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もはやアートに「男性目線」はいらない?

The New York Times

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Image via Getty Images

アートの評価基準が変わりつつあるようだ。

現代の民間コレクターや公立美術館がアート作品を購入する時、20世紀後半、ましてや19世紀後半とはかなり異なる文化的風土に基づいて判断している。

たとえば、現代アートのマーケットも様変わりし始めている。一部のキュレーターらが、これまで過小評価されてきたアーティスト(とりわけ女性やアフリカ系アメリカ人)たちの名誉回復を強く望んでいるからだ。

性被害にあった画家の株が急上昇

今月、ロンドンのナショナル・ギャラリーは、女性画家アルテミジア・ジェンティレスキの作品『アレクサンドリアの聖カタリナの自画像』を360万ポンド(約480万ドル)で購入したと発表した。

しかし、アルテミジアの才能は世の中にほとんど知られていない。“模倣するより嫉妬する方が簡単な、絵画の天才”という謳い文句で、イタリアン・バロックで最も著名な女性アーティストとして、2011年にミラノで、2016年にローマで個展が開催された。その数奇な人生は、フェミニズム美術史を語る上で避けて通れないものとなっている。

1611年、当時17歳だったアルテミジアは、画家の父オラツィオ・ジェンティレスキの仕事仲間であるアーティストのアゴスティノ・タッシにレイプされた。その後タッシは告訴され、有罪判決を受けたのだが、それは被害者であるアルテミジアが、親指締め具を使った拷問に耐えながらの証言をさせられ、さらに不道徳行為の告発を受けた後のことだった。一方、加害者であるタッシはというと、判決で追放を命じられたものの、一生それに従うことはなかったという。

美術鑑定家目線は捨てよう

1615-1618年頃にフローレンスで描かれたこの自画像は、鉄の棘がついた車輪にアルテミジアがもたれかかっているという構図だ。ナショナル・ギャラリーで17世紀のイタリア・スペイン・フランスの絵画を担当しているキュレーターのレティツィア・トレヴェスさんは、メール取材の中で「アルテミジアは、当館のコレクションが長年探し求めていたアーティストなのです。彼女が名高い女性アーティストであるという事実だけでなく、まず第一に、彼女の美術的な偉業を世の中に広めたいと願っています」とコメントした。

ロンドンを拠点とするアートディーラーのマルコ・ヴォエナさんは、「私たちはこれまでとは違う考え方をしなければならない時代が来ています。美術鑑定家目線はもう古いのです。自分が購入する作品が、世の中の人々にとってどんな意味を持つのかを問わなければ」と語った。ヴォエナさんによると、アルテミジアの自画像は「ヒロインの写真。インスタグラムでよく見かける自撮りに近いもの」だそうだ。

裸婦像は、もう“時代遅れ”……?

では、これまで高い評価を受けていた19世紀のアカデミックな絵画や彫刻はいったいどうなるのだろうか?その多くは、産業革命時代の欧州諸国が植民地を侵略していた頃に製作されたものであり、当時の視覚文化はいわゆる“男性目線”で支配されていた

水曜日にサザビーズが開催したオークションでは、優れた技術により製作された19~20世紀の彫刻像120ロットが出品された。白い大理石の裸婦像やアフリカ人のブロンズ像は、欧米のコレクターから見るともはや時代遅れだ。結局、このオークションの参加人数は10名未満だった。

しかし、アート・マーケットは今やグローバルなビジネスにまで成長している。上記のように閑古鳥が鳴いているジャンルでさえも、7割の作品には最終的に買い手がつく。

334,000ポンドの最高額がついたのは、“Sylvie”という名前の大理石でできた小さな裸婦像だった。プロスペル・デピネーというあまり有名でないフランス人彫刻家が製作したものだ。この最終価格は、180,000ポンドの予想額をはるかに上回るものだった。サザビーズによれば、二番目に高い落札価格は、アジアの顧客によるものだったという。

セールスルームでアドバイザーと話していた中国人コレクターのナタリー・ローさんは「中国人は段々と豊かになっており、それに伴い西洋文化へ投資したいという人も増えています。とても大きなポテンシャルがあると思うので、先手を打ちたい」と話す。

しかし、アカデミックな彫刻はニッチなマーケットになってしまったようだ。サザビーズが半年に一度開催しているオークションの最新の事例では、この手の作品は前年比で24%も価格が下がり190万ポンドの値しかつかなかった。

19世紀のエロティシズム

ロンドンでアートディーラーをしているロバート・ボウマンさんは、「この時代のアート作品には、男性目線で製作されたものが非常に多いのです。このような作風は、“19世紀のエロティシズム”と呼ばれています」と解説した。「今の世の中は、ポリティカル・コレクトネスに敏感になっています。もちろん、それ自体は正しいことなのですが、時々行き過ぎではないかと思うことがあります」とボウマンさん。

多くの人が明らかに行き過ぎだと感じたのは、1月にマンチェスター市立美術館でジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの『ヒュラスとニンフたち』が展示から外された事件だった。1896年に描かれたラファエル前派の絵画で、池に半身を浸した7人の裸の少女たちが若い戦士を水の中に引き込もうとしている。

同美術館の現代アートを担当しているキュレーターのクレア・ガナウェイさんによると、今回の撤去は、アーティストのソニア・ボイスが、#MeToo運動の一環のパフォーマンスとして実施したのだそうだ。しかし批判を浴びたため、2月には元の展示場所に戻された。

でも、#MeToo裸婦画撤去は、ちょっとやりすぎ?

「私から見ると、この作品に男性植民地主義者の価値観が殊更に強く現れているとは思えません。たとえばピカソの『アヴィニョンの娘たち』よりは明らかにマシです」。イエール大学で美術史を研究するティム・バリンガー教授はメール取材の中でこう解説した。

「アーティストとしてのソニア・ボイスは尊敬していますが、でも今回のケースは彼女も美術館側もさすがにやりすぎだったのではないでしょうか」というのが、バリンガー教授の個人的な意見だ。

売れるか否か。カギは「男性目線の精査」

先日木曜日、ウォーターハウス作の別のよく似た絵画がサザビーズのオークションにかけられた。1900年作の『セイレーン』では、船が難破して海に放り出された男性が、裸の少女を見上げている。しかし、今度は手に持った竪琴で意図的に体を隠している。ニューヨーク音楽業界の大物シーモア・ステインが自身のコレクションから放出したこの作品は、予想額が100万~150万ポンドだったが結局380万ポンド(約510万ドル)で落札された。

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「マンチェスター市立美術館のような騒動もあったみたいですが、ラファエル前派の買い手については心配していません。顧客層が高齢ですからね」ロンドンでアートディーラーをしているロパート・マースさんはこう語った。

ウォーターハウスの作品以外にも、男性目線に基づくものではないか綿密に精査した結果、その価値が大きく変動するという事例がアート・マーケット全体で発生している。ピカソでさえ、気を付けた方が良さそうだ。

© 2018 The New York Times News Service[原文:In Today’s Art Market, the ‘Male Gaze’ Is Not a Good Look/執筆:Scott Reyburn](抄訳:吉野潤子)

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吉野潤子

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