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自慢することではないが、僕は毎日ダイエットコーラを2リットルも飲む。6缶分だ。とにかくダイエットコーラの味が好きなのだ。「倹約経済」をうたう経済学者として、ノーブランド商品に変えた方が節約になることはもちろん十分承知している。毎日の小さな金額の差は数年後、ちりも積もって山となるだろう。でも、僕はノーブランドコーラを試したことさえない。
物事を決定するときの癖や思い込み(「意思決定バイアス」と呼ばれる)による損失は、蓄積するとかなりのものとなる。けれど僕はプライベートな生活の大小さまざまな場面で、新しいことをほとんど試さない。そういう人は多いんじゃないだろうか。
「いつもと同じ」を繰り返す安心感
人はブランドにこだわる。薬選びを例にとると、名前が通ったブランド医薬品(先発医薬品)とジェネリック医薬品(後発医薬品)は、成分的には同じでジェネリックの方が安いとどんなに言われても、多くの人は冒険しない。
よく行くお気に入りのレストランにしても、僕がこれまでに食べたことのあるメニューは驚くほど限られている。職場にいるときのランチにしても、同じ店にばかり行っている。
新しいことにトライすれば、大きな見返りを得ることもある。だからそれを逃すのは本当はもったいないことだ。例えば僕の場合、ノーブランドコーラを試したって大したリスクはないし、それどころかノーブランドを気に入れば、将来にわたってコーラ代はずっと安くなるはずだ。
でも、同じ選択を繰り返してさえいれば、違うものを試した場合に起こり得る失敗やマイナス面は制限できる。ある研究によると、人間の行動の47%が習慣を基にしたものだそうだ。
僕たちが新しいことへのトライ、つまり「実験」に尻込みしがちなことを示した調査もある。2014年の冬、ロンドンの地下鉄の職員たちが2日間のストライキを実施した。そのためにいつもと違うルートを使った通勤客のうち約20人に1人は、それまで平均32分かかっていた通勤時間を、新しいルートによって7分近く短縮することができた。それでもほとんどの人はストライキが終わると、元のルートに戻ってしまったのだ。
おまけに、ストライキがなければ多くの人が違うルートを試しもしたことがなかったという事実は、新しいことをトライしたがらない風潮が根深いことを明らかにした。
トライすることには「痛み」が伴う
習慣というのは強力だ。僕たちが多くのことにこだわるのは、いま現在の状態に重きを置きすぎる傾向があるからだ。新しいことへのトライには「痛み」が伴うかもしれない。「いつもと違うことをして、もし気に入らなかったらどうしよう」とか、「今、楽しいことを手放さなければならないかも」などと考えてしまう。
新しいことを試した場合の「犠牲」はすぐに払わなければならないのに対し、恩恵の方は、たとえ大きかったとしても、しばし先の話でピンと来ない。だから、大好きな店で他のメニューも試してみたいけど、今日のところはいつものにしておこう……となってしまう。
「自信過剰」もまた、僕たちが習慣の範囲にとどまってしまう原因だ。新しいことを試してもいないのに、それがどんなものか十分想像できる、なんて思ってしまう。
それに僕たちが「選択している」と思っていることの多くは、本当の意味での選択ではない。スーパーの棚の前で僕は考え抜いてコーラを選んでいるわけじゃない。自動的にダイエットコーラのボトルをつかんでカートに入れているだけだ。
先入観を捨てて「謙虚に」踏み出そう
人があまりトライしないのは、プライベートな生活の話に限らない。会社の経営陣や政治家たちも新しいことを試せずにいるが、そのツケがじつは非常に大きいことだってあり得る。例えば人事採用の際、応募者のうち誰が社員としてフィットするか、幹部たちが参考にするのは先入観、つまり自分の頭の中にあらかじめある社員像だ。だが、そうした推測は仮定にすぎず、試してみた上で吟味されることはほとんどない。
パッと見て自分の会社に合いそうにない人物を雇うのは確かにリスクがある。けれど、応募者が男性だからとか白人だからとか、経済的・文化的に恵まれた生い立ちだからという先入観に基づいて判断すれば、その人物像の決めつけが間違っていることもあるし、別の選択をする方がずっと有益なことだってあるだろう。
一方、政府の政策を立てる人々にとっては「実験」はなかなか難しい。他人の人生を左右するという意味では、「実験」に慎重になることは正しいだろう。けれど自動的に現状維持をよしとしてしまう先入観に対しても、僕たちは同時に警戒心を持つべきだ。
新しいことをトライするには、謙虚さが要る。違うことを試す以外には知る手段がないと、認めることになるからだ。その事実を理解することが最初のステップだが、重要なのはそこで行動を起こすこと。古い習慣にこだわり続けるのは心地良いけれど、そのうち僕も本当にノーブランドコーラを買ってみようと思う。
©2017 The New York Times News Service[原文:Why Trying New Things Is So Hard to Do/執筆:Sendhil Mullainathan](抄訳:Tomoko.A)
※センディール・ムライナサン/ハーバード大学経済学部教授
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