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女性の社会進出阻む、もう一つのバリア「老親ケア」 [The New York Times]

The New York Times

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Photo by Gettyimages

米国では、働く女性の増加が止まった

今世紀に入ってしばらくして以降、米国では女性の労働市場への参入が頭打ちとなった。約50年にわたって続いていた働く女性の増加が、なぜ急に止まってしまったのか? 政策関係者や社会学者は頭を悩ませてきたし、私も12年前にこのニューヨーク・タイムズで取り上げたことがある。家庭での女性の役割の影響なのか、労働条件のせいなのか?

さまざまな議論をへて専門家たちが大まかに一致したのは、圧倒的に女性が担っている子育てが負担となっているという分析だった。子育ては確かに女性の仕事にとって強力なバリアになっている。例えば父親の育児休暇が法律で認められていたり、保育が無償化されたりしている先進国では、米国よりも女性の就業率が高い。

しかしこの分析だけでは、女性が労働市場にとどまることに対するおそらく最大のバリアを見逃している。そしてそのバリアは年々厳しくなっている。そのバリアとは、つまり「高齢化」だ。私たちは子育てに注目しすぎて、米国に「高齢者ケア危機」の時代が迫っていることに気付いていなかったのだ。

介護の負担は圧倒的に妻や娘に

例えば現在、米国では人口の15%近くが定年に達している。働き盛り世代(25~54歳)の女性の労働市場参入が頭打ちになったのは21世紀に入ってからだが、その数年前の1995年よりも現在の定年退職者の人口比率の方が約2%多くなっている(国連統計)。働き盛りの世代の米国人4人に対し退職世代が1人という割合だ(世界銀行統計)。

この米国の高齢者1400万人の中には、自立して生活できない、あるいは誰かを介護している人がたくさんいると、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院のポール・オスターマン氏は言う。

介護の負担がかかっているのは、圧倒的に妻や娘たちだ。「米国人の時間の使い方調査」によると、35~44歳の女性の7人に1人、45~64歳の女性では約4分の1が、年老いた家族や親せきのケアをしており、大きな負担となっている。また全米保険監督官協会の2016年の報告によると、介護をしている人たちのうち10%は労働時間を減らさなければならず、6%は完全に離職しなければならない状況だという。

介護に使う時間は週に約20時間

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87歳の母ネリー・レベントンさん(右)の腕に手を置く息子のアレックス・ザイガーマンさん。2013年6月3日、ニューヨークで(Michael Nagle/The New York Times)

保険会社ジェンワース・フィナンシャルの2015年の調査では、介護者が介護のために使っている時間は週に約20時間だった。これはフルタイム社員の労働時間の約半分を、介護に充てている計算になる。また介護者5人につきほぼ4人が、そのために仕事を休んだことがあり、10人に1人は仕事を失っている。6人に1人は介護のために収入が約3分の1減ったと報告している。

仕事に就けない、長く働けない、賃金が上がらない

ニューヨーク州立大学バッファロー校とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者2人は、20年間にわたって、50代前半から60代前半に至る女性たちを追跡調査した。このうち介護をしている女性が仕事をしている割合は8%低く、介護をしながら働いている女性たちも労働時間を減らしたり、賃金の伸び率が低かったりすることが分かった。長期的にみて、介護をしている女性は収入がより低いというリスクを負っていて、自分自身が老いてからは貧困に陥るリスクが高いと、ニューヨーク州立大のマックギャリー氏は指摘している。

こうした負担は重くなる一方だ。2030年までにはアメリカ人の5人に1人以上が定年に達するが、ベビーブーム世代では平均3年の長期介護を必要とし、うち5人に1人は5年以上の介護を必要とするという予測もある。歳を取ればもちろん体が不自由になったり、認知症のような慢性病にかかったりもする。

超富裕層以外には厳しい未来の高齢化

ハーバード大経済学部教授のローレンス・F・カッツ氏はこう警告している。「もしもあなたが超富裕層で何にでもお金を払えるというのならば、問題ではないかもしれません。しかし中流層だと、家族や親せきの誰かが介護が必要になると、その人の資産を全部使い果たしてしまい、メディケイド(米国の低所得者向け公的医療保険制度)や家族によるケアに頼ることになりがちです」

また現在、親の介護をしているベビーブーム世代とは違い、その子どものミレニアル世代になると少子化で、親のケアを分担できるきょうだいの数も少なくなる。さらに離婚率が上昇していることから、ベビーブーム世代では伴侶に頼れず子どもに頼る例も多くなりそうだ。

未来の高齢者は寿命もさらに延びるだろう。つまり、自分自身も50代に突入しているのに、子どもと親の世話をしながら仕事もやりくりしていく介護者がたくさんいるという状況が予測される。

社会的セーフティーネットの強化が必要

米国でも介護職は急成長しており、米労働省では向こう10年間で訪問介護士や介護福祉士など120万人が新たに加わるとみている。しかし賃金が低く専門スキルをあまり必要としない介護職を、求職者にとっても魅力的な賃金とクオリティの高い専門職にどう変えていくかが重要な課題となっている。

さらに広い範囲で社会としての課題もある。専業主婦が家にずっといて、寿命は今よりも20年短かった1930年代に築かれた社会的セーフティー・ネットを、夫婦共働きで子どもや高齢者のケアと仕事を両立させなければならない現代社会にどうやって適合させるかという問題だ。

米国では与党・共和党とトランプ政権が法人税や富裕層の所得税を減税し、一方でメディケイドやメディケアといった公的医療保険制度の縮小を図ろうとしている。だが、今こそ増えている介護需要を取り入れて、セーフティー・ネットを強化していくときではないだろうか。

MITのオスターマン氏は昨年出版した著書『Who Will Care for Us?』(誰が私たちの介護をするのか?)の中で、成人の家族・親族のケアを無償で行っている人は全米で約2100万人いると推計している。さらに2040年までには3400万人に増えると予想している。

女性の職場離れ、経済にも損失

米国で国民皆保険制度の拡充を掲げる推進団体「ケアリング・アクロス・ジェネレーションズ」のアイジェン・プー氏は、民間保険では万人のための介護にかかる膨大なコストをカバーする資金を留保するだけのリスクを負えず、解決できない問題だと語る。「保険会社はみんな(介護関連)市場から撤退しようとしている。市場では解決できない問題です」

連邦政府レベルでの行動が期待できない中、プー氏は州ごとの政策に期待をかける。同団体ではこれまでにハワイ州の介護支援金の制度化や、メーン州での皆保険に関する住民投票などの実現に力を尽くしてきた。何らかの公的介入がなければ「高齢世代にとっても、彼らをケアする働く世代にとっても、人道危機になりかねない」とプー氏は言う。さらに、今よりももっと多くの働き盛りの女性たちが高齢の親の介護のために離職し始めれば、米国経済にとっても問題となるだろう。

©2017 The New York Times News Service[原文:How Care for Elders, Not Children, Denies Women a Paycheck/執筆:Eduardo Porter](抄訳:Tomoko.A)

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