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2045年は「知縁」 で結ばれてゆく /林千晶さん[後編]

LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

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来るべき日に向けて今できることを明確にして、明るい未来を切り拓くための連続インタビュー[LIFE after 2045]。前編中編に続いて林千晶さんに、より理想的で開かれた未来の「働き方」と「生き方」について伺いました。

一か所に縛られることは意味がない

——これまでの話を振り返って、林千晶さんにとっての2045年は、どのような“働き方”が主流になってゆきそうですか?

林:前回、AIの進化で単純作業や肉体労働から人間が解放されることで「天職は一生にひとつではなくなる」と言いましたが、もっと言えば「2045年の“働き方”は、天職ならぬ“点職”になる」と思います。

「点職」とは、私が友人の石川善樹くんと話していた時に生まれた造語ですが、少し説明しますね。個人がひとつの職種に縛られなくなると、仕事はよりプロジェクト単位になってゆき、様々な仕事を並行して手がける……そんな“働き方”の実現を「点職」と呼んでみました。

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2045年の「働き方」は「点職」になる

仕事がひとつに限定されなくなると、住まいに対する姿勢も変わってきます。「家を持つ」ことに執着することもなくなるでしょう。住宅ローンという借金を負うと、その返済がのしかかり、働くことも強制的になる。一方、今の若い子たちは、車や家などの所有には興味も示さず、興味のあるテーマや関わりたい地域を見つけて、自由に仕事も住まいも優先させる方向に、すでに動いています。

様々な生き方をするようになった若者の中には、移動型住居で暮らす人も出てくるかもしれません。実際、「100BANCH(ひゃくばんち)」という35歳以下の挑戦を支援するプロジェクトでは、「バスハウス」という取り組みに出会いました。彼らはバスを改造して、キャンピングカーよりも大きくて機能性が高い“動く家”にして、「超移動社会」を旅するように生きていく未来を提案しています

たぶん2045年には、一か所の土地に縛りつけられること自体が“doesn't make sense(意味がないこと)”になってゆくでしょう。望むならば、適切な季節やタイミングに、ふさわしい場所に移動して、その地域で働き、暮らすことも可能になります。そういうノマド的なライフスタイルと、パーマネントにその場所にある学校や病院、生活をサポートする様々な施設などが、よりフレキシブルに組み合わさっていったら、最高ですよね。

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「地縁」や「血縁」ではなく「知縁」 で結ばれてゆく

——そういう暮し方の可能性を広げてゆくことが、都会と地方の格差や現代社会の様々な諸問題を解決する手掛かりになるかもしれませんね。

林:そうなると、コミュニティも旧来の「地縁」や「血縁」だけで結ばれるのではなくて「知縁」の関係性も広がりそうです。これも造語ですが、年齢や生まれた土地に関わらず、趣味が合って、価値観の近い人たちのつながりを指します。そうした仲間がコミュニティとして互いに助け合い、補いあって暮らしていければ、血縁としての家族に依拠する必然もまた、低下してゆくでしょう。

なにしろ、日本社会で見ても独身の割合は増え続けていて、旧来の「家族観」はすでに変容しています。独身の人たちに、「早く結婚しなさい!」とお説教したところで、なんの共感も変化も生まれません。ただ、人は一人で生きていくわけではなく、誰かの助けが必要なときだってあります。その時に、土地や家に縛られずに、もっと自由で多様なつながりで解決するという考え方も、今はアリなのではないでしょうか。たとえば、シェアハウスのように気のあう知り合い同士が共に暮らすなど、新しい共同体は既に色々な形で生まれています。

土地や家に縛られない、もっと自由で多様なつながり

——たしかに、私たちの両親や祖父母の代の家族像がもはや成立しえないことは、日本人の生涯未婚率の急激な上昇などのニュースからも明らかでしょう。しかし、保守的な知識人や政治家のなかには、だからこそ「家族の復権」を声高に訴える向きもありますよね。

林: 「家族」という価値観を否定したい訳ではありません。だけど「家族」という単位のみで社会をデザインする解法は、もう限界ではないでしょうか。地縁や血縁以外の結びつきで、新しいファミリーを形成する取り組みは増えてほしいし、生活を構成する単位や手段も、より多様になってほしいと思っています。

そうやって、各自の能力が活かされながら幸福に暮らせば、法律的な婚姻の意味合い自体も、変わっていかざるをえないでしょう。

ベッポじいさんの働き方に学ぶこと

——では最後に、今回の一連のお話を補強するような参考文献を1冊、挙げていただけますか?

