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アートか政治か? オバマ夫妻の肖像画に秘めたメッセージ [The New York Times]

The New York Times

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photo by Getty Images

2018年1月12日、ワシントンDCのナショナル・ポートレート・ギャラリー(国立肖像画美術館)で、バラク・オバマとミシェル・オバマの公式肖像画が披露された。多くの記念物を持つこの街に新しいものが2点加わったのである。オバマのものは威厳高く、ミシェルのものは魅惑的にと、どちらの肖像画も輝いている。

通常、除幕式は政治とアートの世界ではほとんど話題にならずに終わる。確かに、スミソニアン博物館の一部であるナショナル・ポーレート・ギャラリーは、公開されている歴代大統領の肖像画の完全なコレクションの唯一のものを所有している。しかし、近年委託されて追加された新作はあまりに平凡なので、退職した大統領の新しい肖像画を披露する伝統は単なる恒例行事に過ぎなくなっていた。

肖像画アーティストもアフリカ系アメリカ人

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オバマ夫妻の肖像画を手がけたケヒンデ・ワイリー(左)とエイミー・シェラルド(右)。(photo by Getty Images)

今回の除幕式はまったく違っている。オバマ夫妻が本コレクション初のアフリカ系アメリカ大統領夫妻であるというだけではない。バラクがケヒンデ・ワイリー、ミシェルがエイミー・シェラルドと、夫妻が肖像画のために選んだアーティストもアフリカ系アメリカ人である。このふたりはこれまでの作品で一貫して人種問題を表現しており、今回の肖像画でも、微妙で知的なやり方で同じことをしている。ワイリーは、自信に満ちた典型的な政治家ではなく、用心深く、悩む思想家としてバラクを描いた。シェラルドが描いたミシェル像は、クチュールのショーの要素が強調される一方で、ゆるぎない落ち着きを映し出している。

「#BlackLivesMatter」の自覚がなくとも、このギャラリーによって語られるアメリカの物語において、オバマ夫妻が登場する意味は明らかに重要だろう。コレクションにある初期の大統領には、ジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソンなど奴隷所有者がいた。ミシェル・オバマの先祖は奴隷だった。そして、今では、市民権運動やブラック・パワー、そしてオバマ政権が獲得した社会的進歩がものすごい勢いで失われている証拠を次々と見せつけられている。

だからこそ、このギャラリーのコンテクストにおいて、オバマ夫妻の肖像画はさまざまな面で際立つのだ。ただ、バラクの肖像画が飾られることになる(ミシェルのものは別の場所)、長期展示の「アメリカの歴代大統領」展に満ちている退屈な画調を考えてみれば、その中で目立つことはまったく難しくないのだが。

ナショナル・ポートレート・ギャラリーの肖像画コレクション

ナショナル・ポートレート・ギャラリーのコレクションは古くはない。1962年の法令によって設立され、1968年に一般公開されるようになった(オバマ夫妻の肖像画除幕式は、ギャラリー50周年記念祝賀の一部でもある)。ギャラリーが収集を始めたときには、記憶するに値する大統領の肖像画の多くは他の場所にあった。ちなみに、大統領夫人の肖像画コレクションはまだ未完成である。新しい肖像画の委託はようやく2006年に始められた。

もちろんギャラリーにはすばらしい作品がある。そのひとつが、1796年のジョージ・ワシントンを描いた「Lansdowne」と呼ばれている、ギルバート・ステュアートによる作品である。署名すべき書類、数本の羽ペン、剣、そして帝国ローマ調の椅子と、大統領職にふさわしい小物が詰まった、全身を描いた肖像画である。服装さえも、黒いスーツに太めのネクタイという現在の大統領の定番スタイルの18世紀版だ。ワシントン本人はというと、無表情で立ち、威厳高く会釈するテノール歌手のように片手を伸ばしている。

確固たる威厳は、1世紀以上にわたり肖像画に選ばれてきた態度であった。それに外れたものもいくつかある。1836年の肖像画では、アンドリュー・ジャクソンは威圧的で、吸血鬼のような赤いシルクの裏がついた床までの長さのマントをまとっており、髪はふっくらと刈り込まれている。ちなみに、トランプ大統領にとってジャクソンは人民主義の英雄のひとりであり、その肖像画は大統領執務室にも1枚飾られている。エイブラハム・リンカーンは、さまざまな肖像画で見られるように、重要課題を抱えているように描かれており、これも例外である。リンカーン以前と以後の歴代大統領の肖像画のほとんどは単なる広報活動といえる。

