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なくてもいい。でもついつい惹かれるキッチングッズ

The New York Times

ある雨降りの金曜日。今年はベリー類が人気なんだよ、と言いながらスコット・ゴールドスミスが見せてくれたのは、真っ赤な車輪型の「プッシュベリー」。これを使えばイチゴのヘタ取りとスライスが一気にすむ

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アボカドの種取りや、皮むき、スライスができるFlip-Blade(Prepworks写真提供)

アボカド人気もまだ続いているね、と言って指差したのはアボカド・スライサーのFlexicadoとAvoquado。店に複数あるアボカドの種取り器やスライサーは、どれも黄緑色のプラスチック製だ。どうもデザイナーは実物に似せたデザインが好きらしい。それから、この10年人気が絶えない葉野菜のケール用には、LooseleafとSwiftstripがある。硬い茎から葉をむしり取るという、これまで意識してもいなかった悩みに応えてくれるツールだ。

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ケールの茎から葉を素早くむしり取るためのLooseLeaf(Williams Sonoma写真提供)

魅惑のキッチン用品店へようこそ

ゴールドスミス(61歳)が三代目店主を務めるエス・フェルドマン家庭用品店( S. Feldman Housewares)は、マンハッタンのアッパーイーストサイドにある。棚には、キッチングッズが所狭しと並んでいる。例えば、昔のSFドラマの異世界の植物として出てきそうな黄色いシリコン・スチーマー、Food Pod(14.99USD)。スチーマーとザルの二役をこなす。

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卵や野菜、シーフードを茹でたり、水切りしたり、蒸したりするのに便利なシリコン製Food Pod(Fusionbrands写真提供)

それから、チタン製バターナイフのSpredTHAT(19.95USD)もある。店主曰く、「手の熱を活かす仕組みで面白い。僕はあまりバターを食べないけど、バターナイフに対する偏見はないよ」。そのほかには、玉ネギ用ゴーグル(19.95USD)やら、去年のクリスマスに大売れしたスパンコール付きエプロン(120USD)などがある。

エプロンの洗い方は? という問いには「さあね」との答え。

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握った手の熱を刃先に素早く伝え、冷たいバターやスプレッドを柔らかくするバターナイフ、spreadTHAT! (spreadTHAT!写真提供)

奇抜な便利グッズの今昔

ゴールドスミスは何十年にも渡って、実に様々なキッチン器具を売ってきた。トリュフ削り器やサクランボの種取り器、サラダ・シューター(野菜スライサー)、スパイラライザー(野菜をらせん状にスライスできる器具)などを見て行くと、デザイナーの創意工夫、楽観主義、遊び心の変遷を辿ることができる。葉野菜の茎取り器をわざわざ発明するなんてナンセンス、と思うかもしれない。だが、ゴールドスミスに言わせれば、1929年から店が続いているのも、そういった器具のおかげ。

「ここだけの話、こういった器具のほとんどは、包丁1本で代用できるよ」とゴールドスミス。

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下ろし金の刃から手を守る手袋(Williams Sonoma写真提供)

デザイナーの創作意欲をかきたてるキッチン用品

工業デザイナーにとって、キッチン器具の可能性は無限だ。Smart Designを始めとする複数の会社を立ち上げたタッカー・ヴィーマイスターは、トースターといった複雑な家電から、ジャガイモの皮むき器といったシンプルな器具まで、デザインの練り直しを行ってきた。工夫の余地がない物などほとんど存在しない、というのが彼の持論だ。

1990年発売のOxo Good Gripブランドの皮むき器は革命的だった。スマートデザインが手がけたそのデザインは、手にしっくりと馴染むゴム製の柄を起用し、刃を固定した。「デザイナーは楽天家で、どんな物でも改善できると思う。その反面、何を見ても出来が悪い、または機能していないと思ってしまう」とヴィーマイスターは言う。

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黄色いプラスチックのへらのような卵殻むき器、EggXactPeel。(Fusionbrands写真提供)

料理道具はその時代の社会や思想を映す鏡

イギリス人フードライターのビー・ウィルソンは、著書『キッチンの歴史: 料理道具が変えた人類の食文化』(河出書房新社)の中で、テクノロジーと社会的道徳観、食の流行がどのように交錯して数々のキッチン器具を生み出してきたかを考察した。

新しいテクノロジーは、旧式テクノロジーに関わる一切の道具を廃れさせてしまう。例えば、コンロが登場すると、囲炉裏はもちろん、熱を逃さないようにする囲い、焼き串、肉焼き機、肉焼き機の回し車を回すターンスピット犬も全てお払い箱になってしまった。テクノロジーは食事自体も変えてきた。フードプロセッサーが誕生し、ピュレー状の食べ物が増えた反動で、現代では逆に料理人が手間暇をかけ、素材そのものを生かして調理した食事がもてはやされるようになったとウィルソンは論じる。