林:やっぱりミヒャエル・エンデの『モモ』(岩波少年文庫、2005年)かな?

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登場人物のひとり、道路掃除夫のベッポじいさんのエピソードが、理想的な“働き方”を考えるうえで、印象的でした。

話のなかで「時間どろぼう」の灰色の男たちに捕われたモモを取り戻そうとしたベッポじいさんが、男たちから 「彼女を返す代わりに、十万時間を貯蓄しろ」と言い渡されます。交換条件に応じたベッポは、無我夢中で道路を掃除しはじめます。だけど、いわゆる「業務」として道路を掃いてゆくと、どっと疲れて1日が終わってしまう。でも、それが「業務」になる前、ひと掃きひと掃きを彼は楽しんで働いていたわけですね。そのときは道行く人との会話もあったし、喜びもあったからそこまで疲れなかった。

「べき論」に支配された「業務」と自主的な行動とでは、仕事の中身は同じでも、結果として得られる充足感が大きく異なる……それって、すごくわかる気がしませんか?

仕事が「業務」になった瞬間に、つまらなくなる

——林さんご自身が思い描く理想的な“働き方”が、ベッポじいさんの一件に集約されているのですね。

林: 『モモ』って本当に、読むたびに驚きがある本です。そもそも「時間どろぼう」という発想自体がすごい! 人間にとって究極の選択は、有限で増やすことも遅らせることもできない「時間」を何に使うのか、だと思うので。生きることの全ては、時間に帰結すると思っています。

作者のミヒャエル・エンデって、未来からやって来た宇宙人みたいなところがありますよね。 彼自身が「時の神様」なのかと思うくらい、ブッ飛んだ発想がこの本には込められている。同時代に生きていた人だとは思えません。

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——「人事査定をAIが下す」ようなケースは、ややもすると「時間どろぼう」的な事態を招きかねないと?

林:そうですね。ただ人間にはどうやってもなくせないバイアスがあるものなので、AIがそれを可視化して、わかりやすく教えてくれるというメリットはあるかもしれません。感性のバイアスが可視化されることで、それを修正したり補強できるのならば、感情のないAIとだからこそ実現する、人間と機械の新しい共生関係が生まれそうです。けれど、AIが最終判断するものではない。そこの手綱は、手放してはいけないと思う。

AIって「おせっかいで頭のいい両親」みたいな存在かも?

林:たぶんきっと、「予定どおり生きている人」なんてほとんどいない。「まさかこんな仕事をするとは思っていなかった」とか「まさかこの人と出会って結婚するとは」とか、人生は「まさか」の積み重ねでしかない。でもAIは、そこに確率論を持ち込んでくる。つまりAIって、世間で言うところの「常識」を示してはくれます。だけど、それ以上でも以下でもない。

気がつくと私は、確率論や「常識的な進路」に逆らって、自分で自分の会社をつくり、自分が面白そうだなと思うことと真剣に向き合ってきました。人生って、いつかは終わる夢みたいなものだと捉えています。だとしたら、自分がやりたいことをやればいい。それでどんな結果になったとしても、夢なら怖くないかなと思って。 そういう意味でも、AIが示してくれる提案とは、当面、過去の経験に基づいてから一番“良かれ”と思えるアドバイスをしてくる「おせっかいで頭のいい両親」みたいなイメージです(笑)。[了]

林千晶(はやし ちあき)さん/株式会社ロフトワーク代表取締役
早稲田大学商学部、ボストン大学大学院卒。花王株式会社を経て、2000年にロフトワークを起業。Webやビジネス、コミュニティなどのデザインを総合的に手がける。デジタルものづくりカフェ「FabCafe」や、森林再生を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」なども運営。

ダイバージェンスの先に広がる新しい働き方/林千晶さん[前編]

シンギュラリティを迎えると、私たちの仕事/働き方はどう変わるのでしょう? ロフトワーク林千晶さんに聞きました。

https://www.cafeglobe.com/2019/01/singularity3_1.html

きっかけを運んでくれるAIだったらウェルカム!/林千晶さん[中編]

シンギュラリティをひかえて、AIの進化と台頭によって“なくなる仕事”とそれ以上の脅威について、林千晶さんにインタビュー。

https://www.cafeglobe.com/2019/01/singularity3_2.html

聞き手/木村重樹、撮影/中山実華、構成/カフェグローブ編集部

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