まだ現役のようなバラク像

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バラク・オバマ(右)とケヒンデ・ワイリー(左)。(photo by Getty Images)

高さ7フィートを超える圧倒的な大きさの絵に、ワイリーは、お決まりの黒いスーツに襟の開いた白いシャツ姿のオバマを描いた。オバマは、スチュアートが描いたワシントンの肖像画の椅子とそれほど変わらない王座のような椅子に腰掛けている。しかし、歴史的な比較はそこで終わる。過去の肖像画にある画調の面影もない。オバマの先任者たちはみな無表情で落ち着きはらっているが、オバマは緊張して前かがみで腰掛け、眉をひそめ、両肘は膝の上に置き、腕を組んでいる。まるで、なにかに真剣に耳を傾けているかのように。笑顔はない、ナイスガイでもない。オバマはいまだに問題を解決しようとしている、まだ政治の舞台に立っているのだ。

肖像画のオバマの真剣で毅然とした表情は、大統領時代にしばしば与えた、周りで起こっていることと自分を切り離すのを信条にしているような印象とは矛盾している。ある意味、どんな肖像画も政治的または個人的なプロパガンダである。そして、この肖像画が独特なのは個人的な部分である。ワイリーは、地表を覆うための植物を背景に、いやオバマをそれに埋め込んだ。緑樹の中に咲く花はオバマにとって象徴的な意味がある。アフリカン・ブルー・リリー(訳注:アガパンサス)は父親の出生地ケニアを、ジャスミンはオバマが生まれたハワイを表しており、菊は政治キャリアをスタートし、また妻と出会った都市でもあるシカゴ市の花である。

ミシェルの肖像画には落胆

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ミシェル・オバマ(左)とエイミー・シェラルド(右)。(photo by Getty Images)

ミシェル・オバマがシェラルドを選んだのは、リスクのある選択だった。シェラルドは、1973年、ジョージア州コロンバス生まれで、現在はボルティモア在住。彼女は、家族と自分の病気のために(39歳の時心臓移植を受けている)数年間活動を停止していた後、全国的に知られるようになったばかりだ。肖像画制作に関して、シェラルドとワイリーはまったく違う方法をとっている。ワイリーは、アシスタントを使い次々と作品を発表する、いわばアート多国籍工場の経営だ。数年前まではウェイトレスをして生計を立てていたシェラルドは、スタッフ1名、つまり自分だけのスタジオを営んでいる。

シェラルドは、淡いブルーの背景に、大きく広がるドレスを着て座っているミシェル・オバマを描いた。ミシェル・スミスによるこのドレスは、目を楽しませる複雑なデザインになっている。白いドレスには、オプティカル・アートのような黒い模様とアフリカのテキスタイルを彷彿とさせる色のストライプがついている。ドレスはピラミッド型にそびえ山のように隆起しており、ドレスがこの絵の本当の主題のように思える。ミシェル・オバマの顔はその構図の一番上に位置しているが、ファッション雑誌のモデルのように誰の顔でもかまわない。正直なところ、自分の意見を恐れずに発言する人だとわたしが思っている元ファースト・レディーの、もっと大胆でより鋭敏なイメージを肖像画に予期していたし、そうあってほしいと望んでいたのだが。

「#MeToo」ムーブメントのモニュメントになるか

望みつつ、もうひとつ付け加えたいことがある。バラク・オバマの肖像画は、歴代大統領の肖像画とともに、ギャラリーの2階の特定の場所に長期間展示されることになる。ミシェルのものは、新しく入手した作品を一時的に展示する1階の回廊に飾られる。そこには11月まで展示され、その後どこに展示されるのかはまだ決まっていない。もし、ファースト・マン(大統領)には決められた展示場所があるのなら、レディーかどうかは別にしてファースト・ウーマン(大統領夫人)に対してもそうあるべきだ。もっと良いと思うのは、ふたりの肖像画がともに飾られ、空間を共有し、中には未来の女性大統領もいるだろう訪問客たちを迎え入れる暖かい雰囲気を作り出し、未来に残る「#MeToo」ムーブメントのモニュメントとなってくれることだろう

© 2018 New York Times News Service[原文:Portraits or Politics? Both Presidential Likenesses Blend Fact and Fiction/執筆:Holland Cotter ](抄訳:ぬえよしこ)

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