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モデルにセクハラは芸術家のお家芸? 問われるアート界のモラル [The New York Times]

The New York Times

米スミソニアンのナショナル・ポートレート・ギャラリーは、2014年にボクサーのフロイド・メイウェザー・ジュニアのポートレートの作品解説を作成するにあたり、メイウェザーが「ドメスティックバイオレンスで何度か有罪判決」を受け、「社会奉仕活動と禁錮刑」を科せられた事実に言及する判断を行った。

アートの世界では、物議を醸す作品にこうした解説が付けられることは珍しくはない。だが、作家本人のプロフィールに関してそうした説明が加えられるケースは稀だ。パブロ・ピカソやエゴン・シーレといった画家が女性を不当に扱ってきたことは長年、周知の事実だったが、数々の有名な美術館に展示されているその作品群にそのことを示す注意書きは一切付けられていない。

セクハラ疑惑の写真家の展覧会が無期限延期

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モデル候補者らへのセクハラ疑惑を持たれているチャック・クロース。ロングアイランドの自宅で。(Ryan Pfluger/The New York Times)

だが、米ワシントンにある国立美術館ナショナル・ギャラリー・オブ・アートは、ポートレート写真の大家で画家のチャック・クロースが、モデル候補らにセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を行っていた疑いがあることを理由に、クロース展の開催を無期限で延期した(クロース本人は、セクハラ疑惑は「言いがかり」であり、「自分はスケープゴートにされている」と主張している)。この決断を受け、世界中の美術館は今、こうした問題にどのように対処すべきかを迫られている。

展覧会延期のニュースによって、クロースの絵画と写真をどう扱うかについて各美術館は頭を悩ませることになった。クロースの作品は米ニューヨークのメトロポリタン美術館、英ロンドンのテート・ギャラリー、仏パリのポンピドー・センター、大口の個人コレクターも所蔵している。問題はそれだけではない。不品行に対する告発を受けている他の作家の作品についても、時代背景に照らし合わせて、対処を再検討する必要があるかどうかも考えなくてはならなくなったのだ。

作品とその作家の個人的な行為を、切り離して評価すべきかどうかという一般的な議論は、ポップカルチャーの分野にとどまらず、各地の美術館が長年所蔵・展示してきたさまざまな時代の主要なビジュアルアーティストたちにも及び、現代は美術界にとって論争を呼ぶ時代となった。

優れたアーティストでも人間性の欠けた人もいる

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パブロ・ピカソの作品を鑑賞する女性(Image via Getty Images)

クロースの作品を多数収蔵しているポートレート・ギャラリーのキム・サジェット館長は、「所蔵作品にまつわる人物を守らなければならないというのは、私たちにとっては非常になじみのある考え方」だが、それは「あくまでも(ポートレートの)モデルに関して」であり、作家自身に関してではなかったと話す。「ところが今や、チャック・クロースについても同じようにすべきかを考える必要が出てきたのです」

「アメリカでは、チャック・クロース抜きにポートレートについては語れません」とサジェットは続けた。「芸術家としては素晴らしいけれども、人間としては決して称賛できないような人は大勢います

キュレーターや館長らの間で一般的なのは、作家本人の行為によって芸術面の判断を下すのは危険な道という考え方だ。取材した美術館職員は皆、所蔵しているクロース作品を手放す考えはなく、今後も展示は続けると口を揃え、理由の一つとして、クロースはまだいかなる犯罪容疑でも起訴されておらず、裁判で有罪と認められたわけではないことを挙げた。

クロースの作品を所蔵している米エール大学アートギャラリーのジョック・レイノルズ代表は、「私たちは、どんな振る舞いをしたかというリトマス試験紙でアーティスト全員を測っていかなければならなくなるのだろうか」と問いかけ、こう話した。「パブロ・ピカソは、女性遍歴という観点でいえば、20世紀の極悪人の一人でした。ではピカソの作品をギャラリーから撤去するのか。私たちが自問しなければならないのは、アートは、鑑賞される必要があるものとして(作者個人と)切り離されて独立した存在となっていくのかどうかです」

