起業家の多くはビジネスを軌道にのせようと長時間労働をいとわず、猪突猛進、がむしゃらに働く。だが、それに付き合わされる部下はしばしば、あっというまに燃え尽きてしまい、会社を去っていくことも珍しくない。

そんななか、まるで夏のスクールキャンプのような活動を職場に導入している経営者たちがいる。屋外での企画会議、ソルトルームでの打ち合わせ、サーフィンをしながらの契約交渉。なんとも楽しそうで、遊んでいるとしかみえないが、実はれっきとした生産性向上のための秘策なのだ。

ミーティングは会社の外で歩きながら

エリック・テトゥアン氏は、週に100時間はオフィスにいて、オフのときも常に仕事のことを考え続け、おそらく寝ている間さえ仕事が頭から離れない、24時間働くビジネスマン。

彼はマンハッタンにあるイベント制作会社ProductionGlueの共同創業者で、自分の職業と会社を愛してやまない。だが、数年前のこと、仕事を詰め込みすぎたためか、従業員に悪い影響が現れているのに気がついた。士気が下がる一方で、ミスは増えている。テトゥアン氏は部下に、外を散歩したり、自転車でひとっ走りしたり、ハドソン川のほとりで座っているだけでもいい、とにかくオフィスから出るよう奨励をはじめた。

気分をリフレッシュする効果を狙ったわけだが、これには思わぬオマケがついてきた。散歩や屋外での休憩は、オフィスの外という視点の変わる環境で、スタッフが仕事について話し合える絶好の場になったのだ。イベントという非日常を演出するビジネスを営むProductionGlueにとって、社員のクリエイティビティを高めることは、会社にとって重要な目標である。

「職場環境を整える以上の意味があるとわかっていたよ」とテトゥアン氏。「どう仕事に向き合うかという姿勢そのものを全面的に変えられた」

それが、オフィスをあとにして外へ出て行くということの意義だったのだ。「会議室でのミーティングは注意力が散漫になりがちだ」。スタッフは会議の進行と携帯などのデバイスを半々に眺めているとテトゥアン氏は認め、「歩きながらのほうが、ずっとアイデアがわく」と語る。

職場が楽しくなる福利厚生で生産性アップ

IT業界は従業員のやる気を回復するために、ときに冗談とも思えることをする。たとえば、グーグルはマッサージを提供し、Spotifyはランチタイム・コンサートを開く。規模は十数人から何百人というさまざまな企業で、スタッフの仕事への集中力を高めるために型破りな方法がとられている。

仕事を探す際、求職者にとって重要なのは多くの場合、健康保険や就業時間、休日日数などだ。だが、ナッシュビルのマーケティング会社Technology Adviceによると、すでに雇用されている従業員には、ゲームルームの設置や会員制ジムの有無など、より手の込んだ福利厚生が、その会社に勤める特典として評価されるという。

「経済的にある程度安定したあとは、コミュニティの一員であること、仕事に関わっているという感覚を人々は持ちたくなるのです」と、バークレーのハース・ビジネススクールでマネジメントを専門とするジェニファー・チャットマン教授は語る。「こうしたユニークな福利厚生のポイントは、人々に連帯感を与え、仕事を楽しくするところにあります。その結果、モチベーションがあがり、生産性も向上します

20170913_nyt_meeting_1.jpg
ソルトルームでのミーティングの後、クリスタルライトを浴びる男性。2017年8月30日ニューヨークのModrn Sanctuaryで撮影 (Harrison Hill/The New York Times)

ビジネスの場での距離を縮める効果

ソックス専門オンラインショップBombasは、1足売れるごとに1足を地域の恵まれない人々に寄付する活動で知られているが、2013年の会社設立以来、96%の従業員定着率を保っている。辞めていく社員が少ない理由を、同社の共同創業者のデイビッド・ヒース氏は、一風変わったミーティング場所にあるとしている。

