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少女の夢を守るためなら、ギャングや政治家も恐れない

The New York Times

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ダイアナ・フェレイラ・デ・オリビエラとバレエ教室に通う生徒たち。2018年6月11日撮影(Dado Galdieri/The New York Times)

小さなバレリーナたちは赤絵の具で汚した衣装を着て、市長や知事たちの前に現れた。7、8歳の少女たちが、晴れの場でなぜ血塗られたような不気味な格好をしているのだろうか?

パフォーマンスの指導をしたのは、少女たちが通うバレエ教室を主宰するダイアナ・フェレイラ・デ・オリビエラという女性だ。ことの経緯を説明するために、まずはオリビエラの少女時代を振り返ってみよう。

ダンスは辛さを忘れる麻酔のよう

ブラジルのリオ・デ・ジャネイロの北側にあるスラム街で育ったオリビエラは、6、7歳の時に母に連れられ妹たちと一緒に初めてバレエを見に行った。

堂々たるリオの市立劇場は市内有数の建築物として知られていて、観客のほとんどは白人だ。家政婦として働く黒人のシングル・マザーと、薄汚れた身なりの娘たちは、そのなかで明らかに浮いていた。

雇い主に付き添って美術館や劇場に通ううちに芸術に開眼したオリビエラの母は、割引や無料チケットを手に入れては、娘たちをそうした場所へ連れていくようになった。

ダンスに魅せられたオリビエラは、当時のことをこう振り返る。「辛いことを忘れさせてくれる、麻酔のようでした」

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Dado Galdieri/The New York Times

麻薬組織が支配するスラム街

リオ・デ・ジャネイロでは、豊かさと貧しさの両極端が至近距離で隣り合う。ある地域で1日中銃撃戦が続いていたとしても、数キロ先では何事もないかのように大掛かりな音楽フェスティバルが開催される。この2月には軍が出動するほど治安が悪化したが、イパネマとコパカバーナのビーチは相変わらずの賑わいだ。

オリビエラが育ったマンギーニョス地区はリオに点在するファベーラと呼ばれるスラム街の1つ。ここでは、警察よりも麻薬組織が力を持っている。

殺人が起きても犯人検挙はおろか、捜査すら行われないし、麻薬は人目をはばかることなく白昼堂々売買される。市民サービスもなく、ゴミは住民が道端で燃やす。

W杯と五輪で束の間の好景気が

オリビエラが2012年に体育大学を卒業した時、ブラジルには楽観的なムードが漂っていた。経済は着実に成長しており、低所得者層が教育を受ける機会も広がっていた。

2014年のワールドカップと2016年のリオ五輪開催に向けて、国を挙げての環境整備が進められ、ファベーラにも警察を常駐させ、市民サービスを行き渡らせる計画が立てられた。

地元マンギーニョスにも国立図書館が設立されて、オリビエラはここで無料のバレエ教室を開いた。

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Dado Galdieri/The New York Times

少女たちにバレエと大志を教えた

彼女は生徒たちにバレエだけでなく、志を高く持って生活を律するよう指導した。「スラムに生まれたからといって、運命が決まっているわけじゃない。努力次第で、メイド以外の職業にだってつけるのよ」。望まない妊娠に注意すること、ギャング団の少年と付き合わないことなど、厳しく言いつけた。

オリビエラの初期の生徒たちのひとり、ダニース・サレス(29)は教室を巣立ってからは、イタリア文学を学んだ。

「バレエがあるから、辛い毎日を生きていくことができました。教室がなければ、うつと薬で立ち直れなくなっていたかもしれません」

しかし、景気後退で存続の危機に……

2014年になると、ブラジルの空気は一変した。経済は縮小し始め、政治や経済のトップの汚職が次々と明るみに出た。やがて雇用を生み出していた政府プロジェクトが次々に廃止されるようになる。

マンギーニョス地区の図書館も存続の危機を迎える。これを阻止しようと、オリビエラは生徒たちとデモを行ったり市長にかけ合ったりしたが、徒労に終わった。

オリンピックが終了してから数か月後、図書館は閉館した。諦めきれないオリビエラはある計画を思いつく。

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Dado Galdieri/The New York Times

麻薬組織のリーダーに直談判も

彼女は鍵職人の協力で無人となった図書館の鍵を壊し、新しいものに取り替えた。それから、貧民街を取り仕切る麻薬組織のリーダーに会いに行った。

その一帯では、政府関連施設が閉鎖されるとすぐにギャングが占拠した。彼女は建物の「使用許可」を与えてくれるよう、組織のリーダーに頼んだのだ。オリビエラの熱意はリーダーに伝わり、これが認められた

街には暴力が蔓延し、大勢が職を失ったが、それでもバレエ教室には数十人の生徒たちが通い続けた。

少女たちのロールモデルに

タチアネ・リベイロ・バルボザ(40)は2人の娘たちにレッスンを続けさせる理由を次のように語る。「この街の外に別世界が存在するということを知ってもらいたい。でもそれ以上に、オリビエラのような強い女性を見て育ってほしい」

生徒の一人、イザベル・サンデ(15)は、政治について考えるようになったという。今はフェミニズムをテーマとしたパフォーマンスに参加しようと考えている。

「ここでは、女性の権利が語られることはありません。でも、まずはちゃんと考えて、主張できるようになりたい」

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Dado Galdieri/The New York Times

施設の再開が決まっても喜べない

今年に入って、図書館が再びオープンすることが決まった。建物には3月に暗殺された黒人の市議会議員のマリエル・フランコの名前が付けられるという。

だが、オリビエラは手放しでは喜べなかった。選挙の年に設立された図書館が、またもや選挙の年に再びオープンする。政治家たちは、選挙運動中はバレエ教室の生徒たちと一緒に写真に収まることに熱心だったけれど、選挙が終わると何もしてくれなかった。

再オープンのための開館式には州知事と市長が出席するという。これに花を添えるため、バレエ団に出演依頼がきた。オリビエラは忘れられない舞台にしてやろうと考えた。

カメラの前で政治家たちに物申す

「私たちは多くを奪われてきました。幾度も裏切られ、暴力にさらされて、身体的にも精神的にも痛めつけられてきました。毎日少しずつ死んでいくような気分です」

血塗られたような衣装の少女たちは会場に入ってくると、死んだように床に横たわった。カメラの前で待ち構えていた政治家たちは、それを見て真っ青になった。

オリビエラは手を振り上げ、力強く訴えた。「私たちは票を稼ぐための道具じゃないんです! 選挙が終わってまたここが閉館したとしても、出ていきません」

そして、生徒たちに起き上がるように声をかけた。「あなたたちは死んではいない。ただ、私たちがずっとここで血を流していることを伝えたかっただけなのよ」

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Dado Galdieri/The New York Times

© 2018 The New York Times News Service[原文:In Rough Rio de Janeiro Neighborhood, Ballet as ‘Anesthetic’ and Escape/執筆:Raphael Minder](抄訳:Tom N.)

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