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ピンクの溶接マスクはいらない。女性活用を阻む建設業界のリアル [The New York Times]

The New York Times

かつては、女性が技術者として採用されること自体が難しかった。

1990年代後半、大学院卒の西岡真帆は、最大手ゼネコン清水建設に土木の技術系総合職で採用された。建設現場は完全な「男社会」。初めての現場での初日、西岡がその作業を監督しなければならなかった作業員や職人は、彼女と口をきいてくれなかった。指示を与えても無視された。

西岡には、今でも忘れられない出来事がある。

「なんで女がやってるんだ!」橋脚工事の現場でコンクリートの調査中、 取引先の男性に突然怒鳴られた。当日、その現場でコンクリート調査の資格を持っていた技術者は彼女だけだったのに。作業は結局、中断された。「ただただ、悔しかったですね」

あれから20年、現在、46歳になる西岡は人事部ダイバーシティ推進室室長として、社員のための働きやすい環境作りに向けて様々な課題に取り組んでいる。

官民一体で女性倍増計画に乗り出した

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清水建設の躯体工事の監督、中村優穂(25)。東京都心のビル建築現場で最大約30人の建設作業員の作業管理を担当している。2018年2月7日東京にて撮影。(Irene C. Herrera/The New York Times)

女性の就業率や給与水準の低さが慢性的な問題となっている日本の産業界のなかでも、建設業は昔から、女性就労者が極端に少ないことで知られる。しかし今、少子化や外国人労働者の採用に対する消極性を主な理由に、日本経済全体、とりわけ建設業界は深刻な人手不足に悩まされている。

そのような状況のなか、政府や業界が切り札として注目するのが、女性労働力の有効活用である。2014年に、大手建設会社が参加する日本建設業連合会(日建連)と国土交通省は官民共同でPR、広告キャンペーンを活用し、建設業で活躍する女性技術者と技能労働者を「5年以内に倍増」する目標を発表した。

ただ、この目標の達成は、女性の活躍を推進する政府の各種施策のなかでも、この上なく難しいものとなりそうだ。現時点では、建設業の女性技術職の就業率の伸び率は、ほんのわずか。やはり、長時間労働や低賃金など、構造的な問題が大きなネックとなっている。

おじさん視点の改革、業界女性は冷ややかな対応

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ゼネコン最大手、竹中工務店の工事現場に設置された、職員の仕事中に子供たちが遊ぶことのできるウェイティングルーム。2018年2月7日東京にて撮影。 (Irene C. Herrera/The New York Times)

国土交通省が打ち出した様々な取り組みに対し、業界の女性の多くは冷ややかな視線を送る。

女性倍増計画キャンペーンの一環として、パステルカラー基調のウェブサイトが開設された。目的は、若い女性に建設業界の様々な種類の技能職に関心を持ってもらうこと。例えば、女性の溶接工をPRするページ「溶接女子会」にリンクされた4コマ漫画には、「ハート模様のピンクの作業着」を来て、「ピンクのハート型溶接マスク」を片手に持った女の子キャラクターが描かれた。

一方、建設各社は建設現場に、女性作業員が快適に使用できる仮設の女子トイレや女子更衣室の設置を進めている。しかし、ピンク色の便器に花柄の壁紙を組みあわせるセンスに、フラストレーションを覚える女性は少なくない

「明らかに男性が考えたアイデアだな、って必ず思ってしまいますね。政府は単に、女性と男性の両方が働きやすい環境づくりのための施策を進めたらいい」と西岡は言う。

働く女性の人数は増えたが、業種の偏りは改善されず

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女性用の工具ベルトはないため、パッドを腰に巻いて調節している。2018年2月7日東京にて撮影。(Irene C. Herrera/The New York Times)

現在、日本の女性就業率は、生産年齢人口の4分の3以上と過去最高。米国を上回る水準だ。とはいえ、建設業界の取り組みの苦戦ぶりを見ると、この国で女性がより幅広い職種、業界で活躍できるようにするのは、そう簡単ではなさそうだ。

建設業界の女性倍増計画、つまり2019年までに女性技術者・技能者を20万人にする取り組みがスタートして4年、建設業の女性技術職は増えたが、その伸びは7分の1未満にとどまる。建設業全体に女性が占める割合は、まだ3%に過ぎない。

女に指示されることを嫌がる男たち

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最大手ゼネコン、竹中工務店の建設管理者の下田未来(27)。2018年2月7日東京にて撮影。(Irene C. Herrera/The New York Times)

「日本の建設業には、まだ、女性が現場で働くことに対する拒否反応があります」と言うのは、福岡県北九州市で設計・施工を手がける有限会社ゼムケンサービス代表取締役の籠田淳子である。「女には命令されたくない、と考える男性が未だに大勢います」。最近、同社の女性従業員は、男性作業員に、納期を守ってプロジェクトを完了するよう求めたところ、ヒステリーを起こされた、と茶化された。

また、賃金も依然として大きな問題である。人手不足にかかわらず、建設作業員の賃金は他の業種の作業員よりも平均で25%低い。さらに、建設業の女性従業員の賃金は男性従業員より平均で30%低い(2016年政府調査)。

大半の建設作業員は、建設プロジェクトを構成するピラミッド型組織の末端に位置する、小さな下請け、孫請け会社に雇われている。そういった会社は、従業員の賃金を過剰にピンハネして、ほかの経費を補填することがある、と芝浦工業大学建築工学科の蟹澤宏剛教授は説明する。「この賃金水準ならば、スーパーマーケットや工場に勤めた場合と同じかそれ以下になる可能性もあります。それに、そういう仕事に比べて、建設業はずっとハードですからね」

若手男性の建設業離れ。働き方改革が急務

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清水建設の躯体工事の監督、中村優穂(25)。東京都心のビル建築現場で最大約30人の建設作業員の作業の管理を担当している。2018年2月7日東京にて撮影。(Irene C. Herrera/The New York Times)

けれど、最大の課題の一つは長時間労働がつきものであるということだ。仕事は不規則、かつ、週末勤務しなければならないことも多い。

「魅力的な仕事であるように見せるのは簡単ですが、多くの女性は、実情がわかると結局辞めてしまいます」というのは左官職人の福吉奈津子(32)。この仕事特有の労働時間の長さ、身体的負担により、男性も女性も人材を確保するのが難しくなっている。彼女の勤務先でも新規採用した若手の多くが、4年間の見習い期間中に退職してしまうのだという。

高校卒業直後にこの業界に入った福吉は、2人の子供を育てるワーキングマザーである。早朝の5時半に家を出て、毎日違う現場へと向かう。その日の仕事が何時に終わるか、事前に知らされることはめったにない。

※訳注:一般に、建設技術労働者とは、施工管理をする者をいい、建設技能労働者とは、型枠や左官、とび、鉄筋など現場で作業を処理する、いわゆる職人のことをいう。

© 2018 The New York Times News Service[原文:Japan Wants More Women in Construction. Pink Toilets May Not Be Helping./執筆:Mari Saito](翻訳:Ikuko.T)

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