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ハーレーにまたがり、自由を叫ぶ。サウジで女性が初めて運転する日

The New York Times

世界で唯一、女性による自動車の運転が禁じられていたサウジアラビアで、2018年6月24日、ついに運転を認める法律が施行された。記念すべき日にさきがけ、期待と希望を抱くサウジ女性の生の声と、彼女たちを取り巻く課題をニューヨーク・タイムズが現地で取材した。

二度の離婚。ハンドルを握るシングルマザー

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オートバイを運転する練習セッションを受ける女性たち。右から2人目がドア・バセムさん。2018年6月18日、サウジアラビアで撮影(Tasneem Alsultn/The New York Times)

鮮やかなピンクのメッシュが入った髪に、スタイリッシュなリップドジーンズ。ドア・バセムさんは、現代のサウジアラビアで、女性であることの意味を問い直し続ける存在だ。

14歳で、バセムさんは父親に車のオイル交換の仕方を習った。運転することは許されないだろうと思いつつも、ビンテージ・スーパーカー、トランザムのオーナーになるのを夢見て、エンジンをばらしたり組み立て直したりとメカニックを楽しんだ。

17歳で、親が決めた結婚をした。1年も経たずに子どもを産み、離婚して、それから再婚し、また離婚した。

今29歳、彼女は仕事を持つシングルマザーで、自立して生活しており、サウジアラビアで女性の運転が解禁となる初日にハンドルを握ろうとしている。ただし、彼女が乗るのはスポーツカーではなくハーレーダビッドソンである。

私はいつだって男の子みたいに振る舞い、反抗的だった」とバセムさんは話す。「今では他の人も私と同じような考え方をするようになってきた。親たちは結婚がすべてじゃないとわかりはじめているし、違う生き方がしたい女の子を社会も認めつつある」

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6月24日の運転解禁日を目指してトレーニングを積む。2018年6月18日、サウジアラビアで撮影(Tasneem Alsultn/The New York Times)

ムハンマド皇太子の改革が後押し

サルマン国王、ムハンマド皇太子、そして彼らの支持者たちは、王家は今まさに女性の権利を認める方向へと大きな一歩を踏みだすとしている。グローバル化の影響とあいまって、サウジ社会に地殻変動を起こすこの改革は、女性が学問や職業の分野でトップにのぼりつめることも可能にし、王国にかつてないほどの開放性をもたらしている。

女性の運転を認める法律は、厳格なイスラム教の信奉者である保守派への打撃であると同時に、王家が推進する石油に依存しない経済の構築のためにも欠かせない。なぜなら、この経済改革のもとでは、女性が働き手であり、消費者になることが期待されているからだ。

就業や旅行にも「後見人」の許可が必要

しかしながら、幾万ものサウジ女性が運転する権利を得たことに歓喜する一方で、男女平等を阻む厳然とした一線が依然として引かれているのも事実だ。「後見人制度」と呼ばれるきわめて規制的な制度の存在である。法律と慣習でしばられたこの制度のもとでは、女性は生涯にわたり、一族の成人男性、すなわち、父親、夫、兄弟、伯父、そして息子の“保護下”におかれている

後見人制度は男性優位のパワーバランスを維持する装置であり、家庭や職場、そしておそらく車道においても、女性の行動を承認する、あるいは、しない権利を男性に対して与えるものだ。後見人が認めなければ、女性は働くことも、旅行することも、医療を受けることもできない

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政府の後援を受けたメディアイベントでドライビング・シュミレーションを試す女性たち。2018年6月21日、サウジアラビアで撮影(Tasneem Alsultn/The New York Times)

自由にみえる生き方をしているバセムさんでさえ、法的には現在の後見人である兄の認可のもとに暮らしている。バセムさんの意思を尊重する兄は、進歩的な考えを持つ大家を見つけて、彼女のために部屋を借り保証人となった。さもなければ、「女性が1人で住んでいると周囲の人々がざわざわと落ち着かなくなる」社会で、シングルマザーが一人暮らしをするのは無理だっただろう。

今回の女性の運転を認める法律では、ドライビングレッスンを受けることや運転免許証を取得するのに、後見人の認可は必要ないとしている。だが、これは非常に稀なケースなのだ。

ムハンマド皇太子も後見人制度に対しては微妙な態度をとっている。米国メディアのインタビューで、サウジアラビアでは男女が平等であると宣言し、また、2017年、女性が後見人の承諾なしにさまざまな公的サービスが受けられるようになると政府機関は発表したが、具体的なサービスの内容を示すリストは、いまだに公表されていない。

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路上運転練習の途中、スターバックスでコーヒーを買いにひと休み。2018年6月17日、サウジアラビアで撮影(Tasneem Alsultn/The New York Times)