会社の仲間と一緒にフィットネスクラブやマニキュアに行ったりすると、人間関係が深くなるんだよ。普通は親しい友人と過ごすような場所に行くことで、お互いを大切にする気持ちが生まれるんだ」とヒース氏は説明。たとえ悪いニュースを伝えなければいけないときでも「相手を思いやれる」という。

Bombaは今期7,000万ドル(約75億円)の収益を上げ、前年比成長率は500%に達し、現在までに400万足のソックスを寄付している。会社がここまで急成長した理由を、37人の社員が定着して働き続けているからとヒース氏は誇る。

屋外でのミーティングがチームの創造性を活性化し、従業員をハッピーにできるなら、ビジネス上の行き詰まりを解消するのにも効果的かもしれない。医療や健康分野のコンサルティング会社Health Media Networkのラリー・ニューマンCOOは、サーフィンが難しい企業売却交渉を成功に導いたと明かす。

「長い時間をひたすら費やし、弁護士を交えて数え切れないほどの会議をしたあと、サシで会って結論を出そうじゃないかと提案した。そこで、それぞれサーフボードを波に浮かべて、最終的な詰めの話をしたんだ」

念のため付け加えると、サーフィンと討議を本当に同時にやったわけではない。「そんなことしたら、死んじゃうよ」とニューマン氏は笑う。ポイントは「一人の人間同士として交渉をするところにある。ビジネスレベルじゃなくてね。そういう行為は、相手の心をかきたてるものなんだ」

時と場合によっては会議室がベター

従業員と経営者双方に良い結果をもたらすオフィス外ミーティングだが、もちろん、適さない状況もある。

テトゥアン氏も、クライアントが同席する最初のクリエイティブ会議は、プロジェクトに関わる全員が参加できる会議室で行うという。

子どもを持つ人々をメインターゲットにしたダイレクト・マーケティング会社Divalysscious Momsのリース・スタン社長は、長々としたビジネスランチや夜の飲み会は避けるようにしている。時間をムダにしすぎるからだ。そんな彼女のお気に入りのミーティング・スポットは、マンハッタンのウェルネスセンターModrn Sanctuary。ここには、壁や床がヒマラヤの天然塩で覆われたソルトルームがある。

塩は抗菌性が高く、一部では、ソルトルームには喘息など呼吸器系の問題を改善したり、エネルギーをチャージする効果があると信じられている。

だが、誰もが塩がしきつめられた部屋でのミーティングを歓迎するわけではない。「忙しくて時間がなく、取締役室のボードルームで手短に用件を済ませたい人には向きません。あるいは、昔ながらの保守的でお堅いタイプとかね」

それでも、できるだけソルトルームでの打ち合わせの機会を設けようとしているスタン社長。「だって、そこに座って話をしているだけで、メンタルヘルス的に良い効果が得られるんですよ。塩を含んだ空気が吸えて、自分自身にも相手のためにもなるわけですから」

常識外のミーティング・スポットの難点はほかにもある。同行するクライアントは普通、いつでも連絡可能な状態であることを望まれているからだ。サーフィン中やソルトルームでは電話やメールを受けられない。

テトゥアン氏にとっては、オフィスから(そして、クライアントからも)離れて過ごす数時間は、不便を補って余りある。「何にも邪魔されずにものを考えられる時間が持てると、逆に1日の仕事が早く進むんだ。我々が2時間つかまらないことにイライラする人もいるかもしれない。でも、おかげで、週の終わりには他社よりはるかにいい提案が出せて、顧客も満足するはずだ」

クリエイティブチームのスタッフと一緒にマウンテンバイクに乗ってミーティングをするというテトゥアン氏。確かに、テキストを打つのには不向きな環境だ。

「携帯のことは忘れて、頭をスッキリさせる。返信を急いでする必要もない。それが結局、10万ドル(約1,076万円)と100万ドル(約1億760万円)の違いになって現れてくると思うよ」

© 2017 The New York Times News Service
[原文:When Office Meetings Leave the Office Behind / 執筆: Wealth Matters]
(翻訳:十河亜矢子)