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外相はDV被害経験者。スウェーデンの「非暴力」フェミニスト外交 [The New York Times]

The New York Times

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オーストラリア外務大臣ジュリー・ビショップ氏(左)とスウェーデン外務大臣マーゴット・バルストロム氏(右)のツーショット(Photo by Alex Wong/Getty Images)

今から30年以上前。スウェーデンのある街で1人の男がガールフレンドの髪の毛をつかみ、ものすごい力で彼女を洋服だんすに叩きつけた。ごっそりと抜けた彼女の髪の毛が、束になって彼の手から落ちた。

彼女は20代前半、スウェーデン社会民主労働党の新進気鋭の活動家だった。この後、交際関係を解消すると、彼はナイフを持って彼女の部屋へ押しかけ、Tシャツの上から彼女に切りつけた。さらに彼女の喉にナイフをはわせ、あごに小さな傷を負わせると、男は手を止め、歩いてドアから出て行った。後に残された彼女はショックで凍りついていた。

この女性は、若き日のマーゴット・バルストロム氏(63)。現在のスウェーデン外相だ。バルストロム氏は今、スウェーデンで最も人気があり、同時に最も議論を呼ぶ政策を打ち出す政治家の一人だ。

カクテルパーティーは外交官の仕事じゃない

外交を担う大国の男性政治家たちに囲まれて、彼女の存在は際立っている。スウェーデン北部の田舎で製材所の作業員の娘として育ったバルストロム氏は、大学へは行っていない。だが、2014年に外相に就任すると「フェミニスト外交」と名付けた方針を掲げ、スウェーデンの国際関係の軸に男女同権を置いた

社会運動家としての理念を大切にし、利益重視の政治に異を唱えるバルストロム氏の姿勢は、世界有数の武器輸出国であるスウェーデンで有力者たちを敵にまわしてきた。その上、バルストロム氏は、主要な貿易相手国サウジアラビアの人権軽視を非難し、北大西洋条約機構(NATO)の警告を無視して国連(UN)の核兵器禁止条約を支持し、アメリカのドナルド・トランプ大統領への嫌悪を隠そうともしない

態度が外交的じゃないという非難を受けると、バルストロム氏は嬉しそうにうなづく。「時間は本当に限られている。カクテルパーティーを回っている暇はない。そういうのは外交官の仕事ではないと思っている」

紛争被害の女性たちに重なったDVの記憶

性的暴力は、バルストロム氏が常に関心と不快感を抱いてきた問題だ。閣僚ポストを歴任する中で彼女は、売春を売り手ではなく買い手側の罪とする法律の改定に協力した。国連では「紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表」を務め、コンゴやシエラレオネの紛争で兵士にレイプされた女性たちの話に耳を傾けた。この時期、バルストロム氏は「ベニー」の記憶を振り払った。

「ベニー」はバルストロム氏が20代の時に同棲していた年上の党の活動家で既婚者だった。2013年の自伝で初めてバルストロム氏は彼のことを語った。「それはもちろん、ずっと私について回ったし、そのせいで今の私がある」と彼女は言う。

#MeToo運動でほとんどすべての女性たちが言っているのは昔、自分の身にそれが起きた当時はよくあることだと思っていたことでも、今だったら違う風に考えるはずだということ。どうして私たちは我慢していたのか? どうして私たちはそんな口のきき方をされて良しとしていたのか?」。最後にベニーと会ったとき、酔ってやって来た彼はバルストロム氏の喉にナイフを当てた。「彼は自暴自棄になっていました」。

「私は二度と話したくなかったし、彼に出て行ってほしかった。そして本当に限界のやり方で『決めるのは俺だ』と示された。力を見せつけられたのです」。

あの部屋から逃げ出してから、バルストロム氏は変わった。前ほど世間知らずではなかった。数か月後、25歳で初めて当選し、スウェーデン議会の議員となった。5年後には大工の男性、ホーカンと結婚した。切れやすかったベニーとは対照的に穏やかな青年だった。夫妻には2人の息子が生まれたが、3人目の子どもは幼くして亡くした。非常に辛いこの経験を通して「私は怖いもの知らずになった」とバルストロム氏は言う。

虐待を受けた女性たちの話を職務で何日間も聞いた時も、自分がベニーの話をすることは滅多になかった。「彼女たちが言っていることは、意識しなくても深いところで理解できた。私はその無力感を知っていた。それは誰かの力と支配の下に自分がいるという屈辱的な体験なのです」。

実業界や外国政治家の圧力にも動じず

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スウェーデン外相、マーゴット・バルストロム氏 (Photo by Ron Sachs-Pool/Getty Images)

2014年、バルストロム氏が打ち出したフェミニズムを重視する外交政策は周囲を驚かせ、世界中で大々的に報じられた。そして彼女を外相とするスウェーデンの外交姿勢は、ドナルド・トランプ米大統領の登場とともにいっそう鮮明になった。

2017年の夏、トランプ政権が人工妊娠中絶を支援する医療団体への助成を打ち切ると、スウェーデンはこれに対抗して、その分を埋め合わせる基金の設立に協力を申し出た。

スウェーデン国内の外交官や安全保障の専門家からは、バルストロム氏の運動家的な姿勢が、スウェーデンの貿易や安全保障をリスクに晒しているという批判も上がっている。例えば、バルストロム氏は外相就任と同時にパレスチナを国家として正式に承認した。以来、イスラエル政府との関係は冷え込んでいる。

2015年にはサウジアラビアが女性の人権や言論の自由を制限していると非難し、サウジ政府が自国の大使を呼び戻す事態に発展した。サウジアラビアはスウェーデンにとって主要な貿易相手国。バルストロム氏に対し、通信機器メーカーのエリクソンやアパレルブランドのH&Mといったスウェーデン企業の幹部たちは、輸出へのダメージを警告する書簡を送りつけた。

この時を振り返り、バルストロム氏は苦々しげにこう語る。「全く何も起きませんでした。弱気な彼らには教訓にしてほしいと思う。私はとても腹が立った。怒りを感じました」。

自分の基本の価値観を貫いて

2017年の夏、スウェーデンが国連の「核兵器禁止条約」に調印すると、今度はアメリカのジェームズ・マティス国防長官から書簡が届いた。NATOを含む核保有国との協力を縮小する条約を批准しないようにという警告だった。平和主義者を自認するバルストロム氏は、このアメリカの介入もはねつけた。「私たちは誰かの言いなりになどならないのです」

ニューヨークの国連本部から帰ったバルストロム氏は、首都ストックホルムから300キロほど離れた湖畔に夫と住む家で10時間通しで寝続けてから、心臓が止まりそうなほど冷たい湖の水に浸かるという日課を再開した。

セクハラや虐待を受けた女性たちが体験を語る姿を、バルストロム氏は時に自分ももっと語るべきだろうかと自問しながら、少し距離を置いて見てきた。ベニーに脅されたあの日から世界の見え方は変わった。どう変わったのかは、たぶん自分でも意識していなかったとバルストロム氏は言う。

「人が何者かになるには20年かかるとよくいいます。人生の基本となる価値観を得て、自分にとって最も大切な物事は何か見出して、それを人生の荷物として人は送り出されていく。私はすでにそれを持っていた——もちろん、私はすごく変わりました」。少し間を置いてからバルストロム氏はさらに言葉を続けた。「でも、少女だったあの自分の中に、今の私はいたのです」

©2017 The New York Times News Service[原文:Sweden’s Proponent of ‘Feminist Foreign Policy,’ Shaped by Abuse/執筆:Ellen Barry](抄訳:Tomoko.A)

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