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米国ジャズ界でうまれた、声をあげるための美しいルールブック

The New York Times

2017年は1年を通じて、米ジャズ界の女性ミュージシャンたちが公の場で発した数々の証言から、今まで語られてこなかった事実が明らかになった。ジャズ界にも女性差別とセクハラが深く染み付いている、ということだ。

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー14人のうちの9人。2018年4月26日、ニューヨークで(Heather Sten/The New York Times)

女性とノンバイナリー(男女に分類されないジェンダー)のミュージシャン14人からなるグループ「We Have Voice Collective」(ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ)は5月初旬、「ルールブック」を発表した。ジャズ界自身の#MeToo運動をきっかけに、セクハラやパワハラについてメーリングリストやチャットで交わした様々な議論を踏まえ、もっと公平な仕事場とはどうあるべきかを明確に文章化し、変化を促そうとしている。

ジャズ界でビジネスをする中で、略奪的な行為や性差別は払うべき犠牲の一部だといった考えを改め、それらは異常な行為だという認識がしっかり根付くことを「ウィ・ハブ・ボイス」は目指している。

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー、シンガーのサラ・セルパさん(Heather Sten/The New York Times)

「声を上げる」ためのコレクティブ

メンバーの1人、テナーサックス奏者のマリア・グランドさんはこう語る。「どうやったら、こういう文化を変えられるでしょうか? 被害者が加害者を糾弾する動きだけでは、被害者を大きなリスクにさらしてしまいます。私たちがやろうとしているのは、考え方の文化自体を変えること。セクハラなどが疑われるときや目撃したときにどうしたらいいか、皆に知ってもらうことです」

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー、テナーサックス奏者のマリア・グランドさん(Heather Sten/The New York Times)

2017年12月にはグループとして公開書簡を発表。音楽界の仲間たちに「ハラスメントや差別が疑われる場合や、そうした行為を目撃した場合には声を上げる」ことを呼び掛け、これまでに1000人近くが署名した。また今回発表したルールブックには、マンハッタンで開かれる「ウィンター・ジャズフェスト」などフェスティバルの主催者や会場、音楽教育機関、音楽レーベル・メディアなど9つの組織が、これまでに賛同して署名した。それぞれの関わるライブ会場やウェブサイトなどで目立つようにこのルールを掲げてほしいと、「ウィ・ハブ・ボイス」のメンバーたちは思っている。

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー、ボーカリストのガナビャ・ドライスワミさん(Heather Sten/The New York Times)

5月以降はハーバード大学やジャズ専攻コースのあるニュースクール大学、各地のジャズフェスでも討論の場を設ける予定だ。フルート奏者のニコル・ミッチェルさんは、このルールブックに従えば「他とは違うしるしになるし、ジャズ界にエレガンスさがもたらされる」と言う。

どうしたらセーフスペースを作れる?

数か月をかけて皆で苦労して書き上げたルールブックは、2つのパートに分かれている。「取り組み」と「定義」だ。「取り組み」のパートは「パフォーマンスアート界の中に、どうやったらセーフスペースを作れるか?」といった具体的な質問集となっている。「定義」のパートは、「セクシャルハラスメント」、「職場」、「同意」といった言葉の意味を説明するきめ細かい用語集だ。

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー、ボーカリストのイマニ・ウズリさん(Heather Sten/The New York Times)

「ウィ・ハブ・ボイス」には、ニコル・ミッチェルさんやドラマーのテリ・リン・キャリントンさんのように数々の賞を受賞したミュージシャンから、今も大学のジャズコースに所属する若手までが集まっている。人種的バックグラウンドも多様だ。「このコレクティブの美しいところは、全員が異なったもの、異なった経験を提供し合えるところです」とキャリントンさんは言う。

その結果、「ウィ・ハブ・ボイス」は共通する視点としてフェミニズムを採用しているが、一人ひとりのバックグラウンドによって「パワー」との関係が異なることを前提とし、頭の中だけで考えた安全な環境の理想像なんてないんだという理解の上に、ルールブックで「セーフプレース/セーファープレース」(安全な場所/より安全な場所)という言葉を使っている。

もう「孤立無援」じゃない

2017年の始め頃から、ジャズ界でも職場や教室におけるハラスメントの証言が次々と明るみになっていた。若いトロンボーン奏者のカリア・バンデベールさんは2018年3月、投稿サイト「Medium」上で、自分がジュリアード音楽院の学生だった時の経験を明かした。バンデベールさんは音学院のイメージガールのような扱われ方をしたが、実際には当時ジャズコースにいた女性は彼女を含めて2人だけで、いつも孤立無援な気分だったという。講師からは演奏を細かく批判されたり、体を眺められたりすることもよくあり、時にはあからさまなセクハラ発言も浴びたという。

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー、ボーカリストのカビタ・シャーさん(Heather Sten/The New York Times)

「セクハラや女性差別についての自分の体験を振り返って、不当な行為があったときに、その時その場で同級生や教師たちに直接声を上げていたら、と心から思う。けれど、当時は声を上げるの手引きも知識も自信もなかった」とバンデベールさんは書いている。「でも声を上げることが──特にクラスルームの中では──私の責任であってはいけないはず」。「ウィ・ハブ・ボイス」では、カウンセリングや助言プログラムを通して、こうした場合に欠けているサポートも行っていこうとしている。

音楽業界はハリウッドより遅れている

ジャズ界では「ウィ・ハブ・ボイス」の他にもセクハラ追放の動きが起きている。2017年はジェンダーの平等を推進するグループ「ウーメン・イン・ジャズ・オーガニゼーション」が立ち上がった。バークリー音楽大学などの学校では学生と教師が、セクハラ被害者や性的暴力のサバイバーのための活動を組織している。

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「ウィ・ハブ・ボイス・コレクティブ」のメンバー、チェロ奏者のオキュッグ・リーさん(Heather Sten/The New York Times)

音楽業界全体を見渡して、ジェンダーの平等についてはハリウッドよりもなお遅れているというのが大方の認識だ。映画俳優組合は2018年2月、セクハラに関する倫理規定を発表したが、音楽界にはそうしたアーティストの利益のために闘う労働団体もない。

ジャズ界ではレコード会社が人気プロデューサーが雇い、流通チェーン全体を握ってはいるが、必ずしもそうした企業だけにパワーが集中しているわけではない。むしろ最も重要なのはミュージシャン個人だ。その上でジャズフェスティバルや教育機関がある。

「ウィ・ハブ・ボイス」に参加しているライナ・スワミナタンさんは言う。「私たちがやっていることはブランド戦略のためでもないし、社会のメインストリームで起きていることに加わろうとしているわけでもない。ジャズ業界のさまざまな団体に責任を課すための基礎作りを試みているのです」

© 2018 The New York Times News Service[原文:Women Fighting Sexism in Jazz Have a Voice. And Now, a Code of Conduct./執筆:Giovanni Russonello](抄訳:Tomoko.A)

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