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VRで生物の進化をさかのぼる。欧州のテックなミュージアム [The New York Times]

The New York Times

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パリ国立自然史博物館のVR展示の一場面。2017年2月7日パリで撮影 (Dmitry Kostyukov/The New York Times)

パリの国立自然史博物館を訪れた来場者は、オーロラの輝きに包まれたアイスブルーの天空飛行物体とともに、人類を含む460種の生物の進化をさかのぼる旅にでる。LUCA、地球上の全生物共通の最終祖先と考えられている単細胞の有機体に到るまで……。

これは、VR(バーチャル・リアリティ=拡張現実)技術を使用した同博物館最新の常設展示。VRヘッドセットを装着し、種の分岐の過程を見たり、あるいは、ひとつの生物にフォーカスして、生命とその起源を仮想世界で体感する仕組みだ。たとえば、象の正面に立って、その巨大さを実感することもできる。

展示空間に新たなスペースを、VRで

パリ国立自然史博物館のブルーノ・ダヴィド館長は、この企画展示のコンセプトは、従来のようなリアルな展示物と解説文では到底表現しえないと判断し、テクノロジーを活用することにしたと語る。新装した小部屋に配置された5台のVR装置により、2019年に開催予定の展覧会と関連した海中ダイビング体験ができるVRコンテンツの提供も計画している。

ルイ15世のペットだったサイの剥製をはじめ、すでに展示物でぎゅうぎゅう詰めのギャラリーに、VRは“ちょっとした”新スペースを付け加えてくれるとダヴィッド館長は微笑む。「21世紀の技術を古臭いと思われている博物館に導入するのが目的です」

来場者をより引きつけるためにテクノロジーを利用しているのは、パリ国立自然史博物館だけではない。さまざまな試みがヨーロッパ各地で拡がっている。

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VRのデモンストレーションをするパリ国立自然史博物館のスタッフ。2017年2月7日パリで撮影(Dmitry Kostyukov/The New York Times)

大英博物館のバーチャルツアー

2015年、青銅器時代を紹介する週末特別イベントで、オリジナルコンテンツによるVR体験を催した大英博物館は、こうしたバーチャル展示の先駆けである。同館の広報マーケティング担当部長であるハンナ・ボルトンは、VRをどうすれば最大限有効に活用できるか、イベントはここ数年続けているテストの一環だったと話す。ボルトンはまた「いかに来場者が興味を持ってくれるかが重要です。VRをやってみたいからやるのではありません。VRによってエクストラの意味を付加できるところはどこかを探っているのです」とも付け加える。

大英博物館では、ブラウザかVRヘッドセットで視聴できるエジプシャン・ギャラリーのバーチャルツアーもすでにリリースしている。

モディリアーニのアトリエをVRで再現

ロンドンのテイトモダンで4月2日まで開催されていたモディリアーニ回顧展では、画家モディリアーニが生きた20世紀初頭のパリをVRで再現する展示が話題を呼んだ。

画家が最晩年を暮らした部屋は写真での記録が残っておらず、綿密で忍耐強い調査が必要だった。チームは今も現存する、かつてモディリアーニの住まい兼アトリエだった部屋を、法廷での証拠提出レベルといえるほど、さまざまな角度から隅々まで撮影。モディリアーニの引越しの様子を写した写真から家具を割り出し、また塗料を分析、アトリエを訪問した人々の手紙や日記を丹念に精査した。

「私たちにとってVRは物事を解明するための道具として価値があります」と、デジタル・コンテンツ部門の長であるヒラリー・ナイトは言う。「VRは当時の感覚を今の私たちに伝え、アーティストとのつながりを感じるのを助けてくれます。届けられた情報にまるごと浸ることで、モディリアーニが生身の人間として実感できるようになるのです」

via Youtube

若者だけでなく、中高年も関心を示している

VRが若い世代、最新技術に興味のある層に受けるのは間違いない。だが、年齢層の高い来場者もデジタルワールドを探索することに積極的という現象が、各地のミュージアムで起きている。