ウィルソンによれば、「新しい道具が誕生すると、飽きるまで過剰に使用されるようになる」。たとえば、「電動ブレンダーを手に入れたばかりの女性にとって、世界にはスープしか食べ物が存在しないように思える」。

移り変わる食の流行

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卵の殻むき器NEGG(NEGG写真提供)

最近、ウィルソンは機能についてこんなコメントもしている。「切れる包丁や良い熱源、器用な手に勝る新しい道具はほとんどない。しかし、道具はその時代の強迫観念や、欲望を反映している。ヴィクトリア朝の家庭にはキャベツ刻み器があった。今は刻みキャベツがもてはやされてないので、そんな道具がなくても事足りる家庭がほとんどだろう。ケールの茎取り器が家にある人は、ケールが生活の重要な一部を占めていることを自ら認めていることになる」

さらに10年前については、「カップケーキ関連グッズがキッチン用品店の商品の半分を占めていたように思う」とウィルソンは言う。

「でも流行は移り変わり、今や料理欲をかき立てるのは、ヴィーガン食。らせん状に野菜をスライスするスパイラライザーの大ヒットもそのせいだろう。数年前にスパイラライザーが売り出されたとき、すぐに廃れると思った。でも全くの見当違いだった。低糖質ダイエットのおかげか、インスタグラムの#plantbasedといったハッシュタグ人気のおかげか、ビーツやズッキーニを電話コードのような形にする機能は予想以上の人を惹きつけている」

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根菜などの野菜をらせん状にスライスできるスパイラライザーのSpiralfix(Gefu写真提供)

便利グッズは本当に必要か?

ボストンの放送局を中心に展開する料理番組America’s Test KitchenとMilk Streetのクリエイターの一人で司会者でもあるクリストファー・キンボールは便利グッズの存在意義に懐疑的だ。器具には三つのカテゴリーがあると考える。「無用の長物」「置き場所を確保するほどの価値がないもの」「実用的に見えて包丁の方が上手くいくもの」だ。

「よく考えられた器具は非常に便利。でも、使用頻度が月に1度といった、用途が限られる道具の場合、それ無しで済ませても、大して手間は増えないのでは?」と首をかしげる。

なくてもいい。でも惹かれるグッズ

そんなキンボールでさえ、便利グッズの魅力に負けることはある。毎年3月にシカゴで開催される料理器具の見本市、The International Home and Housewares Showに数年前に参加した際、ゆで卵用タイマーのBeepEggに心を動かされてしまった。卵型の可愛らしいこのタイマー、希望のゆで具合に合わせた音楽を鳴らしてくれるのだ。たとえば半熟卵なら「キリング・ミー・ソフトリー」のメロディーというように。

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ゆで卵と一緒に鍋に入れて使う卵型のゆで卵タイマーBeepEgg。希望の茹で具合になると、決まったメロディーを鳴らしてくれる。(Brainstream写真提供)

さらにキンボールは、長年、ありとあらゆるエッグポーチャー(ポーチドエッグを作る器具)を購入してきたことを認める。「自分で卵を調理するのはさほど難しくない」にも関わらずだ。

家庭用品の売上の13%以上を占めるキッチン用品

家庭用品業界団体(the International Housewares Association)の統計によれば、直近の2016年では、家庭用品の販売合計は871億ドルに上り、調理器具や付属品はその13%あまりを占め、前年比6%増だった。

専門家のキッチンをのぞいてみると……

フードライターとして活躍し、(通販およびレシピ投稿・検索サイトの)Food52の創業者・兼・経営責任者でもあるアマンダ・ヘッサーは、自社の商品開発に生かすため、いつもキッチン用品を評価している。流行りすたりに詳しく、ヒット商品の目利きでもある彼女だが、自宅の台所には古典的な器具を押し込んだ引き出しがある。キッチン用品のミニ博物館のようだ。

特に目がない道具はメロンボーラー(果肉をボール状にくり抜く器具)。中にはグリーンピース大のサイズもある(借り暮らしの小人にとっては魅力的かもしれないが、それ以外には何の役にも立たない。)そのほかには、ゆで卵の上部の殻を綺麗に切り取るエッグトッパーや、バターを薄く削るバターカーラー、海老の背ワタ取り器もある。

そんな古風な器具に弱いヘッサーだが、流行りのグッズには惹かれない。「ケールの茎取り器まで使い始めたら、どこで線引きをすればいいの? これは商品レビューでよく言及する問題ね。メーカーは用途が限られた商品を開発しがち。でもそんな器具を揃えたら、広大なキッチンが必要になるでしょ。器具に作業を任せてしまったら、茎から葉をワイルドにむしり取る快感も得られなくなってしまうし」

© 2018 New York Times News Service[原文:All Those Kitchen Gadgets, but a Sharp Knife Just Might Do/執筆:Penelope Green](翻訳:Ikuyo.W)

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