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「アインシュタインの匂い」ってどんな? 五感を研ぎ澄ませる参加型アート

The New York Times

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表面をなでると音楽が聞こえる壁、『触覚オーケストラ』(Roos Meerman作)。2018年4月16日マンハッタンで撮影。(Vincent Tullo/The New York Times)

小さな円筒状の『Cyrano(シラノ)』は、ポータブル・スピーカーのような形をしている。しかし流れてくるのは、音楽のプレイリストではなく、「におい」のプレイリストだ。「サーフサイド」や「アインシュタイン」など名称をつけられた様々な「におい」を「メドレー」で楽しめる。ニューヨーク、アッパーイーストサイドのクーパーヒューイット・スミソニアンデザイン博物館で、この、におい再現プレーヤーに出会うまで、私はアインシュタインのにおいを嗅ぐことがあるなんて考えたこともなかった

においや味でアートを体験する展覧会

開催中の「The Senses: Design Beyond Vision(センシズ:視覚を超えたデザイン)」は、先進工業国のコンシューマリズム(消費者主義)におけるこれまでにない、大胆な試みをフィーチャーした企画展だ。会場を訪れた人は作品を眺めるだけではなく、においを嗅ぎ、触れ、聴き、味わうという「五感」を通して直にそれらを「体験」し、鑑賞する

展示されているのは、こすると香りが出るハンドペイントの壁紙(いわばアンディ・ウォーホルの『牛の壁紙』のチェリー版だ。当然、サクランボの香りがする)や、様々な物体のタッチ・アンド・フィール(触った感じ)を超音波を発してバーチャルに再現するデバイスなど。私も、空中に再現された「シャンパンの泡」なるものを感じることができた。毛皮で覆われ、凹凸のある壁面インスタレーションは、手で表面を撫でることで音楽を作ることができる。これには、子ども達も夢中になるはずだ。

アートは見るだけのもの? NO!

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香り付きウールの雪玉『スノーストーム』(Christopher Brosius作)。2018年4月16日マンハッタンで撮影。(Vincent Tullo/The New York Times)

この企画展が提供するのは、遊びやゲーム感覚だけではない。開催された背景にあるのは、シリアスかつこの時代ならではの壮大なアイデアだ。

人類は、洞穴で生活していた古代から、生活する上でどの感覚よりも視覚を一番頼りにしてきた。人類には他の霊長類と同じ数だけ、においを嗅ぎ分ける遺伝子があるとされるが、それらの半数は数百万年前に機能を停止してしまった。

それで犠牲になったものは何だろう。

視覚は五感のなかで最も自分の外側、かつ自分から離れた感覚である。すなわち、私たちが見る対象物は常に、自分からある程度離れた場所にある。それに対し、音はヒトの体内で振動するし、においは体内に留まる。ある場所がどんな光景であったか思い出せないこともある。でも、においには、我々の記憶を呼び覚ます力がある。

ヒトは無意識のうちに五感を組み合わせている

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『羽の噴水』(Daniel Wurtzel作)。2018年4月16日マンハッタンで撮影。(Vincent Tullo/The New York Times)

人類学者アシュレー・モンタギューは、かつてこう著した。触覚は(皮膚は最古の臓器であるため)「目、耳、鼻、口の生みの親」であり、私たちを周りの世界とつないでいると。味覚も多くのことを語るのは、プルーストを読むまでもなくお分かりだろう。

明らかに、人類の五感は組み合わされて使用されている。例えば、食べる際の食感である。マスカルポーネ・サンデーの中のマカデミアナッツやブラウンバター・ウエハースは味だけでなく、舌触りや歯ごたえという食感を提供する。磨製石器を視界に捉えただけで潜在意識により舌が反応することもある。音は、何らかの色としてヒトの潜在意識に登録されることがあるし、色は、味覚として登録されることがある。