ヘルシンキのフィンランド国立博物館では、VRを用いて、R・W・エクマンの絵画『The Opening of the Diet 1863 by Alexander II(アレクサンドル2世による1863年の国会の開会宣言)』の作品世界のただなかに観客をトリップさせる展示を始めた。そこでは、ロシア皇帝をはじめとする絵のなかに描かれた人々と対話ができるのだ。

キュレーターのハンナ・フォーセルは、この展示が入館者数の3分の1にあたる18歳以下に一番アピールするだろうと予想していたが、すべての年齢層が大きな興味を示したことに驚いたという。展示がスタートした当初から「順番を待つ列に並んでいる人の多くは、60歳以上の来場者」だったのだ。

VR展示の一番の課題は“資金調達”

評価と人気の高いVRによる展示だが、このまま一気に利用が拡大するかというとそうも言い切れないようだ。

モディリアーニ展の成功を受け、テイトモダンのナイトは今後の展覧会でもVRを活用したいとしながら、どこまで可能か先行きは不透明だと話し、大英博物館のボルトンもまた、VRプロジェクトは協賛するテクノロジー企業からの多大な出資によってまかなわれていると明かす。

ナイトは「現在のところは、今後の計画を定めるのは難しい状況です。どこからスポンサーを見つけられるかわからないので。ただ、来場者はみなさん、次はいつ?と尋ねてくれますから、大きな需要があるのは確かです」と説明する。

VRコンテンツの制作には多額の費用がかかる。近年、予算を削られ続けている公的ミュージアムには荷が重い。こうした環境下、VRヘッドセットなど家庭用電気機器メーカーのHTCは2017年、数百万ドルを投じ、芸術や文化施設のためのVRコンテンツを創作するVIVE Artsを立ち上げた。

VIVE Artsのヴィクトリア・チャン代表は、このVRプログラムの発足は、ここ2年ほど高まり続ける要望に応えたものだとする。「VRへの熱い期待が寄せられるなか、正しい方向にむけてシステマチックに技術とコンテンツを向上させていくことは、我々にとってとても重要です」

彼女はさらに、VRはウェブサイトと同じようにミュージアムにとってなくてはならないものになると断言する。「インターネットが登場したばかりのころ、ミュージアムはオンラインで発信する必要性を感じていませんでした。でも、SNSやスマートフォンがこれほどまでに普及した今、主要なミュージアムはどこも自前のアプリを持っています」

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パリ国立自然史博物館のブルーノ・ダヴィド館長。2017年2月7日パリで撮影 (Dmitry Kostyukov/The New York Times)

誰もミュージアムに足を運ばなくなる?

クレマー・ミュージアムはさらに先をいっている。ここは、VRのなかにしか存在していない美術館なのだ。行列も混雑もない。17世紀のフランドルとオランダの名匠の作品が展示された仮想空間のギャラリーを、ひとりで思うままに巡ることができる。

テイトモダンとパリ国立自然史博物館のVR体験はオンラインで一般に公開されており、自宅でも楽しめる。こうしたことから、人々がミュージアムに足を運ばなくなるのではと危惧する声もあるが、バーチャルな鑑賞がリアルの鑑賞に取って代わることは決してないとミュージアム側は答える。ただVRはアートとふれあう体験の幅をより広げてくれるのだと。

「人々は現実にそこにあるものを見るためにミュージアムにくるのです。なぜなら、現実のものは心を揺さぶるからです。オランジュリー美術館に行くのは、モネが描いた本物の『睡蓮』を見るためです。よくできたコピーのためじゃない。そうでなければ、コンピュータには現実よりずっといい画像が溢れているのだから。」と、パリ国立自然史博物館のダヴィド館長は語った。

©2018 The New York Times News Service [原文:European Museums Get Adventurous With Virtual Reality / 執筆: Jake Cigainero](翻訳:十河亜矢子)

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