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怒りをパワーに変えるには。有森裕子さんの怒りとの向き合い方

怒り

怒りをパワーに変えるには。有森裕子さんの怒りとの向き合い方

仕事で、家庭で、友人関係で、あらゆる場面に潜む"怒り"の感情。

「どうして私が?」「なぜこの人はこんなことを言うの?」「もっと頑張ればいいのに、彼女は手を抜いてばっかり」

怒りにまかせて爆発していてはヒステリックな人だと警戒されてしまうし、かといって抑え込むのも苦しいもの。そんな厄介な"怒り"との付き合い方を、元マラソンランナーの有森裕子さんに伺いました。メンタルコントロールが大切なスポーツの世界で培ったのは、怒りをパワーに変える方法。その秘訣をたっぷりお話しくださいました。

* * *

まさかの失格。やり場のない怒りをエネルギーに変換

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怒りや嫉妬は苦しい感情ではあるけれど、私はときに大きな力となって自分を鼓舞してくれるものでもあると思います。選手時代を振り返っても、怒りを原動力にギアを入れ直したことが何度となくありました

なかでも忘れられないのは、リクルート社のランニングクラブに入部して間もない頃のこと。当時の私の大きな目標は、故郷の岡山県代表として国体に出場することでした。国体で結果を出して、生まれ育った岡山県に恩返しがしたい。強い気持ちを胸に最終予選に臨み、優勝を勝ち取ることができたのです。

「これで念願の国体に出場できる!」

そう信じていた私を一本の電話が打ち砕きます。岡山県での選手登録がされていなかったため、県の代表として国体に出場することはできないというのです。私はすぐさまマネージャーに連絡をとり、登録不備を訴えました。すると、マネージャーから返ってきたのは「有森のタイムが悪かったからじゃないの?」という言葉。監督に訴えても「マネージャーが正しい」のひと言。とにかく悔しくて、烈火のごとく荒れ狂いました。

でも、ふと冷静になって考えると、そもそもは私の実績不足が招いた結果だと思ったのです。私が注目される選手であれば、登録を忘れられるなんてことは起こらなかったでしょう。訴えが通らないのも、私が評価されていないから。

「強くなるしかない」

現実を受け止めるのは相当苦しかったけれど、切り替えてしまえばやるべきことはシンプル。怒りを闘志に変えて練習に打ち込んだことが、無名選手だった私を押し上げてくれた原動力だったと思っています。

目的意識があれば、ネガティブな感情に振り回されない

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もともとマラソンは、能力があって始めたわけではありませんでした。選手としての善し悪しを考えられるようなレベルではなく、とにかくトレーニングをこなす必要があったのです。なぜなら、「できる」ことがわからないと「できない」こともわかりませんから。結果が出ないことに悩むほど、あらゆる方法を試してもいない。そう思っていました。

国体の一件は、いちばん大事なものを確認する機会でもありました。私は走るためにチームに入り、強くなるために練習をしている。私にとってもチームにとっても、一番の価値は強い選手になること。目的が明確になったら、人に怒りをぶつけている場合ではなくなった、というのが正直なところです。

当時の私の心境は「人なんてどうでもいい」(笑)。チームメートのなかには、監督の指導法に異を唱えたり、練習メニューに不満を漏らしたりする人もいました。でも、いくら不平を言っても監督が変わるわけではありません。タイムが縮まらないのを監督のせいにして怒っても、速く走れるようにはなりません。だったら、監督にくらいついていくほうが目指す道に近いはずです。

監督に「俺はお前を弱くするためにいるんじゃない。強くしようと思ってメニューを出している」と言われたことがあります。この言葉は、仲間たちの愚痴よりもずっとストンと腑に落ちました。「ひどい」「理不尽だ」と感じたときも、相手の振る舞いの理由を客観的に考えてみると、案外納得できることも多いかもしれませんね。

現状を変えたいと思うなら、自分に目を向ける

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他人や環境が変わるのを待つより、自分が変わるほうが何倍も早い。これはスポーツに限らず、いろいろな場面でも言えることではないかと思います。

うまくいかないこと、納得できないことが起こると、その要因を外に求めたくなります。でも、多くの場合、怒りの原因があるのは自分。「他責」からは何も生まれません。現状を変えたいと思うなら、自分の内側へと目を向けること。自分さえ整えていけば自ずと物事は整うし、無駄な怒りに振り回されることもなくなるはず。周囲に怒りを向けてイライラを増幅させるより、その力を自身に向けて行動していくほうが気持ちも楽になる、と私は感じています。

とはいえ、切り替えができずにムシャクシャしてしまうこともあります。そんな日は「私はあのことを引きずってイライラしている」と、なるべく自分を客観視。そのワンクッションで、少し冷静さを取り戻せるように思います。周囲に「今、ちょっと機嫌悪いよ」と宣言することもありますよ(笑)。

無意味な「なんで?」は封印

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マラソンという競技の特性も、私の考え方の土台になっています。コースも、走る人数も、天候も、走るたびに条件が変わるのがマラソンです。でも、当日になって「なんでこんなに暑いの?」「なんでこんなコースなの?」と言ってみても始まらない。そのときの条件を全部受け入れて、起こることをすべてプラスに変えていく力が必要です

だから、結果を出すには「なんで?」は禁句。走っている最中に、「なんで」と考えても足が重くなるだけです。本番に役に立たないことは考えない。たとえば、10の準備をして臨みたかったけれど、ひとつしか対策できなかったとします。でも、当日になって「9つもできなかった」と振り返っても、もはや意味がありません。それよりも、やってきたひとつの対策を生かすことを最大に考えるべき。そうすれば、その日のベストを尽くせるはず。

これは競技を離れてからも心がけていることです。プレゼンや会議の現場で「なんであれがないの?」「なんでこの準備をしなかったの?」なんて言っても、状況は変わりません。

変わらないことに対しては、怒っても仕方ないと思うのです。理想通りにならないことが多いのは、マラソンも日常生活も似ています。状況にあらがって自分を押し通そうとすると、かえってよい結果にならない。状況が変わるのを待っていては、停滞してしまう。

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パワーに結びつかない怒りは、しなやかに視点を変換。できること、準備してきたことに目を向けます。そして、めざす目的や方向がブレないのなら、自分が変化することをいとわず合わせてみる。これは、大舞台で力を発揮する秘訣でもあると思います。

怒りや嫉妬をどこでどう使うか。他人に向けるのか、自分の発奮や反省材料にするのか。すべては自分次第なのだと思います。いい使い方ができたら、怒りは厄介なだけじゃなく、きっとプラスの力を持つものになるはずです。

20171017_yukoarimori_profile.jpg有森裕子(ありもり・ゆうこ)さん

岡山県出身。日本体育大学を卒業後、リクルートに入社。1991年の世界陸上選手権女子マラソンで4位入賞。92年のバルセロナ五輪で銀メダル、96年のアトランタ五輪で銅メダルを獲得。2002年にアスリートのマネジメントをおこなう株式会社RIGHTS.を設立。2007年にプロマラソンランナーを引退。NPO法人ハート・オブ・ゴールド代表理事、スペシャルオリンピックス日本理事長などを務め、スポーツと文化で社会を元気にする活動に取り組む。

撮影/YUKO CHIBA、取材・文/浦上藍子、企画・構成/寺田佳織(カフェグローブ編集部)

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