とはいえ、何年も前に、イタリアの小説家イタロ・カルヴィーノが「降り止まない画像イメージ」と描写したものが、膨張して大洪水になっている。つまり、ソーシャルメディアやスマートフォン、仮想現実により、「ocularcentrisc(視覚中心主義化)」がこれまで以上に進んでしまっている。ocularcentriscは、以前、フィンランドの建築家ユハニ・パルラスマが、建築家がデジタル・アニメーションに依存するようになった様子を嘆くために用いた言葉である。

本来の「体の知恵」を呼び覚ませ

「部屋は、単に窓とドアで仕切られた立方体ではありません」と共同キュレーターのアンドレア・リップスとエレン・ラプトンは、展覧会の図録に記した。「ラグはノイズを吸収し、床板は悲しみのため息をつきます。五感に訴えるデザインは、私たちの皮膚、骨、筋肉を刺激します。くすぐり、つねり、はじきます。手荒に振る舞うこともあります。私たちに触れ、私たちは触り返します

そこで、企画展「センシズ」の出番となる。リップスとラプトンは、触覚、聴覚、嗅覚、味覚を機能させることによって、私たちに本来備わる「体の知恵」が働く、と力説する。リップスはまた、集団的「現実への渇望」の存在についても記述する。前述のにおいのプレーヤー、シラノのような作品は、微力ながらそうした渇望をいやそうという試みから誕生した。

障害者支援に取り組むアーティストも

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『エマージング・オブジェクト』。2018年4月16日マンハッタンで撮影。(Vincent Tullo/The New York Times)

会場には、約65 名のデザイナー又はチームによる作品、ビデオ、製品、模型が展示されている。視覚障害や聴覚障害の支援をコンセプトにする作品もみられる。例えば、イスラエルの若手デザイナー、リロン・ジーノによる『Vibeat(バイビート)』は、音楽を振動に転換するデバイスである。ブレスレットやブローチ、ネックレスとして身に付け、聴覚障害者も音楽を楽しむことができる。

また、楽しい色使いのテーブルウェアは、視覚障害者のために考案されたが、一般用としてはもちろん、食べ物とお皿、飲み物と容器の区別が付けにくくなり食欲の減退した認知症患者の使用にも向く。

注目は未来の技術「ハプティクス」

この記事の冒頭で紹介した、シャンパンの泡の触感を再現するデバイスを考案したのは、英国企業Ultrahaptics(ウルトラハプティクス)である。振動を通して音が感じることを可能にしたように、この音波は空中に物体の触感を再現することができる。再現された物体は遠隔操作することも可能だ。

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音響と文字で様々な感情を表現する『フィーリング・カタログ』を鑑賞する少女。2018年4月16日マンハッタンで撮影。(Vincent Tullo/The New York Times)

それほど遠くない将来、超音波デバイスから、家のテレビの音量やガスレンジの熱量を調整するための、目に見えないスライド式調節つまみを作ることができるようになるかもしれない。既に独エレクトロニクス大手のボッシュから、離れた物体の「感触」を手元に伝えるハプティクス(触覚技術)を活用したコントローラーを搭載したコンセプト・カーが発表されている。

ハプティクスとは、例えて言うなら、ハードウエアのない任天堂「Wii」、あるいは、映画『マイノリティ・リポート』で描かれた世界、あるいは映画『ブラックパンサー』に出てくるヴァーチャルリアリティのレクサス車といったところだろうか。感覚系テクノロジーには必ず限界があるとしても、どれも非常にワクワクさせられる。ハンドルを握る必要のない自動運転はその一例だ。

とはいえ、もちろん、我が子の手を握った時の手の感覚、ブラウンバター・ウエハースを噛み砕く時の舌触りの代わりとなるものがこの先も現れることはないのは、言うまでもないが。

The Senses:Design Beyond Vision(センシズ:視覚を超えたデザイン)

開催期間:2018年10月28日まで
開催場所:クーパーヒューイット・スミソニアンデザイン博物館 (ニューヨーク市マンハッタン、2 East 91st St.)

© 2018 The New York Times News Service[原文:At This Museum Show, You’re Encouraged to Follow Your Nose/執筆:Michael Kimmelman](抄訳:Ikuko.T)

COOPER HEWITT, inexhibit

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