性的におとしめられてきた女性モデルたち

確かに、美術史には悪名高い重要人物が大勢登場する。バロック期の画家カラバッジオは殺人罪を犯した。19世紀に活躍した写真家エドワード・マイブリッジもだ。20世紀初頭の画家エゴン・シーレは、13歳の少女に対する法廷強姦(承諾年齢未満者との性交)で24日間勾留された(シーレは強姦罪に関しては無罪になったが、アトリエで子どもたちにポーズを取らせてエロチックな絵を書いていたとして有罪となった)。16世紀の彫刻家ベンヴェヌート・チェッリーニは、女性モデルにレイプ被害を訴えられ、裁判にかけられた。ピカソは、愛人のうちの何人かを虐待し、「女は苦しむ機械だ」とうそぶいたことでも知られる。

だが研究者らが指摘するように、美術史を振り返ると、男性の芸術家たちが自分のためにポーズを取ってくれた女性モデルへの扱いに関して責任を取ったケースは、ほとんどない。

米ノースウェスタン大学で美術史を教えているレベッカ・ゾラック教授は、「芸術家のモデルを務めた女性は大抵、性的におとしめられてきた」と指摘する。「彼女たちは性的暴行に抗う力をまったく持っていなかったのです。中にはそういう力があった女性も少しはいたかもしれませんが」

「アナ・メンディエタはどこに行った?」

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妻で芸術家のアナ・メンディエタへの不審死をめぐり殺人罪に問われて無罪となった彫刻家のカール・アンドレ。(Fred R. Conrad/The New York Times)

しかし近年、美術界では、女性に対して犯罪行為を働いた疑いを持たれている作家たちへの注意を喚起する動きも起きている。2017年春、米ロサンゼルス現代美術館でミニマルアートの彫刻家カール・アンドレの個展が行われたときには、スペイン語で「アナ・メンディエタはどこに行った?」と書かれたポストカードを来場者に配る抗議運動が行われた(その中には同美術館の元キュレーターもいた)。メンディエタはアンドレの妻であり芸術家でもあったが、1985年に2人が暮らしていたアパートの窓から転落して亡くなり、このポストカードは、彼女を死に至らしめたのはアンドレだったとする告発を指摘したものだ(現在82歳のアンドレは、彼女の死に関して1988年に第2級殺人罪に問われたものの無罪になっている)。

しかし、こうした動きは一部では起きているものの、美術館関係者の間では、芸術の質は作者の行為とは切り離されるべきだという主張が一般的だ。

「美術館が展覧会を中止したり、展示から作品を外したりするという行動を取ると、その作家の作品への理解を非難されるべき行為というプリズムを通してのみ促すことになる」と言うのは、メトロポリタン美術館の近現代美術部門を統括するシーナ・ワグスタッフだ。

「ある作品を見ているときに虐待行為だけにしか目が向かないようにすると、限定された状況を生み出してしまうことになります。そうして、アートに内在する価値が否定される状況を生み、社会において美術館が果たすべき役割に対して、根本的な疑義を生じさせることになってしまいます」

また美術の専門家らは、クロースの作品は、肖像画の再定義という意味で重要な影響力があることを考えれば、コレクションとして残される価値があると主張する。クロースの巨大なポートレート——特に有名なのは作曲家のフィリップ・グラスビル・クリントン前米大統領を描いたもの(クリントン氏は任期中の2000年にホワイトハウスでクロースに米国民芸術勲章を授与している)——は、スーパーリアリズムの手法と感情豊かな表現を高く評価されてきた。

