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I'm a 妊夫。出産を経験したトランスジェンダー男性

The New York Times

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音楽に合わせて踊るペイティンを見守るデイビッド(左)とタナー(右)。(Jackie Molloy via The New York Times)

やんちゃな1歳の女の子ペイティンには父親が2人いる。お腹を痛めて彼女を産んだのは片方の父親だ。

ジェンダーに関する伝統的な考え方が揺らいでいる昨今、家族の形も変わりつつある。ペイティンを生んだタナー(25)はトランスジェンダー男性だ。生まれた時は女性の身体だったが、10代の頃に性別移行を始めた。

タナーのパートナーのデイビッド(35)はゲイの男性だ。彼はペイティンのもう一人の実の父親である。娘の誕生は人生最高の出来事だったと二人は口を揃える。

パフォーマーのゲイカップルに起きた予期せぬ出来事

ニューヨーク州北部に住む彼らは共に、自宅の近くにあるクラブでドラァグ・パフォーマーとして活動している。昼間はそれぞれ別の仕事に就いて生活を支えている。

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パフォーマンスをする傍ら、バーテンダーとして働くタナー(Jackie Molloy via The New York Times)

ドラァグ・キングのタナーは、マイケル・ジャクソンなどの曲に合わせて口パクのダンスを披露する。踊りながら得意の手話で歌詞を伝えるため、聴覚障害者のファンも多い。長身のデイビッドは、ヒールとタイトスカートでゴージャスなドラァグ・クィーンに変身する。

トランスジェンダー男性が子供を身ごもる時は、決意を持ってそうする場合がほとんどだが、タナーの場合は違った。男性ホルモンを打ちそびれていた時期にたまたま妊娠してしまい、つわりが来て初めてそれに気づいたという。ショックだったが、彼もパートナーのデイビッドも産むことに迷いはなかった。

性的少数者で実子を持てるのは稀なこと

デイビッドは言う。「実の子を持てるチャンスを大事にしたかったんです。僕らのコミュニティでは稀なことですから」。超音波を通して初めて胎児の鼓動を聞いた時は二人とも泣いたそうだ。

「人生が変わった瞬間でした」とデイビッド。「最初はピーナツみたいだったのに、次の検診の時はもう赤ちゃんの形になっていてびっくり。手も見えて、ああ、将来はドラマーになるかもとか、手話を習わせなきゃとか、いろいろ考えました」とタナー。

タナーは妊娠中は男性ホルモンを打つのを休止していた。しかし性自認を女性に戻す気はなかったし、女性の服を着るつもりもなかった。

「周りには自分のことを『妊夫』だよと言っていました。妊娠してる男だけど何か? 文句あるなら近づくなって感じでね」

アイデンティティ探求の日々

小さい頃のタナーは男の子みたいで、フットボールが大好きだった。遊び相手も男の子の方が多く、自分はみんなと違うといつも感じていた。

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タナー(左)と義理の父(中央)。右の写真はタナーの女性時代のもの(Jackie Molloy via The New York Times)

思春期に入ると身体が大きく変わり始める。特に胸が膨らんでくるのは辛かった。上半身裸で外を駆け回ることはもう許されない。大概の女の子にとって嬉しいはずの初めてのブラを与えられた時、タナーは屈辱の涙を流した。

次第にタナーはうつと不安感に悩まされるようになる。心と身体の性別が一致しない性別違和からくる症状だった。

好きになる対象は女の子。同性愛は間違っていると教えられてきたので葛藤もあったが、高校1年の時にバイセクシャルだと周囲にカミングアウトした。その後、自己認識は「男っぽいレズビアン」に変わった。

性別移行してやっと自由になれた

転機が訪れたのは大学1年の時だった。生まれて初めてドラァグ・キングのパフォーマンスを見て、自分もやりたいと強く思った。そして胸を潰し男装で舞台に立ってみて、自分が何者であるかがやっと分かったと感じた。

