シドニーのある水族館に、若いペンギンのコロニーがありました。そこにいるどのカップルもあまりいい親ではありませんでした。ただひと組を除いては。
ペンギンの親たちはたいてい巣にとどまらずに、泳ぎにいったり遊びにいったりしました。温められなかった卵は冷たくなるとかえらないのです。これは経験の浅いペンギンにはよくあることで、水族館側は気にしていませんでした。次の繁殖期には状況がよくなっているでしょうから。
シーライフ・シドニー水族館提供画像、スフェンとマジック、そしてスフェンジックと名付けられたひな。自分たちに関して政治的論争を知るはずもない2羽はオーストラリアにとってより大きな意味を持つ存在になった。 (Sea Life Sydney Aquarium via The New York Times)
しかし、あるカップルだけはちがっていました。スフェンとマジックはコロニー唯一のオスどうしのペアというだけではなく、注意深くきちんと卵を温めるすばらしい親鳥になりそうでした。2羽は大きな巣を作っては、いつも座っていました。
好奇心をかきたてられた水族館のマネージャーは2羽ににせの卵を与えました。彼らはまるで本物のように扱いました。とくに忘れっぽい異性ペンギンカップルが卵をひとつ放りっぱなしにしていたのを見て(めすは卵を2個産むのですがふつうは1個だけがかえります)、飼育チームはそれをスフェンとマジックにあげることにしました。
2018年10月にその卵が孵化しました。同性カップルを親にもつこのペンギンのひなは、シドニー湾の観光スポットの一角にある氷の家でよちよち歩きをしています。
ペンギンにできるなら人間にだって
スフェンとマジックがカップルになったとき、ちょうどオーストラリアは同性婚の合法化にからんで大議論中でした。人間の同性婚の議論は、個人の信条や宗教面での緊張を生みました。そんな人間の争いを知ることもないこの2羽のジェンツーペンギンは、同国にとってより大きな意味を持つ存在になりました。もしペンギンのコロニーにできるならば、人間の国にだって可能なはずです。
オーストラリアの陸海両方には危険な動物が多く棲んでいることは知られています。世界でもっとも危険なへびやくももいますし、ボディビルダーのようなカンガルー、サーファーの周りを泳ぐホホジロザメもいます。しかし、突如として、オス同士のペンギンカップルが国一番のセレブ動物の座につきました。水族館の飼育員たちはそれを喜んでいます。
水族館のペンギン担当長のティッシュ・ハナンさんは「ペンギンはみんなに好かれています。ちょっと生意気なところがいいですよね」と話しています。
「サメとは違います。ペンギンにいやな思いをさせられた人はいませんからね」というのは、ハナンさんの下で働くペンギン担当上級飼育員のエイミー・ロウリーさん。
Image via Shutterstock
2羽のなれそめ
ペンギンの飼育係たちは、ペンギンがどうやって相手を選ぶのかわからないと言います。ことに、マジックとスフェンほど異なる2羽がどうしていっしょになったのかは謎だそうです。
マジックは3歳。シーライフ・メルボルン水族館で生まれました。興奮しやすくおふざけが好き。おもちゃや輝くものならなんでも追いかけます。水族館のお客さんにも愛想をふりまきます。
シーワールド出身のスフェンは6歳。背丈が高く、大きなくちばしをしています。もの静かでまじめ、おもちゃや人間にはあまり興味を示しません。
しかし、スフェンとマジックが夏にシーライフ・シドニー水族館で出会ったときに、2羽がしたことは明らかでした。まず、ジェンツーペンギンのやり方にのっとっておじぎをし合いました。
2羽は巣作り用の小石を厳選して、相手へ差し出します。どちらかが相手に興味がなければ、くちばしで小石を押し戻して受け取りません。でも、スフェンとマジックはお互いに相手からもらった小石を気に入ったのでした。ロウリーさんによると、これは「合意」なのだそうです。
そしていっしょに声をあげて鳴きます。そばに立って、おたがいの鳴き声を知るまで鳴き続けるのです。
「マジックは自分の場所に立ってスフェンを探していました。鳴いて呼ぶとスフェンは飛んできてマジックにちょこっとおじぎをして、いっしょに鳴くんです。そうやって絆ができて、2羽はお互いを選んだんです」とハナンさん。
このときにはコロニーにいるほかの33羽はまだ相手を選んでいるところでした。若いペンギンはパートナーを選ぶのに時間がかかるのです。
ハナンさんいわく、「若いペンギンたちはちがう相手の鳴き声を聞き分け、いろいろな相手におじぎをしていきます。でも、スフェンやマジックはそんな行動をとりませんでした。コロニーのほかのペンギンには興味を示さなかったのです」
というわけで、2羽が卵のために巣作りを始めたのも驚くべきことではありませんでした。ハナンさんはこう言います。「彼らが小石を集め始めると思っていました。そしてきっとベストの巣を作るだろうともね」
見捨てられた卵が与えられたとき、スフェンとマジックは交代で28日間卵を温めました。
水族館の人気者に
ペンギンの飼育係の中で話し合いが行なわれました。
「ペンギン飼育担当チームで話し合ったのですが、反対者はひとりもいませんでした」とロウリーさん。「一緒になりたいペアがいたら、それでいいじゃないかって」
飼育チームはオスどうしのペンギンが親になると水族館のトップに伝えましたが、問題はありませんでした。
水族館は、2羽がお互いに向けて鳴き合っている動画を発表しました。小石で巣作りをしている動画もあります。いまではこの2羽を目当てに来る訪問客も多く、スフェンとマジックがどこにいるのかとツアーガイドに尋ねます。
「gay(ゲイ)」という言葉を使うことに反対する人もいました。
「以前は『unnatural(不自然)』という言葉がよく使われていましたね。もしかしたらたんなる友人かもしれないので、ゲイと呼ぶべきではないっていうことで」と、水族館のPRマネージャーのサマンサ・アントウンさんは述べています。
ペンギンの飼育係は、氷の上には政治は持ち込まないそうです。「うちのペンギンにはどんな関係も禁止しません」とロウリーさん。「愛は愛ですからね」
そしてひなが産まれた!
