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ホーキング博士は私たちにたくさんの生き方を教えてくれた [The New York Times]

The New York Times

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Photo by Gettyimages

ガリレオ・ガリレイが亡くなった日の300年後に生まれたというプロフィールを好んでいたイギリスの宇宙物理学者で、ブラックホール理論の提唱したスティーブン・ホーキング博士が2018年3月14日に亡くなった。アルバート・アインシュタインが生まれてちょうど139年後の日だった。

ホーキング博士の人生を締めくくるのに、なんとぴったりの逸話だろう。

メディアにはアインシュタイン以来の最も優れた物理学者と評されることも多かったが、ホーキング博士自身はいつも、そうした表現はヒーローを求める大衆に突き動かされたメディアがあおっているにすぎないと語っていた。

長年そうした印象を世間に与えてきた責任の一端をわずかながらでも持っているかもしれない人間としては、頷くしかない。2人を並べるのは本当に正しかったのか、それは歴史が証明してくれるだろう。

いつか宇宙旅行をしたいと願っていた

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スティーブン・ホーキング博士。2015年7月20日ロンドン王立協会にて。(Tom Jamieson/The New York Times)

しかし、ホーキング博士の人生はアインシュタイン並みで、彼は間違いなくヒーローだった。それは博士が宇宙のことを私たちに教えてくれたからだけではなく、生き方を教えてくれたからだ。

博士が宇宙についてのそれまでの見方をひっくり返してみせたかどうかはともかく、私たちの思い込みは博士によって見事に覆された。

世間にとってホーキング博士は、「ザ・シンプソンズ」の主人公ホーマーの言葉を借りれば「車いす男」。しかし、ルー・ゲーリック病とも呼ばれる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、眼球しか動かせないほど全身の筋肉が徐々に動かなくなっていっていたにもかかわらず、博士は世界各地と、比喩的に言うなら宇宙をも歩き回り、2回結婚し、3人の子を持ち、出版する本はベストセラーとなり、長年、大学院生たちの指導にもあたってきた。

60歳の自分の誕生パーティーのときは、車椅子で街角を猛スピードで曲がろうとして転倒し、脚を骨折して現れた。面白いジョークにもつまらないジョークにも、目にいたずらっぽい笑みを浮かべた。国王とも、大統領とも、ナショナルフットボールチームのダラス・カウボーイズのチアリーダーたちとも交流した。リチャード・ブランソン会長が率いる宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船で、いつか宇宙の端っこに旅したいと願っていた。ホーキング博士はそんな人だった。

呼ばれるのを好んだ名前は、博士ではなくスティーブン。家庭的な人間であることを誇りにしていた。

飽くなき好奇心とユーモア

「ユーモアのセンスは語り草になっていた」と、Eメールで逸話を披露したのは、古くからの友人で、2017年ノーベル物理学賞を受賞したカリフォルニア工科大学のキップ・ソーンだ。SF映画『インターステラー』は2人のやり取りが下敷きになっている。「彼がコンピューターで何かの文章を苦心して作り始めるとき、それがどんな内容で終わるのか想像もつかなかった。深い叡智か、とっぴなジョークなのか」と、ソーンは語っている。

しかし、科学者の間では、アインシュタインの一般相対性理論に基づく量子重力論を唱えたことは永遠に記憶されるだろう。

アインシュタインやガリレオのように、ホーキング博士は、私たちが直感的に感じ取り、アインシュタインが理論を定めた力、すなわち重力について自身の研究の中で最も優れた功績を残し、「宇宙ではどの光も曲がってしまう」ほどの重力で、星の光すら歪んでしまうという説を打ち出した。そうして謎と飽くなき好奇心、私たちがいるこの世界について解明しようとする決意を象徴する存在となった。

ALSと診断されたときはまだ22歳。やる気のない大学院生だった。この病気の余命は通常、2~5年とされる。だがそれから半世紀の間、この病気と共に生き続けたホーキング博士に対して、医師らは、この言葉で全て説明がつくかのように「非定型」という言葉を診断名に追加した

天文学誌「スカイ&テレスコープ」の植字工の助手をしていた私は、1976年にボストンのコプリープラザホテルの大広間を、博士が電動車椅子で移動しているのを初めて見たとき、自分も何かしなくてはという思いに駆られた。科学という分野で私が経験した最もドラマチックな瞬間だった。

ドラゴンを退治する騎士のように

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ホワイトハウスでバラク・オバマ大統領(当時)に大統領自由勲章を授与されるスティーブン・ホーキング博士。2009年8月11日撮影。(Doug Mills/The New York Times)

私は、どこかで博士のことをずっと知っていると思い込んでいた。天才、不自由な体を持つ素晴らしい頭脳、という表現はよくある。だがもちろん、私は彼のことを全然知らなかった。

博士がボストンに来ていたのはブラックホールについての話をするためだった。一切の光を通さないほど高密度のブラックホールは非常に重い質量を持つ。銀河系の端、あるいは時が終わる場所に、全てをのみ込む穴がぽっかりと空いているという概念を理解するのに数学の知識は必要ない。

アインシュタイン自身はこの概念を否定していたが、1970年代初頭、天文学者らは宇宙の至る所にブラックホールとみられる存在を発見していた。宇宙には死があふれていた。

度し難いほどロマンチックな私の目には、コプリープラザホテルにいたホーキング博士は今でも、車椅子に乗ってブラックホールというドラゴンを退治にしに行く聖ジョージに見える。

友人たちでさえ証明を疑った複雑な計算で、博士は、量子法則から鑑みると、ブラックホールは真っ黒というわけではなく、実際は粒子と放射によってかすかに泡立つエネルギーの噴水であることを発見した。長い時を経てブラックホールは最終的に爆発し、一度は消してしまった全ての質量とエネルギーを、いわば宇宙の再生という形で宇宙に返していく。

ホーキング博士が在籍していたケンブリッジ大学のデニス・シアマ教授は、数学的な問題について語っているようにはまるで思えない声明で、博士の発見は物理学史上「最も美しい論文」だと絶賛した。聖ジョージはドラゴンを退治したのだ。

腹立ちのあまり車椅子で人の爪先を

この時に書いた記事で私は編集部で出世した。1年後、私は、もっと詳しくホーキング博士を紹介するために飛行機でイギリスに飛んだ。その後、私は『宇宙はこうして始まりこう終わりを告げる』を上梓し、博士を大きく取り上げた。

博士は常に穏やかだったわけではない。ケンブリッジの自宅に帰宅し、当時の妻ジェーンにインタビューしている私を目にして激怒したこともある。また、量子物理学について私がどうしても理解できなかったときは(いまだに理解できていない)、フラストレーションをためた博士に、エレベーターの中で電動車椅子で爪先を踏まれたこともある

予想より長く生き続け、杖から車椅子に移り、うめくような声しか出せない状態から、最初は親指、そして眼球で操作できるコンピューターによる人工の声を手に入れた博士を見ていると、最もふさわしいメタファーとして、自身のブラックホールに閉じ込められているようだと思わずにいられなかった

しかし、ホーキング博士は、誰かのメタファーには興味を持たなかった。「私はいつも、誰かとコミュニケーションを取る方法を見つけてきた」と、私は一度、言われたことがある。ホーキング博士は、自分で語ること、そして何より、果敢に闘うことを決してあきらめようとしなかった。

©2018 The New York Times News Service[原文:Hawking Taught Us a Lot About How to Live/執筆: Dennis Overbye](抄訳:Misako. N)

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