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40代で起業。悩みも障害も「美味しいコーヒー」で乗り越える

40代で起業。悩みも障害も「美味しいコーヒー」で乗り越える

朝のひととき、仕事の合間。片手にカップ一杯の美味しいコーヒーがあれば至福の時間に......となるのが珈琲党。何を隠そう、私もそのひとりです。

国によって違う焙煎の好み

とはいっても、「美味しいコーヒー」の定義は、土地や国によってさまざま。たとえば、私の住むフランスでは、コーヒー豆は、中煎りから深煎りが好まれます。

同じヨーロッパでも、「pur-cafe.com」によれば、スウェーデンやフィンランドなど北欧では、酸味が強く豆本来の風味が残る浅煎りが好まれるのに対し、南方のイタリア、スペインでは、苦みとコクの強い深煎りが好まれるのだとか。

たしかに、イタリアのエスプレッソのキュッと濃い味は、深煎りならではのもの。地理的に北方と南方の中間にあたるフランスでは、コーヒーの焙煎もちょうど中間の味が好まれるわけです。

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では、日本はどうかと言うと、「珈琲焙煎工房Hug(ハグ)」施設長の八尾敬子さんによれば、とくに最近では浅煎りが流行りだそうです。

私は、中深煎りの味に慣れているせいか、いつも日本でコーヒーを飲むと、なんとなく物足りなく感じることが多いのですが、この工房ハグのコーヒーは、苦みがないのにコクがあり、すっきりした香りで、すっかり気に入ってしまいました。

美味しいコーヒーの秘密

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工房ハグのコーヒーは、コクのブレンドと香りのブレンドの2種類。コクのブレンドは、ブラジル産のプレミアムショコラが入っているだけあって、ほのかにナッツやチョコレートの風味が感じられるまろやかな味。チーズケーキやドーナツに合わせたいコーヒーです。

それに対して、香りのブレンドは、エチオピア、ケニア、ブルンジ産の豆が使われていて、酸味というより爽やかな香りのすっきりした味わいです。浅煎りが苦手なはずの私も、おかわりしたくなる味でした。こちらは、マドレーヌやフィナンシェのお伴がおすすめだそうです。

とはいっても、敬子さんによれば、コーヒーの味を決めるのは、なんといっても豆!

工房ハグのコーヒーの美味しさの秘密は、生豆の丁寧な選別にあるといいます。

「珈琲焙煎工房Hug(ハグ)」の作業風景

百聞は一見に如かず。早速その作業の様子を見学に、「珈琲焙煎工房ハグ」を訪れてみました。

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ここで使われている豆は、生産者や農園が明記されたスペシャルティコーヒー豆のみ。これは、基本的には選別の必要はないとされる豆で、日本の市場に出回っているコーヒーに占める割合は、わずか一割未満。けれども、その豆を、工房ハグではさらに丁寧にハンドピックで選別しています。

取りのぞくのは、具体的には、未熟な白っぽいものや、割れたり、欠けたりしている豆。選別は焙煎前だけでなく、焙煎後にも行っており、最終的に取りのけられる豆は全体の2割に上ります。

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工房では、自家焙煎した豆をその場で完全遮光パッケージに詰めており、その新鮮さも味の良さに貢献しています。豆の選別だけでなく、焙煎、ドリップバッグパッキングもすべて手作業。根気を要するこれらの作業に従事するのは、高次脳機能障害を持つ人たちです。

「見えない障害」

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高次脳機能障害というのは、交通事故や脳卒中が原因で脳に損傷を受け、記憶力や集中力、言語などに生じる障害を指します。外からは見えにくい障害であるため、社会的認知度も低く、周りの理解を得づらい障害でもあります。

珈琲焙煎工房ハグを運営するのは、一般社団法人高次脳機能障害者サポートネット。つまりこの工房は、障害のある人たちが、社会復帰を目指して、リハビリ就労する場でもあるのです。

コーヒーの香り漂う工房では、みな真剣な表情で作業に取り組んでいますが、全体の雰囲気は明るく和やかで、休み時間には、軽口も飛びだし、仲間やスタッフと関わることも、リハビリの大切な要素だということがよく分かります。

起業に至る2つの転機

工房立ち上げメンバーのひとりである敬子さんも、高次脳機能障害に無縁ではありません。8年ほど前、当時小学1年生だった末の娘さんが交通事故に遭い、脳に障害を受けたことが、この障害を知るきっかけでした。

でも、まさか、自分が起業するだなんて、考えたこともありませんでした」と控えめな笑顔で話してくれた敬子さん。

もともとは、CADオペやプログラミングの仕事をしていた敬子さんが起業にいたるまで、大きな転機は2つあったといいます。

ひとつは、2人目のお子さんが発達障害だと判明した2000年ごろ。療育の現場を知ることで、子どもの視点で遊び学ぶ楽しさに気づかされました。当時30代前半だった敬子さんが、そこで取った行動は、なかなかユニークなもの。なんと、自らその職に就こうと、独学で保育士の資格を取得したのです。

子どもたちの成長を待って、ようやく念願の保育士の仕事を始めた頃に遭遇したのが、末の娘さんの交通事故でした。これが2つ目の転機となります。

高次脳機能障害者の存在を知り、2014年には、介護福祉士の資格を取得した敬子さん。働き盛りに障害を得た人びとが、リハビリ期間中も「何か役に立つことをしたい」という意欲を持ち続けるのを見て、社会復帰準備の場となる工房ハグを立ち上げるに至ります。

悩みを原動力にして前へと進む

人によっては、つまずきとしか捉えられないであろう経験を、自らの人生を豊かにするチャンスにしてきた敬子さんの姿勢には、多くのことを学ぶ思いがしました。

今の敬子さんの願いは2つ。ひとつは、高次脳機能障害という、外から見えない障害を抱える人びとの存在について、できるだけ多くの人に知ってもらいたいというもの。その目的で、講演会も定期的に開いています。

もうひとつは、ハグのコーヒーの更なる売り上げアップ。すべて手作業なので量産はできませんが、もう少し売り上げを伸ばし、それにより工房ハグとその活動の知名度も上げたいと願っています。

悩みを抱え込まないために、ひたすら前に進んできた」という敬子さんの望み。ぜひ叶いますようにと、私もエールを送りたくなりました。それになにより、このコーヒーの味をもってすれば、きっと遠くない未来に、願いは現実に近づくに違いないと思えたインタビューでもありました。

一般社団法人 高次脳機能障害者サポートネット コーヒー焙煎工房Hug(ハグ), pur-cafe.com, Specialty Coffee Association, 日本スペシャルティコーヒー協会によるスペシャルティコーヒー豆の定義

Writing by冠ゆき

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