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出自ではなく「道具を使いこなせる人」が評価される時代へ/久保友香さん[中編]

LIFE after 2045/シンギュラリティと私の未来

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2045年、人工知能(AI)と人間の能力が逆転する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えたら、私たちの仕事や暮らしはどう変わる?

久保友香さんを迎え、前編では、ギャルメイクのためのツールやテクニック「シンデレラ・テクノロジー」にフォーカス。今回は、そんな彼女たちが大切にしている“バーチャル・アイデンティティ”について話を伺いました。

「モテたい」からではなく、理解者を見つけたくて「盛る」!

——前回は、久保さんが「日本的な美意識」の解析に向かわれた経緯と、さらにそこから現代日本の女の子たちが、自分自身の顔を(本来の姿とはまた別の)ある種の理想像に近づけてゆく行為が、いわゆる「盛り」というタームに集約されている話を伺いました。

そこで今回は、そうやって「盛る」ことで彼女たちが確立したアイデンティティについて、より詳しくお聞かせください。

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久保友香(以下、久保): そもそも人はなぜ“バーチャル・アイデンティティ”を持とうとするのか考えてみましょう。私の研究対象は、アイデンティティの中でも、ビジュアルなアイデンティティなので、そこから考えてみます。

女の子たちは、今は自撮り写真をSNSに公開することはあまりないのですが、かつてはブログなどで公開していたので、なぜかと聞いてみました。男性はよく「男の子にモテたいからではないか?」と言うのですが、彼女たちに聞くと「全くモテたくないわけではない」とも言うけれど、それよりも「私のことを分かってくれる人を見つけたい」という動機が強い

よく「それって単なる自己承認欲求では?」と言われるのですが、「誰にでも承認してほしい」わけではない。よりたくさんの人々に公開すれば「その中の何人かは自分の“世界観”をわかってくれる人がいるだろう」と言います。

そんな思いから、メイクやファッションや画像加工で「盛り」、SNSでどんどん発信し、そしてそれが「真似される」ことを喜びます。「真似される」ことは評価されたことを示すサインだからです。

真似される=評価された、ということ

このようにして女の子たちはネット上で、彼女たちの言う “世界観”を共有するコミュニティを形成しています。「盛り」の目的は、女の子同士のコミュニケーションであり、異性にモテることでは基本的にありません

ここにも表れるように、女の子同士では生まれ持った「ナチュラル」な外見よりも、「盛り」によって作る「アーティフィシャル」な作品としての外見を評価し合っています。中でも彼女たちは、誰でも手に入る道具を使いこなして作品を作る人を評価し合います。このようなものづくりの能力を評価し合うところには、日本独自の匠の文化の系譜とも考えられますが、でも、「ナチュラルな外見」よりも「道具をつかいこなす」人を評価するって一般的にも真っ当なことだと思いませんか?

——“真っ当”というのは、どういうことですか?

久保:外見でも知能でも運動能力でも、あらかじめ生まれ持った能力や所与の条件だけで評価するのって、すごく原始的だと思います。だって、腕力が強い人が評価されたのって、原始時代の話でしょう? それよりは「道具を作る人」や「道具を使いこなせる人」、さらには「道具の別の使い方を発見した人」が評価されるのは、とても文明的な気がします。

そうした「日本の若い女の子」に特有な意識や価値観が、インターネットの発達と同時に、今や東アジア全般に広がりつつあります。さらに将来的には世界にも、大人や男性にも広がる可能性があると、私は思っています。

——道具を使って「盛る」一方で、美容整形で「作り直す」手段もありますね。

久保:日本の女の子たちの「盛り」の基準は常に変化している。だから美容整形のような不可逆な手段では変化に対応できず、化粧や画像処理のような可逆的な手段が必要です。基準を常に変化させることで、コミュニティの外にいる“よそ者”を入り込みづらくし、コミュニティ内の結束を強める機能もあります。常に新しいものを取り入れようとする好奇心も、彼女たちの特徴ですね。

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アジアから世界に拡大する“バーチャル・アイデンティティ”

——先ほど、女の子の「盛り」の文化が「東アジアにも広がりつつある」みたいなお話がありましたが、もう少し詳しくお聞かせください。

久保: たとえば、ここ数年、日本の女の子たちの間で韓国の「オルチャン・メイク」がはやっています。肌を真っ白に塗って、まっすぐの眉を描き、アイラインも目尻をはみだしてしっかり描き、赤いリップ、髪はシースルーバングみたいなのが「オルチャン・メイク」の典型ですね。かなり濃いお化粧で、やはり私などからみると、皆そっくりに見えます。「盛り」の一種と考えています。

