ニューヨーク市のバーをダンス禁止にし、レイ・チャールズなどのミュージシャンの活動を制限し、フランク・シナトラをニューヨークから遠ざけた、古めかしい法律がこのほど廃止される。

「キャバレー法」と呼ばれるこの法律は、禁酒法の時代に潜り酒場を取り締まるために作られ、キャバレー営業の許可をとっていない店舗での音楽の演奏やダンスを禁止する。演奏禁止の項目はすでに廃止されているが、来店者がダンスをすることは違法となっている。

ナイトライフの充実したニューヨークのイメージとは相容れない、古色蒼然たるこの法律。これまで何度も廃止の動きはあったものの、しぶとく生き残ってきた。

そして10月31日、この法律の廃止を求める法案を可決するため、ニューヨーク市議会で投票が行われる。廃止に向けて尽力してきたのがブルックリン区選出の市議会議員のラファエル・エスピナル氏だ。ブルックリンでは近年新しいバーやクラブが数多くオープンしており、キャバレー法に反対する活動家が多い。彼らに後押しされているエスピナル氏は、廃止に必要な26票は確実だと見ており勝利を確信している。

認可を受けている店は少ない

ニューヨークには約25,000店の飲食店があるが、そのうちキャバレー営業の認可を受けているのはたったの97店だ。許可を取るにはいくつもの役所の承認を得なければならず、時間もお金もかかる。そもそも申請できるのは、商業地区にある店だけだ。

ジュリアーニ元市長の時代を最後に、この法律をもとにした取り締まりは減ったが、法律が存在する以上、バーやクラブのオーナーたちは常に罰則に怯えながら営業せざるを得ない。その結果、踊りに行きたい人々は安全に管理された店に行く代わりに、危険なアンダーグラウンドのイベントへ引き寄せられることになる

現在の市長のビル・デブラシオ氏はこの法律の廃止に前向きのようだ。市長のスポークスマンはメールでの取材に応え、監視カメラ設置の義務化などの安全基準は残しつつも、ダンス禁止の法律自体は無くす方針だとした。

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(Holly Pickett/The New York Times)

抑圧されてきた各時代の音楽文化

キャバレー法は1926年に制定され、許可がない店での楽器の演奏、歌唱、ダンスを禁止した。当初の主な目的は、ハーレム地区のジャズクラブの営業を妨害することだったと考えられている。白人と黒人が同じ場所に集っていたことが問題視されたためだ。

1940年から1967年までの間、ニューヨーク市はキャバレー営業をしている店の従業員と出演者の指紋の採っており、その上でキャバレー・カードの携帯を義務付けていた。カードは犯罪歴がある者には発行されず、ミュージシャンの多くが発行を拒否されたり、没収されたりした。

セロニアス・モンク、チャーリー・パーカー、ビリー・ホリデイ、レイ・チャールズなどの大御所たちも麻薬所持の履歴があったため、クラブで公演することができなかった。フランク・シナトラは指紋を採られるのはプライドが許さないとして、何年もニューヨークでの公演は控えていた。

1990年代に入り、レイブカルチャーが盛んになると、当時のルドルフ・ジュリアーニ市長はキャバレー法を積極的に利用してクラブを潰しにかかった。多くのニューヨーカーたちは、このとき初めて自分たちの街に時代遅れの法律が生きていることを知った。

音楽好きが集まるブルックリンでの反対運動

デブラシオ市長のもとでは、キャバレー法をもとにした取り締まりはさほど多くない。それでも、法律の廃止を訴えるエスピナル市議会議員は、今年に入り支援が急増したと言っている。今年の春に開催された市民の声を聞くイベントでもこの議題で大いに盛り上がった。

「なんとかしなければ、という思いで集まりました」と言うのは、ブルックリンにあるBossa Nova Civic Clubのオーナー、ジョン・バークレイ氏だ。このクラブでかかる音楽はハウスやインダストリアル・テクノが中心で、バークレイ氏もキャバレー法の廃止を訴えている活動家のひとりだ。

ブルックリンのウィリアムズバーグでバーを経営する弁護士のアンドリュー・マッチモア氏は、キャバレー法を理由に営業を妨害されたとして、市を訴えている。2013年に騒音被害の通報を受けてマッチモア氏のバーを捜査していた警察官が、ロックバンドの演奏に合わせて体を揺らしていた客を見咎め違反を言い渡したのが発端だ。

マッチモア氏は、店でかけられる音楽の種類を限定するキャバレー法は、表現の自由に反すると主張している。「ラテン音楽、電子音楽、その他いろんなジャンルがかけられなくなります。お客さんが絶対に踊らないよう、気をつけて選曲しなければなりません」。

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(Holly Pickett/The New York Times)

安全な場所で踊りたいだけ

法律の廃止を訴える人々があげるもうひとつの理由に安全性がある。クラブ経営者のバークレイ氏は、カリフォルニア州オークランドの倉庫で開催されていたイベント中に発生した火災で多くの人が亡くなった事件をあげながら、こう言った。「人々は踊るのをやめません。踊るために、非常に危険な環境に行くだけなんです」。

法律の廃止を目指す活動家たちは、公聴会での証言や、市議会議員への陳情を行なってきた。一方で騒音の心配をする地元住民の声にも耳を傾けている。

バークレイ氏は言う。「街全体がフェスの会場みたいになるということはありません。騒音規制や火災防止の安全基準など、他に規制は山ほどあります。単に音楽に合わせて体を動かす自由を認めてほしいだけなんです」。

(訳者追記:10月31日の市議会でキャバレー法廃止につながる法案が可決。市長の承認を得てから30日後に施行される)

© 2017 The New York Times News Service
[原文:After 91 Years, New York Will Let Its People Boogie/執筆:Annie Correal]
(抄訳:Tom N.)