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米国『VOGUE』のクリエイティブを担うグレース・コディントンーー。彼女の魅力は映画1本に収まりません。

映画『プラダを着た悪魔』は、米国『VOGUE』のアナ・ウィンター編集長(以下アナ)をモデにした強烈なキャラクターをコミカルに描き出し、ファッションに興味のない人にもアナを広く知らしめました。

一方、その後公開されたドキュメンタリー『ファッションが教えてくれること』はアナ本人に密着し、『VOGUE』の裏側をより詳細に映しだしていました。その中でアナの重要スタッフとして主役級の存在となっていたのが、米国『VOGUE』のクリエイティブ・ディレクター、グレース・コディントン(以下グレース)です。

映画化の構想が配給会社より流出

このグレースを主人公とした映画の構想が練られていたことが、意外なところから発覚しました。

昨年末にソニー・ピクチャーズがハッキング攻撃を受け、いろいろな映画やセレブリティの情報が流出しましたが、その中で同社役員のメールから、グレースの回顧録『Grace:A Memoir』(邦訳:「グレース〜ファッションが教えてくれたこと〜」)の映画化というアイデアが見つかったんです。

そのメールによると、彼女の魅力は映画1本には収まらず、TVドラマシリーズにもできそうだというほどです。

グレースとはどんな人物で、その回顧録が映画化されればどんなものになりそうなんでしょうか?

アナが法皇なら、グレースはミケランジェロ

1941年生まれのグレースは10代で英国VOGUEのモデルとなり、ヨーロッパの『VOGUE』や『ELLE』といった主要ファッション誌の表紙を飾るなど華々しいキャリアを重ねていきました。

ですが、交通事故での大きなけがが転機となり、1968年に英国『VOGUE』の編集者に転身します。子どもの頃からのファッションへの愛とモデル時代に培った人脈を活かし、フォト・エディターとして19年間英国VOGUEで評価を高めていきました。アナとの関係は1970年代、アナがまだ『ハーパース・バザー』のジュニア・エディターだった頃にまでさかのぼります。

グレースにとって次の転機が訪れたのは1988年、アナが米国『VOGUE』編集長に就任したときのことです。その頃グレースは米国に移って「カルバン・クライン」のデザイン・ディレクターを務めていましたが、畑違いの仕事であまりうまくいっていませんでした。

そこでアナのオフィスに編集長就任を祝う電話をかけつつ、自分を使ってみる気があるか聞いたところ、ほとんどふたつ返事で承諾されました。当時米国『VOGUE』は今とは違う退屈な雑誌で、それを一緒に改革できる力強い右腕が見つかったのはアナとしても願ってもない幸運だったんでしょうね。

それ以降、アナとグレースのパートナーシップは四半世紀以上続いています。雑誌『TIME』ではその関係を「アナ・ウィンターが法皇なら、グレース・コディントンはミケランジェロ。年12回、(バチカンにある)システィーナ礼拝堂の新鮮な姿を描こうとしている。」と表現しています。日本風に言えば、大女将と大番頭という感じでしょうか。

『ファッションが教えてくれること』でも、アナの無理難題に丁々発止で対応し、悩みながらも鮮やかに答えを出していく姿が捉えられています。アナもこの映画の中で「私は、自分がグレースのように(ファッションにおいて)起こる変化を感じ取れると思ったことは一瞬たりともありません。誰も彼女のようにビジョンを具現化したり、ファッションの方向性を理解したり、良い写真を撮ったりはできません。」と絶賛しています。

回顧録をさらに深める映画、脚本はアビ・モーガン?

そんな根っからの表現者であるグレースは、『ファッションが教えてくれること』まではセレブリティ扱いされることをむしろ嫌っていた節があります。が、映画のPRをアナから任され、人前でまとまった話をする機会を持つうちに、回顧録を書いてもいいと思うに至ったそうです。

『Grace:A Memoir』には、彼女の生い立ちからモデルとして、編集者としてのキャリア、第一線のデザイナーやカメラマンとの交友録、アナ・ウィンターとのパートナーシップなどが生き生きと描かれています。それまであまり表に出てこなかったグレースの貴重な回顧録に、ソニー・ピクチャーズが目を付けたのも納得です。

グレースの思想や背景が描かれた作品を

流出したメールの中で、ソニー・ピクチャーズの役員アダム・ノース氏は、当時のエイミー・パスカル会長宛にグレースを主題とした映画製作を提案し、こう書いています。

「この本に描かれた世界は、ロンドンやパリの60年代・70年代、ニューヨークでの『VOGUE』の切り盛り、アナ・ウィンターとの関係、などなど非常に魅力的だ。映画として面白い場面や、優れた登場人物を描ける可能性に満ちていると思う。」さらにもし映画化できるなら、回顧録をなぞって淡々と出来事を並べるだけでなく、個々のクリエイティブ表現に至ったグレースの思想や背景がわかるような踏み込んだ内容にしたいとも書かれています。

映画化構想はアイデアだけでなく、スタッフもある程度検討されていたようです。ノース氏はメールの中で、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』などで知られる脚本家のアビ・モーガンが参加してくれそうだと書いています。さらに、ストーリーになる要素が非常に多いのでTVドラマシリーズにもできそうだが、グレース本人がTVには乗り気でないらしいともしています。

グレースの回顧録は、日本語版・英語版ともに日本で入手可能です。ノース氏が評価したように内容が興味深いだけでなく、グレース自身によるファッショナブルかつ温かみのあるイラストや素敵な写真も満載で、ついつい読み進んでしまう内容です。

その後このアイデアが進展したのかどうかはわかっていませんが、もし本当に映画になるならどんなものになるか、とても楽しみです!

Fashionista

photo by Getty Images

(福田ミホ)