女性や有色人種の芸術家に、もっと注目を

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Image via Getty Images

「クロースは、ポートレートの見方を刷新した」とレイノルズは指摘する。「この創造性は考慮に入れなければならないものであり、残り続けていくものです」

ナショナル・ギャラリーは、「In the Tower」と題するインスタレーション作品の一環として、クロースの絵画と写真を20点以上取り上げる企画を立てていた。

そのナショナル・ギャラリーが展覧会中止の判断を下したことには(クロースの作品「Fanny/Fingerpainting」の展示自体は続けられる)、同美術館が連邦政府の助成金1億6400万ドルのうち、72%を獲得している影響が大きいのかもしれない。政府は物議を醸すことに難色を示す傾向があるからだ。しかし、同美術館の広報担当者アナベス・ガスリーは、延期は単にクロースのハラスメントを告発する声が上がっているためで、政治的な圧力によるものではないと明言している。

専門家からは、ナショナル・ギャラリーの展覧会中止は、アカデミー賞俳優に対してハラスメントを理由に受賞を取り消すのに匹敵するほどの大きな影響があるという声も上がっている。

ナショナル・ギャラリーの「団体としての象徴的な権威と影響力は非常に大きい」と言うのは、バードカレッジ・キュレトリアルスタディーズセンターのトム・エクルズ代表だ。「今は、特に国立機関がメッセージを発信すると、それが非常に大きな意味を持って伝わるようになりました。今回のメッセージは、作家がこうした行為で告発された場合、ナショナル・ギャラリーでは展覧会を開くことはできないというものです」

エクルズは、美術館はどの作家を非難すべきかに力を入れるよりも、どの作家なら美術館の所蔵作品の限界を押し広げてくれそうかを検討すべきであり、それはつまり女性や有色人種の作家たちだと主張し、こう続けた。

「私たちは、倫理的に賛同しかねるからといってその作家の作品を見せないわけにはいきません。そんなことをすれば、美術館の壁はスカスカになってしまう」と話した。「大事なのは(引くより)足すこと。つまり、新たな声や新しい芸術作品を取り入れることです」

「判断は鑑賞者に委ねる」は、もう古い?

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ビル・クリントン元大統領との不倫スキャンダルで世界中のマスコミの注目を浴びた、女優で実業家のモニカ・ルインスキーさん。(Image via Getty Images)

美術館の中には、作品にまつわる人物の背景を解説するところも増えてきている。例えば、ポートレート・ギャラリーに展示されているクロース制作のクリントン元大統領の作品の横にはこんな解説がある。「クリントンは宣誓供述でホワイトハウスのインターンと性的関係を結んだことを否定したものの、弾劾裁判にかけられた。だが上院での弾劾裁判では有罪評決には至らなかった」。また同美術館のサイトでは、ラッパーの2パック(トゥパック・シャクール)については「露骨で暴力的、ときに女性を蔑視したリリックでたびたび非難を受けた」と説明されている。

それぞれの美術館がクロースについて最終的にどのような判断を下していくかはともかく、美術館はもはや、その作家にまつわる問題を無視して作品だけを提示することはできなくなってきているという意見もある。つまり美術館は、その作品の裏側の人間たちについて、一般社会に知らしめる役割を積極的に果たさなくてはならないという主張だ。、

「『私たちはこの作品を展示しているだけです。ジャッジしているわけでも支持しているわけでもありません。鑑賞する人に体験してもらい、判断も委ねます』というクリシェは、今のように政治的で文化的な時代にはもはや通用しなくなった」と明言するのは、米シカゴ美術館のジェームズ・ロンドー館長だ。同美術館もクロースの作品を所蔵している。「そうした中で私たちは、美術館として下した判断の責任と、その判断が及ぼす影響にも、っともっと自覚的にならなければいけません」として、こう付け加えた。

「問われるのは、歴史の流れに沿う判断とはどういうものなのか、ということです」

© 2018 The New York Times News Service[原文:Close Is Out at the National Gallery of Art. Is Picasso Next? /執筆:Robin Pogrebin and Jennifer Schuessler](全訳:M. Nagao)

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