それからは実生活でも男性として生きられるように行動を起こしていった。家族や友人には自分のことを「彼」と呼んでもらえるように頼み、1年後にはホルモン療法を始めた。徐々に声が低くなり、ヒゲが生え、生理は止まった。首が太くなり、あごのラインが角ばり、脂肪のつく場所も変わってきて、男らしい体つきになっていった。

やっと自由になることができました。性別移行は人生最良の決断でした」

まさかの男性との恋愛、そして妊娠

男性との恋愛はないだろうと考えていたタナーだが、気づいたら長年の友人のデイビッドと恋に落ちていた。ゲイであるデイビッドも、まさかトランスジェンダー男性と一緒になるとは思ってなかったという。

バイセクシャル、レズビアン、ドラァグ・キング、トランスジェンダー男性、ゲイ、妊夫——辿ってきた道を振り返ってタナーは笑いながら言った。「LGBTQ(レズビアン・ゲイ・トランスジェンダー・クィア)の全てをカバーしてるね」。

性別違和、奇異の目、体調不良。辛かった妊夫生活

家族や友人など大勢の人に支えられている二人だが、これまで街で人から嫌がらせを受けることも少なくなかった。お腹が目立ってくるとタナーは外出を控えるようになった。そして何より胸が大きく膨らんでくるのが精神的にきつかったという。

産婦人科の待合室でも周囲から奇異の目で見られた。妊娠期間中はずっと吐き気と胸焼けに苦しみ、妊娠後期には子癇前症を発症し入院を余儀なくされる。

難産の末、赤ちゃんと対面。幸せすぎて現実とは思えなかった

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Jackie Molloy via The New York Times

お産は大変だった。金曜日に分娩促進のための投薬が始まり、土日の間格闘が続いた。月曜日に赤ん坊の心拍数が下がってきたのを受けて、医師は帝王切開に踏み切り、ようやく無事に娘が生まれた。

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Jackie Molloy via The New York Times

デイビッドは言う。「看護婦さんからハサミを手渡されて、へその緒を切ったんです。ゴムバンドみたいな感触でした。赤ちゃんがタナーのもとに手渡されると、僕らは二人とも泣いていました」。

「現実じゃなくて、泣けるドラマみたいだ……。そう思ったのを覚えています」とタナー。意識が遠のくのをなんとか堪え、幸せを味わっていたという。

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Jackie Molloy via The New York Times

出産したからといって「母親」になるわけではない

ペイティンの出生証明書にタナーは「母親」として記されている。彼とデイビッドはいずれこれを変更し、二人とも「父親」として記載されることを望んでいる

また、タナーにとって子供に母乳を与えることは、決別したはずの女性という性を象徴する「おっぱい」を受け入れることを意味し、耐え難いことだった。出産後にホルモン療法を再開し、数か月後には乳房切除の手術を受けた。

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出産後、タナーは女性の象徴である乳房を切除した(Jackie Molloy via The New York Times)

もっと子供が欲しいけれど、次はどうすべきか?

二人はもう一人子供が欲しいという。デイビッドはタナーがまた妊娠してくれたらという意見だが、タナーは性別違和の苦しさを思うと、養子という選択肢もありなのではないか考えている。

「同性同士やトランスジェンダーのカップルが子供を持つ時はそれが主流ですから」。だが、養子縁組は最終段階で実の親が子を手放せず、頓挫することも少なくない。実際にそうした経験をし辛い思いをした知人もいるので、気持ちが揺れてしまうという。

タナーはドラマーの父親譲りの音感で、ピアノ、ギター、ドラム、サックスなどの楽器演奏を独学で身につけた。その血は娘のペイティンにもしっかり受け継がれているようだ。音楽が鳴るとニッコリし、腰を振って腕をゆらす。

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Jackie Molloy via The New York Times

デイビッドが仕事から帰ってきて、ペイティンを抱き上げキスをする。満面の笑みを浮かべる娘を見て彼は言う。「彼女は最高だ」

© 2018 The New York Times News Service[原文:A Family in Transition/執筆:Denise Grady](翻訳:Tom N.)

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