料理長を務め、仕出し業も営むクロエ・スタインさんが婚約したのは2016年9月初旬のこと。おとぎ話さながらのプロポーズをスタインさんは懐かしく思い出します。
プロポーズは宮殿の庭園で
当時、スタインさんは、データアナリストをしている恋人のディーパック・パンジワニさんとスウェーデンを旅行していました。ある日、王家の私邸ドロットニングホルム宮殿を訪れ、16世紀に造られた広大な庭園を歩いた時のこと。
見晴らしの良い展望台まで来ると、パンジワニさんはおもむろにプロポーズし始め、スタインさんを驚かせました。ただ、彼が差し出したのは、ありきたりのダイアモンドの指輪ではなく、都市公害との戦いを象徴するスモッグフリー・リングでした。
寿命が縮むほど有害な塵が入った指輪
スモッグフリー・リングとは、大気に含まれる何十万リットルもの汚染物質を圧縮して超小型の箱に格納し、透明の保護ケースで包んだ指輪です(黒い塊が中心に入った透明のサイコロをイメージしてください)。指輪の中の粒子は極めて有害で、「吸い込めば寿命が6年から8年縮まるほど」と言うのはデザインを手がけたオランダ人のアーティストでイノベーターのダーン・ローゼハーデさんです。
ロマンチックの定義は十人十色
そんな指輪のどこがロマンチックなの?と思う人もいるかもしれません。でも、スタインさん(27歳)は根っからの環境保護主義者。その指輪を受け取った喜びは今も変わりません。「結婚への第一歩と言えばダイアモンドを買うのがお決まりよね。でも、それをしたら環境破壊や労働者の搾取に加担してしまうことになる。わたしたちはそんなお決まりの道を避けることで、一点の曇りもない状態で、むしろ環境に貢献しながら結婚生活をスタートできた」
二人は2017年9月3日にニュージャージー州フレンチタウンで結婚し、同州プリンストンに新居を構えました。スタインさんがカリフォルニア州サンディエゴの健康保養施設で職を得たため、現在引越しの準備中です。
社会的責任を重視する花嫁が増えてきた
今日、花嫁の多くは指輪にこだわりを持ち、倫理にかなう、持続可能な資源を用いた指輪を選ぶ人も増えています。
スモッグフリー・リングはこのトレンドのさらに一歩先を行っています。紛争と無関係で、中立的であるばかりか、大気中の有害な塵を除去するのに一役買っているからです(なお、スモッグフリー・ジュエリーには指輪以外にカフリンクスがあり、チャールズ皇太子も所有しているそうです) 。
スモッグフリーが象徴する新しい美しさ
スウェーデンのドロットニングホルム宮殿でクロエ・スタインさんにスモッグフリー・リングを贈ってプロポーズするディーパック・パンジワニさん。Caroline Amira El Sineityさんによる撮影、提供(Caroline Amira El Sineity via Thew New York Times)
「『わざわざ汚染物資を身につける人なんている?』と最初は冗談のつもりでした」とローゼハーデさん。「スモッグフリー・リングが象徴するのは新しい種類の美しさです。ルイヴィトンやフェラーリ、ローレックスに代表される美しさではなくて、きれいな空気という美しさです」
結婚式のアイテムとして世界中のカップルがスモッグフリー・リングを取り入れようとしています。ロッテルダムに拠点を構えるスタジオ・ローゼハーデは売上高を公表していませんが、「いろんな国のカップルから依頼を受けている」そう。
空気清浄施設の副産物として生まれた指輪
それでも、最初から商品化する予定があったわけではありません。
4年前、ローゼハーデさんは出張で訪れた北京のひどい大気汚染に嫌気がさし、帰国後に「世界最大の空気清浄機」であるスモッグフリー・タワーを設計しました。タワーは、汚れた空気を1時間につき30,000立方メートルも取り込み、浄化しては大気に還元します。
バケツに溜まった汚染物質の使い道は……
プロトタイプを作ったものの、浄化の過程で溜まったバケツ何杯分ものスモッグの素を前にして、ローゼハーデさんは途方にくれました。顕微鏡で見てみると、驚いたことに半分は炭素でした。
「炭素に高い圧力をかけるとダイアモンドが生成されます。そこから連想して『じゃあジュエリーだ。みんなで共有できる個人的価値のある品を作ってみよう』と考えたのです」
世界各地に設置されるスモッグフリー・タワー
30,000立方メートルの汚染された空気を吸い込み、浄化して大気に還元するスモッグフリー・タワー。Derrick Wang氏による撮影、提供(Derrick Wang via The New York Times)
250ユーロの値札がつく指輪の売り上げは、スモッグフリー・タワーの増設に充てられます。第一号は北京に設置されましたが、今やロッテルダムやポーランドのクラクフ、中国の天津を含む都市の公園に設置されていて、この秋にはメキシコシティにも設置される予定です。インドとコロンビアも導入を検討しており、スタジオ・ローゼハーデと交渉中です。
ワインのように産地を選べるリング
公害の性質は都市によって異なることから(排ガスが要因の都市もあれば、工場排煙が要因の都市もあります)、購入者は指輪に入れる公害物質の採取地を選ぶことができます。「タワーが設置された都市でさえあれば、対応できます」とローゼハーデさん。
SMOG FREE PROJECT by Daan Roosegaarde in Rotterdam [OFFICIAL MOVIE] via Youtube
価格はダイアモンドの指輪の数分の1
ダイアモンドや他の宝石と比べて手頃な価格も、多くのカップルに評価される点です。「クロエはあまりモノに執着しないし、僕もそう。だから僕たちにぴったりな指輪だと思った。値段も普通の婚約指輪の数分の一だったよ」とパンジワニさんは言います。
懐疑的な反応も
とはいえ、スモッグフリー・リングの現代的なデザインと素材が万人受けするわけではありません。 「『何それ?』と言う目で見た人も何人かいるわ。母は私より伝統を重んじる人だから、家族代々に伝わる指輪をもらえば良かったのに、と思ったみたい」とスタインさん。
それでもローゼハーデさんには、婚約指輪に勝る使い道は考えられません。そして、いつかプライベートでも婚約指輪として使いたいそう。「僕は独身で相手がいませんが、いつもリングを持ち歩いています。今のところ、それを使って新しい世界を提案しているだけですが、いつ出会いがあるか分かりませんからね」とローゼハーデさんは笑います。
© 2018 New York Times News Service[The Wedding Ring With a Dirty Little Secret/執筆:Alyson Krueger](翻訳:Ikuyo.W)
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