い。同席した人物が転職エージェントで「ル・クルーゼでマーケティング担当を探しているのだけど、興味ありませんか?」と誘われた。社長がブラジル人の女性だったのは、何かの縁かもしれなかった

「ヨーロッパの会社もいいな、という気軽な気持ちで話を聞きに行きました。ところが会うともう、『こんな風に開拓していこう』と興味が出てきちゃって」

2011年にル・クルーゼへ入社した竹本さんがもっとも心に残っている施策は、2015年の創立90周年のとき。「ル・クルーゼの価値を最大限に伝えるこの上ないチャンス」と感じたのだそう。

「もともとル・クルーゼを愛用いただいていた放送作家の小山薫堂さんと、ブランドの根幹を知るためにフランスの工場を訪れました。職人が何世代にもわたり、誇りを持って作る様子がBSフジで放送され、視聴者から手紙やメールを500通ほどもいただいたんです。もともとル・クルーゼが好きな方はもちろん、深く知らないけれどたまたま見た、という方も。『ル・クルーゼの鍋に亡くなられた旦那さんの思い出がある』といったお便りもあり、大変感激しました」

そのほか、同年に二子玉川での屋外イベントも実施した。芝生の上に、50名ほどが座れるロングテーブル。ル・クルーゼの鍋を並べ、たくさんのお客さまが家族連れで訪れて野菜スープを楽しんだ。印象的だったのは、何人もの社員が家族を連れてきたこと。自分が働いている会社の存在感やお客さまとの繋がりを感じ、笑顔や喜びを見せてくれた。キャンペーンの3日間がすべて「完璧な天気」に恵まれたこともあり、大きな達成感があったという。

テレビをきっかけに、ベネチアン・グラス作家に会いに行く

竹本さんの行動力を表すエピソードがある。たまたま付けていたテレビで、ベネチアン・グラス作家である土田康彦さんと、知人でもあるパティシエの小山進さんの対談を見た。アーティストになるべくヨーロッパへ渡り、ベネチアン・グラスの工房を持つまでに至った土田さんの生き方に感銘を受け、ベネチアン・グラスの聖地イタリアのムラノ島へ会いに行ったのだ

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生い立ちや現状も奇跡のような方ですが、作品を生み出すときの発想の仕方、コンセプトビルディングなどに大変感銘を受けました。アーティストなのに『売れないと意味がない』と言う姿には驚かされます。背負っているものが大きすぎて、自分が抱えている細かいことがどうでもよくなるような。本当にすばらしい出会いだったんです」

ただ感激して「会いたい」と思い、実行に移す。そこには打算や計算は何もない。そんな出会いは、竹本さんが迷ったときに勇気や指針を与えてくれる。

「土田さんの他にも『あの人ならどうするだろう?』と想像するロールモデルのような方が何人も。タイプはそれぞれ違いますが、皆さん共通して冷静で感情的にならず、それなのにワクワクすることを知っています」

そのほかに仕事で心がけているのは、追いかけるのではなく、「スタンバイ」しておくこと。いつ何が起きても大丈夫なようにしておくと、予想外の仕事も「嫌だ」と思わないようになるのだとか。影ながら努力をしてさまざまなことに関心を持っておけば、新しい仕事を自分のチャンスに変えられる。これからも理想の姿を胸に、さまざまな機会をチャンスに変えていくのだろう。

Q. お気に入りの化粧品は?

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SHIGETAのBBクリーム「UV スキンパーフェクション」。

Q. 現在読んでいる本、愛読書は?

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現在読んでいる本は『OPTION B』(シェリル・サンドバーグ著)と、『あつあつを召し上がれ』(小川糸著)。 愛読書は『ハードワーク』(エディー・ジョーンズ著)。

Q. お気に入りのファッションアイテムは?

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左はムラノ島で夫がこっそり買ってくれたベネチアン・グラスのネックレス。太陽をモチーフとしたネックレスは、ドイツの「Grosse Glace」のもの。

Q. 欠かせないスマホアプリは?

ニュースアプリ「NewsPicks」とワインの情報が満載の「Wine-Link」。

Q. 1か月休みがあったら何をしたいですか?

地中海またはカリブ海周辺をクルージングしたい。

撮影/柳原久子 取材・文/栃尾江美