「ゴ・エ・ミヨ」編集長・宮川俊二さんが注目する、30代シェフのフレンチレストランをご紹介していく連載「今いちばんおいしい東京をどうぞ」。今回、前編に続いてご紹介する外苑前のアビス(Abysse)」は、魚介専門のフレンチレストランです。今年32歳のシェフ目黒浩太郎さんが、「30歳になるまでに独立する」という目標を叶え、29歳のときに開いた店なんだそう。

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矢印のようにも見える青い魚のアイコンに導かれて、深いブルーの光に照らされた静謐な店内へ。

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真っ白なテーブルにつけば、その名の通りフレンチの深海に降りていくような気分に。魚介のレストランというコンセプトと、フレンチの奥深さを追求したいというシェフの志が内装からも伝わってきます。

天邪鬼だった高校時代

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祖父は日本料理の板前、母は栄養士という、食にこだわりのある家で育った目黒さん。

目黒さん「料理人になりたいと思ったのは高2くらいのときです。ひとつの道を志す人は、大抵その道に入った明確な理由があるものだと思いますが、僕は正直言ってなくて。もともと天邪鬼で、人が盛り上がっていると引いてしまうタイプ。高校は進学校だったから、まわりが受験勉強ばかりしているのを見ているうちに、『手に職をつけたい、自立したい』と思うようになりました。

20代のころは、それがなぜ料理人だったのかはわからなかった。今思い返してみて、原体験は祖父だったのかなと。かっこいいおじいちゃんが大好きだったので」

卒業後、日本で修業してからフランスの三ツ星レストラン「ル・プティ・ニース」へ。三ツ星レストランに片っ端から手紙を送り、一番早く対応してくれたのが「ル・プティ・ニース」だったそう。マルセイユ随一の魚料理のレストランで働くうちに、「魚介専門のフレンチ」というイメージが湧いたと話します。

自分の哲学があれば自由でいい

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目黒さん「『ル・プティ・ニース』の魚料理は、本当に美しい。でも、魚そのものの鮮度や味わい、水揚げしてからの処理は、正直言って日本の方が上だと感じていました。日本の繊細な魚でこれをやれたら、どんなに美味しいだろうって。フランスに行って、魚介だけのレストランで働いてみて、逆に日本の魚の良さに気づかされました

帰国後は、破竹の勢いの「カンテサンス」へ。師事した岸田周三シェフとの絆は今も深く、専門誌『料理王国』の12月号では、岸田シェフとともに表紙を飾っています。

目黒さん「自分の作業を疑うこと。自分が本当に納得して皿の上に盛ったのかということを、常に問われる仕事場でした。その反面、そこに自分の哲学があれば、常識にとらわれる必要はない、自由でいいんだと。

『オルグイユ』の加瀬さんもそうですが、『カンテサンス』出身のシェフはみんな活躍している。それは、本当に美味しいものは自分で追及しなきゃいけないんだという哲学を、『カンテサンス』で学んだからだと思うんです」

とはいえ、自身の哲学はまだ構築中という目黒さん。

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目黒さん「ブレているというか、変化し続けている感じです。シンプルにしたくなったり、複雑にしたくなったり。仕事のしかたも『プロフェッショナルにやらなきゃ意味ない』と無言で集中する期間が続いたかと思えば、『いや、楽しまなきゃいい料理なんて生まれないよ』と厨房で洋楽をつけっぱなしにしたり(笑)。でも、前に進み続けるという点ではブレていないと思う。今やっていることを壊して、進化していくことが僕のテーマなのかもしれません」

フレンチの海に深く潜る

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海外の「今行くべきレストラン」ランキングに掲載されるなど、外国人の訪問者も増えている「アビス」。よりヘルシーな魚介フレンチに期待する人から、クリエイティビティを求める人まで、客層はさまざま。魚介だけでコースを組み立て、常に驚きと満足を提供するのは至難の業です。

目黒さん「お寿司屋さんと同じで、ネタがかぶらないように、コースの流れには気を使います。9皿、10皿くらいでお任せコースを組み立てますが、甲殻類、貝、白子などの内臓系をどこで出すか。淡泊になりすぎないように、肉の出汁やソースも組み合わせて。魚だけだとやっぱり物足りないね、なんて言われたら、1番残念ですから」

季節感が強く出る「魚介」に特化するからには、最高に新鮮で美味しいものを提供したいと語る目黒さん。深まる秋から冬に向けて、楽しいメニューをいろいろと考案中です。

目黒さん「やってみたいのは、栗と甘鯛の組み合わせ。あとはイクラとか、明太子も使ってみたい。明太子のチュロスなんていいですね」

「アビス」が見せてくれるフレンチの深海は、どこまでも果てしなく広がっていきそう。まっすぐに突き進む魚のモチーフが、シェフの目黒さん自身のように思えてきました。

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「アビス(Abysse)」オーナーシェフ/目黒浩太郎さん

1985年神奈川県生まれ。服部栄養専門学校を卒業、「フロリレージュ」を経て、フランスへ。マルセイユの「ル・プティ・ニース」に勤め、帰国後「カンテサンス」で修業する。29歳で独立し、「アビス」を開店。

公式HP

撮影/八田政玄 取材・文/田邉愛理