シーライフ・シドニー水族館提供画像、スフェンジック。オス2羽に育てられているスフェンジックの性別はまだ不明。(Sea Life Sydney Aquarium via The New York Times)
ジェンツーペンギンがいい親になれるかどうかの第一の兆候は、卵が孵化してひなが少しずつ殻を割って出てくるのに気づけるかどうか。この過程は何日もかかることがあります。スフェンとマジックはすぐに気づきました。
「(殻から)頭が出たら、ひなは親鳥に鳴き、話し始めます。マジックとスフェンはすぐに気づいて、孵化する前から卵に向かって鳴き始めていたんですよ」とハナンさん。
ひなは、ある金曜日に産まれました。いまのところはスフェンジックと呼ばれています。体重は91グラム(3.2オンス)。コロニーの卵のうち、(この繁殖期に)孵化したのはこれだけでした。
最初の数か月間は、ひなは親鳥のもとから離れません。スフェンとマジックはひなに餌をやり鳴いてあげ、夜は寝床に入れてあげます。ひなは親鳥の下で眠るとき、親鳥の方に顔を向けている必要があります。親鳥は自分たちのくちばしで、ひなのポジションを直してあげるのです。
カップル間の問題は年齢差なんて、人間みたい
ほかの親鳥カップルと同じように、スフェンとマジックにも問題があります。それはだいたい年齢差によるものでした。
「マジックのほうが若いので、最初の数日間は親業をなまけようとしていましたね。ときどき、スフェン、えさをやっといて、という感じで、泳ぎにいってしまったりね」と、ハナンさんは話してくれました。
しかし、少しずつマジックも親業を担当するようになりました。マジックがひなにえさをやるとき、スフェンは横にいて彼らに鳴いてあげます。
「スフェンはマジックを励まそうと鳴くんです。するとマジックには自分がちゃんとやっていることがわかるんですね」と、ハナンさん。
いまではひなは生後3か月、ほとんど成長しました。まだ決まった名前はなく、性別もわかりません。ペンギンの生殖器は体内にあるので、成鳥になったときの血液検査で判明するのです。オリエンテーションやアイデンティティはスフェンジックにとっては急ぎの問題ではありません。
先日のある朝、マジックはコロニーのほかのペンギンたちと遊んでいました。スフェンはクレイシュ(ひな鳥ばかりが集まった一種の保育場所)にいて、スフェンジックの世話をしていました。リタというペンギンが近寄ってきたとき、スフェンは羽をはばたかせ、くちばしで軽くリタをつつきました。まだ性格が形成されつつあるスフェンジックといえば、氷を食べるのに夢中でした。その日のランチは、イワシとイカでした。
子どもを育てあげる能力は人間にもペンギンにもある
飼育チームはスフェンジックにからんだ政治は念頭にないと話していますが、スフェンジックが訪問客のインスピレーションになっていることは感じています。
「ペンギンにはメスであろうとオスであろうと、ひなを育て切る能力が生まれつきあります。それは覚えておいてほしいですよね。わたしたちも同じですから」とハナンさんは話しています。
コロニーのペンギンたちは、次の繁殖期にむけて新しいパートナーを探しています。でも、スフェンとマジックはずっと一緒。最近、スフェンジックが泳ぎ始めました。スフェンとマジックは、すぐ飛び込めるようにとそばで見守っています。
©2019 New York Times News Service[原文:Male Penguins, and Baby Makes Three/執筆:Nellie Bowles](翻訳:ぬえよしこ)
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