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めまいがするほど鮮やかなピラミッド、しかも浮いてる!

The New York Times

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David Azia/The New York Times

安全ヘルメットにカーゴジャケット姿のクリストは、自身の最新アート作品が、ロンドン中心部にある公園ハイドパークの池に設置される様子をじっと見守っていた。水面をカモがスイスイ泳ぐかたわらで、オレンジ色のつなぎを着た作業員がインスタレーションの最終工程に取り掛かっている。その頭上には大型クレーンが待機していた。

ハイドパークの池に浮かぶメソポタミアのピラミッド

9月23日までハイドパークの池に浮かべられている『The London Mastaba(ザ・ロンドン・マスタバ)』は、クリストにとっては英国で初めてのメジャーな屋外インスタレーションだ。鮮やかにペイントされた7,506のドラム缶を積み上げた台形のピラミッドで高さは約20メートルと、エジプトのスフィンクスとほぼ同じ背丈を持ち、重さは650トンある。また、マスタバという題名は、6千年前のメソポタミア文明の時代に築かれた長方形で平天井の墳墓に由来している(ちなみにアラビア語でマスタバは“ベンチ”の意味だ)。クリストがアラブ首長国連邦の首都アブダビの砂漠に置きたいと構想中の作品のおよそ8分の1の大きさで、いわばテスト版ともいえる。

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完成したマスタバの前でインタビューに答えるクリスト。2018年6月15日、ロンドンで撮影(David Azia/The New York Times)

その意味では、83歳になるブルガリア出身のクリストが、2009年に亡くなった妻のジャンヌ=クロードと一緒に手がけてきた過去のプロジェクトに比べると、いささかスケールが小さいかもしれない。クリストの名前は、北カリフォルニアで40キロにわたる布のフェンスを連ねた『ランニング・フェンス』をはじめ、パリのポン=ヌフ橋や、ベルリンのライヒスターク(帝国議会議事堂)を丸ごと“梱包”した壮大な作品で知られているからだ。

とはいえ、ロンドンのこのインスタレーションの完成までの道のりは、決して簡単なものではなかった。他のプロジェクトのときと同様に、設計スケッチなどのアート作品を販売することで、400万ドル(約4億4,000万円)の制作費用をクリスト自身が捻出しなければならなかったし、1年かけて管轄する地方自治体やハイドパークの管理団体からの認可を取り付け、すべて終わるまでに2年近い歳月がかかっているのだ。

だが、あるインタビューのなかで、クリストは「私たちのプロジェクトはどれも、意気盛んでワクワクする探検旅行みたいなものだ。人々と一緒に現場で働くのが私は大好きだし、完成までの過程が楽しい。信じられないほど素晴らしい、忘れがたい体験ができる」と話している。

シンプル&スピーディがモットーの制作現場

ロンドンのマスタバの制作にあたって、資材は70台以上のトラックによって公園内に運び込まれたが、公園を散策する多くの通行人に配慮して、トラックは1時間に1.6kmのノロノロ運転で走行するよう定められたという。

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作品を設営する様子をカメラにおさめる通行人。2018年6月15日、ロンドンで撮影(David Azia/The New York Times)

クリストの屋外パブリックアート・プロジェクトの数々で現場監督をつとめる甥のウラジミール・ヤヴァチェフはしかし、制作の進行に関してあまり心配はしなかったようだ。「クリストはエンジニアリングのセンスがあるからね。プランを実現する方法はあるし、不可能ってわけじゃない」と話し、「シンプルかつスピーディであることが重要だ。さっさと行って、素早く片付けて、すぐに撤収するんだ」という。

ヤヴァチェフは1991年から伯父のもとで働いている。最初は制作現場の撮影をするフォトグラファーのカメラバッグを持つ係だった彼は、最近では責任者として、クリストと論争になることもしょっちゅうなのだそうだ。「でも、家族と一緒に仕事をするのはなかなかいいものだよ。ボスに向かって怒鳴ることができるんだから」

『The London Mastaba』は池の底につながれた浮き桟橋の上にのっており、積み上げられたドラム缶は鉄製の支柱を組んだ足場で固定されている。4月下旬にはキューブ状の浮遊物がいくつかあるだけだったが、2週間後には足場の一部ができあがり、ペイントされたドラム缶が1列並んでいた。6月初めになると、クレーンによって何列ものドラム缶が積まれており、すでに巨大な塊と化していて、作品はほとんど完成しているようにみえた。

英国では初めての本格的な屋外インスタレーション

このインスタレーションは、サーペンタイン・ギャラリーのサマープログラムの一環で、ドラム缶やマスタバをモチーフにしたクリストの彫刻やドローイング、コラージュ作品を展示した展覧会も同時に開かれている。

ロンドンにはクリストが欠けていると、いつも心のどこかで感じていた」と話す、同ギャラリーのアートディレクターのハンス・ウーリッヒ・オブリストは、2016年イタリア北部のイゼーオ湖に設営されたインスタレーション『フローティング・ピアース』を見て、クリストにコンタクトしたという。これは湖面に布で覆われた“桟橋”を浮かばせた作品だ。

打ち合わせがはじまり、クリストがロンドンにやってきた。ハイドパークを通り抜けながら、クリストが今まさに作品がある場所を指さしたのだとオブリストは当時を振り返り、長年こだわり続けてきた造形であるマスタバを創りたいというアーティストの強い熱意と意志を明らかにする。

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マスタバの側面の傾斜の部分。水面に映る照り返しが美しい。2018年6月15日、ロンドンで撮影(David Azia/The New York Times)

壮大なプロジェクトは幾多の困難をのりこえて誕生

エジプトのファラオのような大がかりなプロジェクトの数々は、クリストの巨大なエゴの表れなのだろうか。だが、彼はそれを否定する。「私の作品にはユーモアが詰まっている。仰々しいが、シンプルだし、誰かを威圧するものでは決してない

しかし、本当に完成させられるかは、いつもいちかばちかだったとも打ち明ける。

1976年、2週間公開された『ランニング・フェンス』は、カリフォルニアの59の牧場の私有地にまたがる作品で、3年半にわたり地元との話し合いが続けられ、18回の公聴会とカリフォルニア州高等裁判所で3回の審理が開かれた。フェンスをイメージして鉄線に吊るされた布の総量は18万平方メートルを超える。住民のなかには、このプロジェクトを快く思わない人もいて、作業用の重機が壊される事件や爆破予告もあった。

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作業員に説明をするクリスト。2018年6月15日、ロンドンで撮影(David Azia/The New York Times)

ポン=ヌフの梱包では、パリ市長が一度出した認可を取り消そうとしたため、計画がもう少しでついえるところだった。事前に城や飛行機の格納庫で梱包のトライアルをしてから挑んだライヒスタークの場合は、クリストに対し殺害の脅迫があったためボディガードがついたし、プロジェクトに反対だった当時のコール独首相により議会での投票も行われた。

幸い『The London Mastaba』にはこうした障害はなく、スムーズにことが運んだようだ。そして次の大きなプロジェクトはいよいよ砂漠のマスタバだ。実現するかどうかはまだわからないとしながらも、「進展はしている」とクリストは語り、「私はチェスプレーヤーと同じ」と付け加えた。「やり遂げるまで生きていたい。今はそれが一番重要なことだね」

©2018 The New York Times News Service[原文:Christo’s Latest Work Weighs 650 Tons. And It Floats./執筆:Farah Nayeri](翻訳:十河亜矢子)

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