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中世の貴重なレシピをYoutubeで。スペイン国立図書館の試み

The New York Times

16世紀、アメリカ大陸を征服したスペイン人が本国にトマトを持ち帰ったとき、その赤色は宮廷でセンセーションを巻き起こした。だが、地中海沿岸に自生する毒のある果実と似ていたため、トマトは長らく観賞用にとどまっていた。食用として使われた最初の記録は1755年。フェリペ5世とフェルナンド6世に仕えたパティシエ、フアン・デ・ラ・マタが著した菓子とパンの製法をまとめた料理本のなかで、ソースの材料として登場する。

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スペイン国立図書館制作の動画より。1611年にマドリードで出版された料理本。(Biblioteca Nacional de España via The New York Times)

15世紀のレシピが動画でわかる

このトマトソースを含む12種類のレシピが、スペイン国立図書館のビデオプロジェクトの一環として現代のシェフの手によって蘇った。このプロジェクトは、図書館に収蔵されている膨大な料理関連文書の認知度を上げるためのもので、文書の数は2万3千点ほどもあり、最古のものは15世紀までさかのぼる

動画には歴史家やシェフによる解説がつく。それぞれの料理が生まれた歴史的経緯や、現代のシェフが昔の調理法からどのようなインスピレーションを受けたかが語られる。

スペイン国立図書館はこの他にも、料理関連の収蔵図書のデジタル化も行なっている。このなかには200点の料理本がある。

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1906年にマドリードで書かれたレシピをもとにしたアイスクリーム。(Biblioteca Nacional de España via The New York Times)

食は、さまざまな領域を結ぶリンク

「ここには極めて充実したコレクションがありますが、それだけで来館者を増やすことはできません」。図書館のデジタル担当のエレナ・サンチェス・ノガレスは言う。「これまでも研究者には広く活用されてきました。けれども今は、ますます多くの人が食に関心を寄せている時代です。一般の人々に情報を届けるために最適な方法は何かと考えたのです」。

スペイン料理の歴史を研究しているアルムデナ・ビレガスは、自らも参加するこの企画を時宜を得たものだと評している。「食べ物は社会の変換を色濃く映し出すということが、最近ますます着目されるようになってきました。また食は、化学、生体臨床医学、農学など多岐にわたる学問領域を結ぶリンクでもあるのです」。

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有名店のシェフ、パコ・モラレスは16世紀のナス料理を再現した。(Biblioteca Nacional de España via The New York Times)

カリスマシェフが手がけた展覧会がきっかけに

スペイン国立図書館は2010年に、古文書を通して料理と食文化の歴史を振り返る展覧会を開いている。キューレーションを担当したのは、2011年に閉店した世界的人気レストラン「エル・ブリ」のシェフとして知られるフェラン・アドリア

展覧会の成功を受けて、図書館はマドリードのデザイン・コンサルタント会社トラモンターナに依頼し、昔の料理を紹介するビデオシリーズの制作を始めた。これらの動画は図書館のサイトで、英語の字幕付きで見ることができる。

トラモンターナを率いるガブリエラ・レンドは、以前はマドリードでプライベート・ディナーを提供するビジネスを展開していた。彼女とトラモンターナのスタッフは、図書館の収蔵図書からレシピを選出し、それに合わせたシェフの人選も手がけた。選ばれたスペイン人シェフは皆、伝統的な料理法を駆使することで知られている

19世紀の女性ジャーナリストによるレシピも

取り上げられている料理の一つに19世紀の豚足を使った料理がある。レシピを書いたのは料理本『新しい時代の料理(La Cocina Moderna)』の著者で、スペインの女性ジャーナリストの先駆けでもあるカルメン・デ・ブルゴス。

複数のペンネームを使い分けながら新聞記事や本を書いたブルゴスは、離婚などセンシティブなトピックについても執筆し、女性の権利向上を訴えた。多くの著書を残したが、後のフランコ政権下で全てが禁書になった。

食を通じて当時の暮らしぶりがわかる

ブルゴスの残した豚足料理のレシピの再現を担当したハビエル・エステベスは、臓物料理を得意とするマドリードのシェフ。こうした材料を使った料理には社会の底辺にいた人々の暮らしぶりが反映されているとエステベスは語る。「飢えと戦っていた人々は、食べられるところは無駄なく使いきりました。そのために創造性が発揮されたのです」。丁寧に手順を追っていく現代のレシピと違い、昔のレシピは大まかな指示しかない。エステベスはそれがかえって新鮮だと感じるそうだ。

「今の人は科学の実験のように材料をきちんと測ったりして、料理をテクニカルに捉えがちです。私はどちらかというと、試行錯誤しながら成功にたどり着くやり方の方が好きです」。

最小限の材料で、いかに美味しくできるか

アイスクリーム・シェフのフェルナンド・サエンスは、1906年に書かれたレシピを担当した。卵と砂糖で作ったアイスクリームの上にレモンとオレンジの皮をトッピングするというシンプルなものだ。

「当時の味を、お客さんにも食べてもらいたい」。そう考えたサエンスは、このレシピをもとにしたアイスクリームを、スペイン北部にある自身の店のメニューに加えている。材料はレシピに従いつつ、砂糖をキャラメル状に焦がして、焼きたてのパンを思わせる香りを出す工夫をしている。「最小限の材料で、いかに美味しくできるかというのが当時の料理の基本でした」。

国立図書館のプロジェクトに関わっている他のシェフたちと同様、サエンスは昔の調理法を知ることにとても熱心だ。冷たい飲み物が流行した17世紀のマドリードには、冬の間に山に降った雪を運び貯蔵しておく氷室がたくさんあったが、彼は今、店の隣にこうした氷室の縮小版を作る計画をたてている。

異文化が交差した歴史はアイディアの宝庫

パコ・モラレスはミシェランの星付きレストランのオーナー・シェフだ。コルドバにある彼の店「ヌール」ではイスラム教徒がこの地域を支配していた10世紀頃の古いレシピをもとにした料理を提供している。モラレスが担当することになったレシピは、彼が普段手がける料理に比べるとかなり新しく、16世紀のものだ。ナポリ王のフェルナンド1世に仕えた料理人、ルペルト・デ・ノラが考案したナス料理で、生チーズと生姜を使っている。

モラレスは次のように語る。「現代の西洋料理の世界では、みな目新しさを追うあまり過去の優れた遺産を見落としがちです。最先端と言われる調理法が、実は遥か昔から存在したという例はたくさんあるのです」。

© 2018 The New York Times News Service[原文:Old Recipes, New Format: Spain Puts Historic Dishes on Video/執筆:Raphael Minder](抄訳:Tom N.)

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