根強く残る女性への偏見

女性の登用や家族法においては、今なお残っている規制よりも、女性が勝ち得た権利に注目すべきという考え方もある。昨年、ムハンマド皇太子が権力を掌握して以来、これまで離婚の際は子供の親権は自動的に父親に与えられていたのが、母親に与えられるケースも出てきた。女性がビジネスを立ち上げるときも、後見人の承諾はもういらないし、技術労働や作業労働の分野で女性を雇う企業も増えた。経済的に貧しい家庭やシングルマザーにとって明るいニュースである。

50年以上にわたり、恵まれない女性や家族への支援活動を続けている「女性のための慈善団体アルナフダ」のプログラム・チーフを務めるサルマ・ラシッドさんは、最近の法の変化について、多くのサウジ女性の経済的かつ精神的な安心感を向上させ、社会の変革を促していると語る。実際、大学を卒業したり、奨学金を得て海外に出たり、就職をする女性の数は増えている。「サウジ女性はこうだと単純に決めつけることはできないのです。私たちにはもっと多様性があるのです。そして、女性の立場を向上させる一番のカギは経済にあります。それは世界的な歴史をみても明らかです」とラシッドさんは強調する。

ウーバーが資金を出して2月に行われた世論調査でも、回答者の90%が女性の自動車の運転を認めることに賛成だった。しかし一方で、差別的な偏見はまだ根強く残る。ある有名な宗教伝道者は、女性の脳の大きさは男性の半分しかないとして、運転などさせるべきではないと強く反対した。また、少なからぬ男性が、女性が運転を始めたら交通事故が大幅に増えるだろうと考えている。男性だけが運転している現時点で、交通事故はすでに大きな社会問題であるにもかかわらずだ。

実際の免許取得には困難も

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数少ない女性のドライビング・インストラクターの1人、ムネーラ・シャハラーニさん(右)と生徒。2018年6月17日、サウジアラビアで撮影(Tasneem Alsultn/The New York Times)

何ヶ月もかけて準備したものの、女性ドライバーに対して道を開く計画は決してスムーズとはいえなかった。1つには女性に運転を教えるシステムが確立できていないのと、何事につけ王家の承認が必要な官僚主義のせいである。

政府は海外の運転免許証を持っている女性は簡単な手続きでサウジの免許が取得できるとしたが、該当するのはわずか数百人で、残る数十万人の女性にとって、免許取得は越えなければならない障害があまりに多い。学校や政府機関で男女を厳しく分けている社会環境では、人材を見つけるのが難しく、女性に門戸を開くドライビングスクールはわずかしかない。

今年の初め、女性に運転を教えられる女性教官を見つけるべく、急きょドライバー教育プログラムが立ち上げられた。もともとは金融関係で職を探していたシェイハ・カディーブさん(29歳)は、ドライビング・インストラクターに任命された1人である。

カディーブさんはMBAを取るためロサンジェルスに滞在した経験があり、車の運転を同地で習った。カリフォルニアのハイウェイを愛車のジープ・ラングラーでドライブすることをこよなく愛していた彼女は、「ミッションにたずさわっている気持ちです。国の助けになるのですから」と話し、母国の同胞に自分が浸った喜びを伝えられるこのチャンスに飛びついたと明かす。

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路上での運転練習を終え、男性と入れ替わり、運転席からバックシートに移動する女性たち。2018年6月17日、サウジアラビアで撮影(Tasneem Alsultn/The New York Times)

教官の数の少なさ以外にも、取得費用など問題は多い。また、両親や家族は、車が故障したり、警官に停められた場合を心配して、女性の運転を渋る傾向にある。見知らぬ男性と接触することは多くのサウジ女性にとってトラブルのもとでしかないからだ。身体的な暴行を受けるリスクも否定できない。

しかし、オートバイファンのバセムさんは、6月24日、サウジアラビア東部州のアル・コバールで地元のハーレーダビッドソン・クラブの仲間と一緒にバイクで走行するつもりだ。およそ700人のクラブメンバーのなかにはごくわずかだが女性もいる。

運転免許証の取得が間に合わなかったバセムさんのような女性ドライバーを思いとどまらせようと、内務省は無免許運転には900リアル、米ドルにして約240ドル(約26,000円)の罰金を科すと発表した。だが、それさえも、バサムさんを止めることはできない。「私の人生のなかで1番エキサイティングな日になる」と彼女は宣言している。

©2018 The New York Times News Service [原文:Saudi Women Can Drive, but Here’s the Real Roadblock/執筆:Margaret Coker](翻訳:十河亜矢子)

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