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アイデンティティの大変化。精神科医がみた、もう一つの母親論 [The New York Times]

The New York Times

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多くの女性にとって、母になることは大なり小なり様々な意味を持ちます。精神科医で、産前産後の心理について共著書を持つアレクサンドラ・サックスが、この「女性が母になる」プロセスを、心理学視点から論じます。ニューヨーク・タイムズで、2017年最も読まれた記事の一本。(以下、2017年5月9日付ニューヨーク・タイムズ記事の翻訳)

母になること=アイデンティティの大変化

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photo by Getty Images

女性にとって、妊娠して母になるのは大きな喜びです(少なくともしばしの間は)。でもほとんどのお母さんは、不安、落胆、罪悪感、競争心、フラストレーション、さらに怒りや恐怖までもを体験します。

心理学者のダニエル・スターンは、1990年代の著書『The Motherhood Constellation』『The Birth of a Mother』の中で、母親という新たなアイデンティティを誕生させることは、赤ちゃんを産むことと同じくらい大変なことだと説明しています。母親になるということはアイデンティティの変化であり、女性が経験することの中でも最も重要な肉体的、心理的変化なのです。

女性が母親になっていく過程を、人類学者はmatrescence(マトレセンス)と名づけました。これは医学会があまり研究をしてこなかった分野です。赤ちゃんの成長だけに目を向け、女性のアイデンティティの変化については軽視されてきたのです。母親の心理状態が子育てに与える影響は言うに及ばず、女性がどのようにして母親になっていくかは、研究対象として重要視されるべきです。男性が父親になる過程ももちろん大切ですが、女性の場合は妊娠によるホルモンの変化に加え、神経生物学的な面が関わる場合もあります。

人は感情について深く理解することで、行動をうまくコントロールすることができるものです。ですから妊娠中あるいは産後の女性の心理が理解されるようになれば、育児にもプラスになるでしょう。母親が自身の心理状態を認識すれば、子どもの気持ちへの共感力も強化できるかもしれません。

新しく母になる女性たちが直面する問題と、そこに生まれる感情から、一般的なものを4つあげましょう。

1. ファミリーダイナミクスの変化

赤ちゃんを産むというのは創造的な行為です。妊娠は、新しい人間を作ると同時に、新しい家族を作ることを意味します。赤ちゃんは新しい可能性へのカタリストです。パートナー、兄弟姉妹、友人たちとの間に、より親密な関係ともに、これまでにはなかったストレスをももたらします。

自分の母親のようなスタイルで子育てをするか、他のスタイルを取り入れるかに関わらず、母親になるということは子ども時代をやり直す機会を与えます。ある意味、女性は子育てを通じて自分の子ども時代を追体験して、よかったことを繰り返し、そうでなかったことは改善しようとします。母親との関係が難しいものだった場合は、「こんなお母さんが欲しかった」と思うような親になろうとするかもしれません。

2. アンビバレンス

英国のサイコセラピスト、ロズシカ・パーカーは著書の中で、子どもと一緒にいたい気持ちと自分だけのスペースも欲しい(物理的にも感情的にも)気持ちのせめぎ合いは、母親として普通のことだと述べています。相反する感情というのは、もっとも手のかかる関係において自分の役割を全うしようとするときに起こります。母親という役割も例外ではありません。アンビバレンスをどう扱っていいのか手こずる人が多いのは、矛盾する感情を持つのはあまり気持ちのいいものではないからです。

母親として経験することは、いいとか悪いとか判断できるものではなくて、いい面もあり悪い面もあるのが普通です。状況を受け入れて、相反する感情に慣れることが大切です。

3. 理想と現実

サイコアナリストのジョーン・ラファエル=レフは、赤ちゃんが生まれる頃には、女性は自身の赤ちゃん像ができあがっているものだと言います。妊娠期が進むにつれ、女性は自分の理想の子どものストーリーを思い描き、その筋書きに思い入れを持っています。

妊娠と母になることにまつわる理想は、自分の母、親戚の女性、友人、コミュニティやカルチャーから得た情報によって形作られます。現実が理想とかけ離れていれば、がっかりすることもあるかもしれません。

4. 罪悪感、屈辱感、「ほどよい母親」

女性の中には理想の母親像もあります。「いつも明るくハッピーで、子どものニーズを最優先する。自分にはさしたるニーズがない。あとで後悔するような判断はしない」。ほとんどの女性は空想の中の母親と自分を比較しますが、そのファンタジーが全て満たされることはあり得ません。中には「ほどよい母親」(小児科医・サイコアナリストのドナルド・ウィニコットによる概念)で妥協するのは許せないという女性もいます。でも完璧を目指せば、屈辱と罪悪感は避けられません。

母親が罪悪感を感じるのは、常に難しくて時には不可能な選択を迫られているからです。子どものために、自分のニーズが後回しになることもしょっちゅうです。でも女性は屈辱や罪悪感について話したがりません。恥ずかしいという気持ちは、自分がおかしい、間違っているという意識から生まれます。でもそれは往々にして、自分を非現実的で無理のある基準に照らし合わせていることに原因があるのです。

セレブママもしんどさを打ち明ける

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妊娠中のクリッシー・テイゲン(photo by Getty Images)

人にどう思われるかを怖がり、恥ずかしがって、女性はこうした複雑な体験について正直に話せずにいます。でもそのような孤立は、産後うつを引き起こしかねません

母になる以前の自分と、今あるべき自分との間で自分を見失うと、女性は自分はおかしいのではないかと不安が募ります。でもこうした不安な気持ちは、全くもって普通のことなのです。

『グラマー』誌2017年4月号でクリッシー・テイゲンは産後うつに悩んでいることを告白しました。過去にもアデル、グウィネス・パルトロー、ブルック・シールズといった有名人が、この問題を知ってもらうために自分の体験を語っています

産後うつは10~15%の母親が経験すると言われます。でもその多くが診断も治療も受けていない健康問題なのです。

インスタグラムに投稿される妊婦やスーパーマムの画像を見れば、子どもの面倒をちゃんとみて、よく気がついてセクシーで、なのに威張らないマルチタスカーが並んでいます。彼女たちは母乳漏れや汚物の洗濯、睡眠不足をものともせず、ヨガで美しさを保っています。でもそれは、架空の女性です。そのような、現実にはありえない完璧なモデルに倣おうとして、女性たちはその基準を満たせない自分はダメだと思ってしまうのです。

母としての生活に適応するには、疲労や悩みの原因を認めて、誰かに話すことが大切です。産後うつは母親になること過程で表出する兆候であり、出産後の女性はうつにならなくとも、大きな変化の最中にあるのです。このことを本人や周りの人たちが認識すれば、状況を改善していくことができるでしょう。

©2018 The New York Times News Service[原文:The Birth of a Mother/執筆:Alexandra Sacks, M.D.](翻訳:スマキ ミカ)

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