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ヌードは若者だけのものじゃない。ウィーンで老いを見つめる展覧会 [The New York Times]

The New York Times

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photo by Tetra Images/Getty Images

100年前に消滅した帝国が残した華やかな都、ウィーンに到着した翌日、私が目にしたのは、あるオーストリア・ブランドのミネラルウオーターの広告が描かれたタクシーだった。広告のコピーは最近流行りのハッシュタグ形式で、「#jungbleiben(#いつまでも若々しく)」というものだった。

そのブランドのテレビコマーシャルでは、女優のキーラ・ナイトレイやシエナ・ミラーがペットボトルに入ったミネラルウオーターをごくごく飲んだり、アギネス・ディーンが少しぎこちないドイツ語で「いつまでも若くいたいのなら、早く始めた方がいいわよ」と呼びかけたりしている。もっとお金を使って、もっともっと消費して、ミネラルウオーターもたくさん飲んで。でも、老いることだけは絶対に禁止ね……ということだろう。

でも、何をして過ごそうが、どれだけ水分を摂取しようが、老いは絶対にやってくる。そして、若者は概して若さを無駄遣いするものだ。全ての人間を待ち受ける“老い”という運命を受け入れつつ、それを高尚な芸術にまで昇華させたアートプロジェクトがベルヴェデーレ宮殿美術館の「Aging Pride(エイジング・プライド)」だ。

高齢化が進む中で人々の心を掴んだ「Aging Pride」

版画家ケーテ・シュミット・コルヴィッツや写真家ジョン・コップランズ、画家マリア・ラスニックらのセルフ・ポートレートと一緒に展示されているのは、マーティン・パーやハンス・オプ・デ・ビーク、フィオナ・タンといった現代アートの巨匠による“老い”をテーマにした痛烈な映像作品や写真だ。急速に高齢化が進んでいるオーストリアのような国では、「Aging Pride」のようなイベントは多くの人の心を掴んだようだ。総人口の高齢化が進む社会では、ホワイトキューブ(訳注:近代以降につくられた、美術作品の展示空間に見られる、白い立方体の内側のような空間的特性を指していう概念)の中にも高齢者が増えることを見越した方が良さそうだ。

年代・知名度を問わず様々なジャンルの作品が200点以上展示されているこの美術展は、まるで福袋のようだ。慎重に作品が並べられた美術展というよりも、どちらかというと物置のようなギャラリーも複数ある。ちなみに、「Aging Pride」が開催されているのは、かの有名なクリムトの「接吻」があるベルヴェデーレ上宮ではなく、王族が実際に住んでいたベルヴェデーレ下宮の方だ。小さなスペースに多くの作品を並べるため、キュレーターのサビーン・フェルナーは矛盾する複数のテーマをひとまとめにせざるを得なかったのだという。たとえば、欲望と孤独、引退と再構成、そして死と思い出などといった組み合わせだ。

ヌードは若い男女だけのものではない

「Aging Pride」において、年老いた男女のヌードは重要な役割を果たしている。2014年に94歳で亡くなったウィーンの有名画家マリア・ラスニックが1975年に描いた作品「蝶々」も、その中のひとつだ。絵の中の彼女は、胸が垂れ下がり、腕は痩せこけ、唇はしぼんでいる。

比較的新しいものとしては、米国人有名画家ジョアン・センメルの「Centered」(2002)がある。自分自身のヌードを恥じることなく堂々と描いた彼女の作品は、次世代のフェミニストにも影響を与えた。当時70歳になったばかりのセンメルは、椅子に右ひざを立てて座り、その周りに片腕を巻き付けている。そして、もう片方の腕でカメラを構えている。このカメラは、著作者であることを示すものであり、同時に顔を隠すマスクとしての役割も持つ。

絵と比べて、写真は一段と容赦がない。英国出身の美術家ジョン・コップランズは、自身の裸体を非情なまでに客観視した写真を撮影した。バラバラに切り離されたヌード写真には、出っ張った腹部、長年太陽にさらされてしみだらけの肌、たるんだ太ももが映っている。

もう少し優しめの写真もある。そして、すべてのヌード写真がセルフ・ポートレートという訳ではない。写真家ユルゲン・テラーが入浴中のヘレン・ミレンを撮影した作品がある。当時64歳だったミレンの乳首が、泡立った湯舟のお湯の下からかすかに透けて見えている。この写真は、性的魅力のダブル・スタンダードに対する勇気ある反撃だ。60代のデンゼル・ワシントンが性的な魅力で人を惹きつけることができるのなら、彼女にだってできるはずだ。

86歳の祖母が見たロマンチックな夢

オーストリア出身の美術家カローラ・ダルティングによるショート・フィルムは、「Aging Pride」の中でも楽しい作品のひとつだった。この作品は、ダルティングが86歳の祖母に昨晩見た夢の内容についてインタビューするというものだ。彼女が見た夢は、森の中で魅力的な男性のたくましい腕に抱かれているという内容だったそうだ。この年でそんな願望を持つなんて、と恥ずかしがりつつも「なんて素敵な人を夢の登場人物として選んだのかしら」とうっとりした様子で語った。このショート・フィルムのテーマ曲としてセレクトされたのは、バリー・ホワイトの「愛のテーマ」だ。

「若さというものは、長続きしない」シェイクスピアの「十二夜」では、落胆した道化がこんな風に歌うシーンがある。年をとるということは、単に年齢という数字だけの事実ではない。力の衰えや、皮膚のたるみなどの老化現象も避けられないのだ。高齢化は社会現象だが、私がたちの対応いかんによって良くも悪くもなる

私たちが力を合わせれば老いというものを再考できる、ということをもっとも雄弁に語っている作品がある。ドイツ人振付家ピナ・バウシュの「Kontakthof(コンタクトホーフ)」だ。「Kontakthof」は、1978年に初演されたバウシュの最高傑作。もともとはドイツ・ヴッパータールで彼女が率いていたプロのダンサー集団のために作ったものだったが、後に65歳以上のボランティアによって再演された。

ボランティアの高齢ダンサーも、タイトなスーツとシルクのドレスというプロと同じ衣装で舞台に立つ。もちろん、同じ年齢のプロのダンサーに比べると体はかなり硬い。しかし、彼らは間違いなくここにいて、リズムにあわせて踊っている。そして、今まさに恋するお年頃なのだ。

© 2018 The New York Times News Service[原文:‘Aging Pride’ Challenges the Cult of Youth/執筆:Jason Farago](抄訳:吉野潤子)

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