「オルチャン」とは、韓国語で美男子・美少女をさすインターネットの造語で、向こうではもう10年以上前に流行った言葉です。もともと素人出演のリアリティ番組から出てきた言葉で、「もとの素顔がきれいだ」というよりは「お化粧して可愛らしくなった素人」みたいなニュアンスがあるようで、やはり日本の「盛り」と近いのです。韓国ではいったん廃れた言葉ですが、それが日本で再燃している。

「オルチャン・メイク」と「盛り文化」

——とはいえ、韓国の女の子の多数派は「盛れてる」よりも「すっぴんがきれい」な方が重要なために、 あれほど美容整形が一般市民に普及している?

久保:そうです。つまり最近の日本の女の子たちがしているような「オルチャン・メイク」は、韓国内では決して主流ではないということを、オルチャンカルチャーに詳しい女子大生のマーケッターのもーちぃさんが言っています(参考サイト:現代ビジネス)。韓国の一部の女の子がやっているそれを、日本の女の子たちがネット上で見つけて、真似し、日本の中で流行ったのだと考えられます。

今やオルチャン・メイクをする韓国の女の子が、日本語字幕をつけて、日本人のためにメイク動画をアップすることも増えています。 この現象は「韓国文化が日本の女の子に影響を与えた」と捉えることもできますが、私は「日本の“盛る”文化が一部の韓国の女の子に影響を与えた」と捉えることもできると考えています。さらに最近では「中国オルチャン」や「台湾オルチャン」という言葉もあります。要するに「日本人が取り入れる韓国っぽい「盛り」を取り入れる中国人や台湾人」……ややこしいですね(笑)。

そんな案配で、「盛り」は東アジア全域に共有されつつある。しかも交流のプラットフォームはInstagramなので、ハッシュタグの単語をGoogle翻訳して、ハングル語や中国語のキャプションをつけ、写真投稿する。言葉の壁も軽々と超えて、彼女たちは国際交流をしています

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——大人たちが「竹島問題」とか「ファーウェイ機器の使用制限」とか言って騒いでいるのをよそに、草の根レベルの文化交流はどんどん進展している!?

久保:東アジアに限らず、たとえばフランスなどにも古くから、日本の「盛る」文化が好きな女の子が一部にいます。どうやら「Cawaii(カワイイ)」という、ナチュラルな外見ではなく、人為的に作る外見を評価する価値観に共感するみたいです。それが日本のアニメやコスプレ文化と融合している場合あります。

以前、私の研究に興味を示されたフランスの化粧品メーカーの方と話をしました。彼女いわく、「かつてのフランス人は頑固な個人主義者だったけれど、最近少しずつ変わってきた」そうです。

昔のフランス人女性は若い頃の写真を居間にずっと飾っていて、「あの頃には戻れない」みたいなブルーな気持ちになる人が多かった。だけど最近では、それよりも「今の友人たちと撮った写真を大事にしよう」と思うようになったそうです。つまりSNSの普及がフランス人女性にも変化を促し、過去の自分の栄光よりも今現在のコミュニティを重視するようになったと。

「古い自分の写真をいつまでも飾っている」というのは、価値基準が変化していないことを表します。でも、日本人女性ってそうじゃない。昔の自分の写真を見たら「この服、格好悪い」とか「前髪ダサい」とか、そんな感じでしょう。今の自分が一番好きだと言う人が多い

その化粧品メーカーの方は、「SNSによってフランス人女性もコミュニティを意識するようになり、もともとコミュニティ主義の日本人女性に、近づいてきているのではないか?」と仰っていました。

世界の女性が、日本人女性に近づいている!?

——たとえば将来……それこそ2045年には「全世界が日本人女性化してゆく」みたいな?

久保:翻って、今日のテーマである「シンギュラリティ」時代の女性のあり方を考えてみると、今後は「現実空間にある物質としてのリアルな自分」と「バーチャル空間にある情報としての自分」……この2つを臨機応変に使いこなす必要が増してゆき、さらには後者の「バーチャル空間にある情報としての自分」が、より大きな影響力を持ってゆく、と私は予想します。<後編につづく>

久保友香(くぼ ゆか)さん/メディア環境学
1978年生。2000年慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。2006年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、 博士(環境学) 。2014年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員。目下、日本の女の子の「盛り」カルチャーと、それを支援する「シンデレラ・テクノロジー」について研究中。

聞き手/木村重樹、撮影/中山実華、構成/カフェグローブ編集部

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